第84話 新天地
「……さて、ここからどうするかだが……まぁ、とりあえずここは拠点としては悪くないんじゃないか? 少なくとも、《煉獄の森》の中よりは」
目の前に広がる廃村の様子を見つめながらそう呟くと、
「わふわふ!(まさかこんなところを与えてもらえるとは意外でしたな!)」
と、マタザが言った。
その様子は嬉しそうで、理由も理解できる。
これからのことを考えると楽しみだからだ。
そんな彼に続いてリベルも、
「わふわふふ、わふ!(本当にゼロからですけど、ここなら街にも近いですしいいですね!)」
と楽しそうに言う。
そう、俺たちはここ、アジール村を与えられたのだ。
誰からって?
それはもちろん、ミドローグ……その都市参事会から、ということになる。
より厳密に言うなら、都市参事会での決定に基づいて、土地の排他的な利用権を長期間貸与の形で貸してくれた、ということになるのだが、細かな法律上の手続きについてはカタリナが可能な限りの便宜を図ってくれたからあまり気にしても仕方がない。
いずれは完全に譲渡できるように調整していきたいという話もしてくれたから、まぁ、そこは信じるしかないだろう。
ダメならダメで、やっぱり最後は森に引っ込めばいいから俺たちに失うものはない。
何も持たないと言うのは恐ろしいものだと貴族だった時には思っていたが、こうして完全なる自由を得られると、むしろ気楽なものだな。
「……にゃっ」
俺の考えていることを理解したのか、この世で最も自由であろう動物、猫系の魔物であるキャスがそう鳴いたのだった。
******
「まずは、廃屋を全部ぶっ壊すところからやるか……皆、頑張ろうな」
俺がたくさんの建物を前にそういうと、コボルトたちが全員で、
「わんっ!」
と一鳴きしてから動き出す。
その動きは一つも迷いがなく、ついこの間まで森の中で不安そうに生活していたコボルトの群れとは思えない。
マタザとリベルが正確に指示を出し、崩れ落ちている家屋を少しずつ解体していく。
そんなことをしていいのか。
だいぶ前に無人になっている村とはいえ、家やら何やら、建物にも所有権があり、勝手なことをしてはならないのではないか。
そんな意見もあるだろう。
しかし、アジール村はグライデルがスケルトンを大量発生させていた土地であり、そしてだいぶ昔に廃棄された廃村である。
そのため、この場所について権益を主張する者は皆無だ。
アンデッドが大量発生した場所に好んで住みたい人間などいないし、場所も非常に辺鄙で、特別な産物が何かあるわけでもないという、本来なら全く使い出のない土地である。
それでも昔は人が住んでいただけあって、井戸があったり、耕作に適した場所があったり、森の実りが豊富だったりと、それなりにいい土地ではあるのだが、ここに再度移り住もうとかいう人間が現れていないことがこの土地を誰も欲しがらないことを証明している。
一応、ミドローグの街の管理権が及ぶ土地であるから、ここを使うのにはミドローグの許可が必要だったわけだが、それも都市参事会での議決によって与えられたから、安心して全てぶっ壊せるのである。
壊した後はどうするのかって?
こつこつ建物を立てて、俺たちの集落にするのだ。
なんでこんなことになったかといえば、いつまでもカタリナの屋敷に世話になっているわけにはいかないからである。
もちろん理由はそれだけではない。
最大の問題は、俺の技能にあった。
あの日、気づいたのだ。
《カード》の記載が増えていることに。
その内容は、《従属契約》の欄にあった。
従属契約:魔猫(幼)、犬魔精(10)、犬魔足軽(2)、普人族(1)、黒骸骨王
こう書いてあったのだ。
何がおかしいって、最後の一つである。
キャスに、コボルト、マタザとリベル……それにアト、で、最後に黒骸骨王だって?
俺はそんなものと契約した覚えなどないぞと言いたくなった。
しかし、実際に書いてあるのだ。
現実を見ないわけにはいかなかった。
だから俺は試したのだ。
黒骸骨王、その記載が何かをはっきりさせるために。
けれどもちろん、人が大勢いるところでそんなことをするわけにはいかない。
だから適当な依頼を受けて、ミドローグ街の外に出て、さらに街道から少し離れた位置にまで向かった後に、俺はその《カード》の記載、黒骸骨王の文字をタップしてみた。
すると、その瞬間、目の前にあの時見た、酷く強そうなスケルトンキングが出現したのだった。
骨の色が黒く染め上げられた、特殊な個体なのだろうと理解できるその姿。
なるほど、こいつを自由にできると言うのなら、貴族令嬢とその家宰、それに鉄級の冒険者数人程度簡単に倒せる、と考えても無理はない。
グライデルのそんな気持ちが理解できた。
そうだ、こいつは間違いなく、グライデルが使役していたスケルトンキング……。
どうしてこんなものが。
困惑と同時に、果たしてこいつは俺の言うことなど聞くのか?
そんな疑問が次に浮かんできた。
落ち窪んだ黒い眼窩を見つめつつ、俺は襲われても大丈夫なように構えたのは、言うまでもない。
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