第88話 使えそうな建物
とまぁ、そんな感じで俺たちはここ、アジール村の権利というかな。
そういうもの全般について便宜を受けられることになったのだが……。
「やっぱり使える家屋はほとんどなかったな」
「にゃっ……」
がっかりした様子でキャスが俺の頭をぺしりと叩く。
楽が出来ると思うんじゃない。
そんなことを言っているようだった。
「わふ。わふわふわふ、わふ? わふわふ(ですが、殿。一軒だけですが、石造りの丈夫な建物もあったことですし、とりあえずのところは十分では? そこを基点にして、これからの住処作りを頑張ればいいわけですし)」
マタザが現実的な意見を言う。
「確かにな。あの建物は多分、昔の教会建物かな? だがこの国ではアストラル教会は全く盛んでないし、何十年も前となるとなおさらだ。かといって、フォルネウス教団だってここ十年程度だし……どこのものなんだろうな」
少し気になる点だった。
別にどこの教会の建物だろうと俺たちで活用させて貰うから関係ないと言えばないのだが、後々どこかから文句がつけられるのも少し面倒な話だ。
ミドローグ都市参事会からしっかりと権限の移譲を受けているのだから、どこから文句をつけられようと突っぱねることは出来るが、権力関係というのが実に面倒くさい代物だと言うことを俺はよく知っている。
単純な法律的問題を、それ単体で処理できるというのなら、俺はこうして故郷から排除されることもなかったのだから。
「わふわふ、わふふ、わふわふ……きゅーん?(他の家屋の破壊・解体を優先したので、あの建物についてはまだ、内部はあまり調べておりませんが……調べますか?)」
リベルがそう尋ねてくる。
村の様子を改めて見てみると、十数軒あった木造家屋のほとんどが破壊、もしくは解体されてすっきりとしている。
残っているのは石造りの井戸と、どこかの教会だったらしき建物くらいなものだ。
そうなるとこの辺りが大分開かれた空間であることにも気付く。
森のただ中にあるだけあって、ずっと昔に誰かが開拓し、ここに村を築いた、そういうことなのだろう。
まぁ、それでも長い間放置されていただけあって、草木がそこここに生えつつあり、そういったものを毟っていく作業も必要だろうが、ここにいるメンツはそういうことになれている。
さほどの時間もかかるまい……。
そこまで考えてから、俺はリベルに頷いて、
「そうだな。他の皆には雑草や低木の処理を頼んで、俺たちはあの建物の安全確認をしようか」
そう言ったのだった。
******
「中は……かなりごちゃごちゃしてるな。崩れてる感じは一見してないから、使えそうなのは間違いない。まずは片付けからか……」
その教会建物は、村の中心部にあり、基部となる部分と、さらに鐘があったであろう鐘楼と思しき塔が上部にくっついたような形をしていた。
大きさは、この規模の村のものにしては結構なものだが、ミドローグの街にある市民の建物にすらも及ばない程度で、やはり村の規模が昔から小さかったのだろうということが察せられる。
また、内部だが、ぱっと見た感じ、入り口から入ると身廊が伸びていて、奥の主祭壇まで続いているのが分かる。
途中、上部から光が落ちているのも確認できるが、これは外から見たときの鐘楼部分から落ちてくる光だろう。
多分あそこが採光窓の役割をも持っていると思われた。
また、身廊部分にはおそらく、長椅子が設置されていただろうと推測できるような跡が地面に日焼けのように刻まれているが、残念ながら年月の故か、それともここを村人たちが立ち去るときに撤去したのか、そこにはがれきの他、何もなかった。
「ほぼ崩れていないと言っても、やっぱり全くの無傷ってわけでもなさそうだな……それでも壊すのは流石にもったいない。崩れてるところをしっかりとチェックして、補強してやれば普通に使える、かな……」
「わふ、わふわふ?(主殿、流石に我々にはこんな建物の修復は出来ませんぞ?)」
マタザがそう言ったが、
「とりあえずの応急処置をするだけだから、それくらいならお前たちでもなんとかなるさ。それだけじゃ危険だとは思うから、俺の方でしっかり補強の魔法陣も組んでおくことにするよ」
これは、魔道具作り、《魔工》系技能によって可能な技術だな。
物体を魔術によって強化・補強する手法はありふれたもので、ただ強化の度合いは技能のレベルと単純な熟練度による。
俺は流石に身につけたばかりで大したものでもないが、一応それでも《魔工2》にはなっているから、ここが崩れてこないように、一月に一度くらい補強をかけ直せば良い程度のことは出来るはずだ。
まぁ、それでも大分面倒くさいから、いずれはしっかりとした大工を呼びたいが、まだ俺たちがこの拠点周りを掌握できていないのに外部の人間をいれるのは怖い。
それまでは俺がこつこつ頑張ってなんとかやってくしかないだろう……。
そんなことを考えていると、ちょろちょろその辺を動き回りつつ、色々な場所を確認していたリベルが、
「わ、わふっ!(あ、主! ここに階段が!)」
そう叫んだ。
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