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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

勇者に負けた魔王さま

作者: 弓川帝一
掲載日:2019/06/02

学生時代、課題として童話を一つ作ることになりまして、その時の作品を直したものです。

なんか懐かしくて勿体ないので「なろう」にあげます。

楽しんでいただければ幸いです。

 むかしむかしあるところに女性の魔王さまがいました。

 暴れん坊ばかりの魔族たちの女王、彼女は魔族の中で最も強く、そして最も美しい方でした。

 彼女は魔族たちを愛し、とても頑張ってよい国を作りました。


 しかし、ある日人間が戦争を仕掛けてきたのです。

 理由は勇者と呼ばれるとても強い英雄が生まれ、これを機に天敵である魔族を倒そうとしたのです。


 国民である魔族たちと魔王さまは必死に戦いましたが、勇者には魔族が苦手とする光の力があり、全ての魔族は倒されてしまいました。

 ただ一人魔族の中で最も強い魔王さまは生き延びることが出来ました。

 しかし、そこには自分の愛する国民、魔族はもうこの世のどこにもいません。


 誇り高い魔王さまは決して涙を流しません。

 それでも、痛くて仕方がありません。

 戦争で負った体の傷が治っても、痛くて仕方がなく、耐え続けるしかありませんでした。


 そしていつしか自分たちをこんな目にあわせた勇者への怒りから、魔王さまは復讐をするための旅に出ました。



 ◇



 勇者を倒すためには、光の力を何とか克服しないといけません。

 そのため同胞である魔族ではなく、人間の協力者が必要でした。

 魔族を滅ぼした人間が魔王さまは大嫌いでしたが、それ以上に復讐を成し遂げたかったのです。

 人間の英雄である勇者を倒すことに賛同してくれる人間、そんな者がいるとは思えません。

 しかも、勇者を倒せるぐらいに強い人でなくてはなりません。

 それでも、あきらめるわけにはいかない魔王さまは人間の女性に化けて人が暮らす場所へとやってきたのです。


 魔王さまはたくさんの人が居る街に向かいました。

 人が多いほど色々な者がいる、勇者を倒そうとしてくれる人もいるかもしれない、そう考えたのです。

 勇者を倒すには少なくとも魔王である自分より強い人でなくてはなりません。

 勝てたら願いを叶えること、それを条件に決闘し、自分を打ち倒せる人を探すことにしました。

 こうして魔王さまは強そうな人に声をかけ始めました。


 一人目は鋭い剣を持つ剣士でした。


 「こんにちは、剣士さま。一つ私と勝負をしてくださいませんか? もしも私に勝てたらあなたの願いをなんでも叶えましょう。しかし、一つだけ私の願いを叶えて欲しいのです」と魔王さまはお願いします。


 剣士は答えました。

 「あなたほど美しい人の頼みだ。よかろう、私が勝てば私の妻になって欲しい」

 そして自慢の剣を抜きました。


 結果は魔王さまの圧勝でした。

 剣士は折れた剣を呆然と見て、すたこらさっさと逃げていきました。


 二人目は炎を操る魔法使いでした。


 「こんにちは、魔法使いさま。一つ私と勝負をしてくださいませんか? もしも私に勝てたらあなたの願いをなんでも叶えましょう。しかし、一つだけ私の願いを叶えて欲しいのです」と魔王さまはお願いします。


 魔法使いは答えました。

 「君ほど綺麗な人の頼みだ。いいでしょう、僕が勝てば僕のお嫁さんになって欲しい」

 そして自慢の炎を放ちました。


 結果は魔王さまの圧勝でした。

 魔法使いはかき消された炎を呆然と見て、すたこらさっさと逃げていきました。


 こうして三人目の騎士、四人目の武闘家、五人目、六人目と戦い続けていくうちに魔王さまの噂が広まり、多くの強者が魔王さまに挑みました。


 しかし、結果は全て魔王さまの圧勝で終わってしまいました。

 魔王さまはひどく落ち込みます。

 自分の望みは叶わないのではないかと、とても不安になったのです。


 そこへ、百人目の男が現れました。

 その男は一人旅をする傭兵でした。


 「こんにちは、傭兵さま。一つ私と勝負をしてくださいませんか? もしも私に勝てたらあなたの願いをなんでも叶えましょう。しかし、一つだけ私の願いを叶えて欲しいのです」と魔王さまはお願いします。


 傭兵は答えました。

 「わかった」

 と、それだけ。


 結果は魔王さまの勝利でした。

 しかし、傭兵は今までの誰よりも強く、もう少しで魔王さまに勝てそうでした。

 魔王さまはとても残念に思い、この傭兵をあきらめることが出来ませんでした。


 魔王さまは傭兵に話しかけます。

 「傭兵さま、あなたならばもう少しで私の願いを叶えれる力を持つでしょう。そこで、私があなたを私に勝てるほど鍛えるのはいかがでしょうか? その時にこそ、あなたの願いをなんでも叶えましょう」と魔王さまはお願いします。


 傭兵は答えました。

 「わかった」

 と、それだけ。


 その言葉に魔王さまはとても喜び、こうして魔王さまは傭兵を鍛え始めたのです。



 ◇



 月日が経ち、ついに傭兵は魔王さま以上の強さを手に入れました。

 そして魔王さまは勇者を倒してほしいという願い、その理由、自分が魔王であること、その全てを告白しました。

 傭兵はとても驚いていました。

 ここで魔王さまは傭兵が自分の願いを拒絶することも考えていました。

 すでに魔王さまより強い傭兵に倒されることも考えていました。

 それでも、魔王さまは全てを伝えたのです。


 傭兵は答えました。

 「わかった」

 と、それだけ。


 それを聞いた魔王さまはとても喜び、先に傭兵の願いを叶えようとしました。

 しかし、傭兵は願いを口にせず、魔王の願いを優先しました。

 魔王さまは不思議に思いましたが、気を引き締めます。

 ついに、復讐の時が来たのですから。


 魔王さまと傭兵は勇者に戦いを挑みました。

 流石に勇者は強く、魔王さまは少なくない傷を負い、傭兵も気絶していました。

 しかし、ついに勇者は倒れ、魔王さまは復讐を成し遂げました。


 魔王さまは嬉しくて仕方なく、大きく笑い続けます。

 いつまでも笑い続けれるかとも思えましたが、それ以上にこれからのことを考えると、どんどん心は空っぽになっていきました。

 全て終えた魔王さまはもう何も自分の望みはありません。

 このまま死んでもいいかな、とさえ思いました。


 しかし、傭兵の望みは叶えていません。

 そのことは決して忘れていません。

 傭兵は魔王さまの恩人であり、魔族がいない魔王さまにとっての唯一の仲間です。


 何よりこれまでの日々を共に過ごし、女である魔王さまは傭兵を男として見るようになっていたのです。


 そこへ、勇者を倒され怒り狂う人間たちに襲われました。

 幸いまだ下手人である自分たちの姿は見られていません。

 魔王さまは傭兵を連れ、逃げ出しました。


 魔王さまは何とか人間たちの目を逃れ、傭兵の手当てをしました。

 しかし、このままでは人間たちの追ってが必ずやってくるでしょう。

 魔王さまは傭兵の望みを叶えれないことを謝罪し、気絶している彼の下を去りました。


 そして自ら人間たちに捕まったのです。

 勇者を倒したのは魔王である私一人であると。



 ◇



 捕まった魔王さまを人間たちは何度も殴り、何度も蹴りました。

 よくも勇者さまを、よくも我らの英雄を、と。

 ぼろぼろにされた魔王さまですが、体の傷があってもちっとも痛くありません。

 毎日傷をつけられても、魔王さまは小さく笑っています。


 あの時守れなかった仲間を、今度は守れたのですから。


 そうした日々が過ぎ、あっという間に魔王さまが公開処刑される日が来ました。

 勇者を慕う人々が多く取り囲む処刑台に上がった魔王さまはふと思います。

 結局、傭兵の願いを聞くことさえ出来なかったと。

 それだけが唯一の未練でした。

 誇り高い魔王さまの目が、ほんの少しだけ潤みました。


 処刑台を見る多くの人間たちの怨嗟が、魔王の死を望む声が聞こえます。

 跪き、処刑の刃を受け入れようと目を閉じます。

 最期に思い浮かべるの亡くした愛する者たちと、生かした愛する者のことでした。


 しかし、いつまでたっても刃は来ません。

 それどころか、魔王の死を望む声さえ止みました。

 どうしたことかと魔王さまは目を開けました。


 そこには、傭兵が居ました。


 とても驚いている魔王さまと人々を無視し、傭兵は行動します。

 けがを治した傭兵は勇者をも倒した男です。

 あっという間に魔王さまを処刑台から救い出しました。


 安全な場所まで来た魔王さまはとても怒っていました。

 せっかく魔王さまが傭兵だけは人間たちに襲われないようにしたのに、これでは全て水の泡です。

 魔王さまは何度も聞くに堪えない言葉を傭兵にぶつけます。


 その時の顔は怒りで真っ赤に染まり、眉間に皺を寄せ、涙をこらえ、どこか嬉しくて笑みなるのを必死に耐えているようにも見えました。


 そんな魔王さまを傭兵は黙って見守ります。

 魔王さまはそんな傭兵の顔をどうしても殴ってやりたくなりました。

 しかし、もう傭兵は魔王さまより強いのですから、一発殴ることもひどく困難です。


 そのため、魔王さまは言いました。

 「傭兵さま。一つ私と勝負をしてくださいませんか? もしも私に勝てたらあなたの願いをなんでも叶えましょう。しかし、一つだけ私の願いを叶えて欲しいのです」と魔王さまはお願いします。


 魔王さまは自分の願いで傭兵の顔を殴ってやろうと思ったのです。


 傭兵は答えました。

 「わかった」

 と、それだけ。


 結果は傭兵の圧勝でした。

 もとより勝つ気が全くなかった魔王さまは傭兵をまっすぐ見ています。


 そしてついに傭兵は自分の願いを口にしました。




 「幸せにさせてください」

 そういって傭兵は正面から魔王さまを抱きしめました。




 魔王さまは顔をくしゃくしゃにしてボロボロと泣き出しました。

 魔族が滅んだ時も、復讐を果たした時も、処刑されそうになった時も涙をみせなかった誇り高い魔王さまは、この時だけは涙を堪えませんでした。

 そしてとてもとても嬉しそうに微笑みました。

 負けた魔王さまは一つだけの願いを口にしました。

 それは、傭兵を殴ることではありませんでした。




 「幸せにしてください」

 そういって魔王さまも傭兵を抱きしめました。




 魔王さまの空っぽになったものへ、幸せがつまっていきました。



 ◇



 とある土地には、魔族の血を継ぐ人間たちがいた。

 彼らは先祖たちの物語を代々語っている。

 物語の結びはいつも同じです。



 こうして勇者に負けた魔王さまは、最愛の人の奥さまとなり、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし。



 おしまい

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

以下おまけの登場人物紹介。


〇魔王さま:ヒロイン。魔王っていう強キャラがラブラブになるシュチュエーションが大好物な作者が生み出した女性。悲劇の薄幸ヒロインがすごく頑張ってハッピーエンドを迎えるのっていいよね。


〇傭兵:ヒーロー。「分かった」と最後のプロポーズ以外台詞がない。どこぞの小鬼殺しみたいな無口っぷりだが、決めるところは決めた。たった一人のためにすべてをかけてくれるヤツこそヒーロー。だけど人間たちからみれば魔王の色香に惑ったとんでもない裏切り者だよね。美人の嫁さんまで手に入れてけしからんヤツです。


〇勇者:英雄。重要人物なのに台詞すらなく倒してごめんよ……。


〇魔族:故人たち。草葉の陰から号泣していることでしょう。普通に魔王さまを慕っていたので。一部は傭兵に怨念を放つヤツもきっといるけど、他のヤツらに取り押さえられる。


〇人間たち:そこそこ重要な脇役たち。英雄が居なくてもがんばって!


〇剣士:かませその1

〇魔法使い:かませその2

〇騎士:かませその3

〇武闘家:かませその4


〇子孫:彼女たちの幸せの証。


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