第76話 戦い
「……《飛舞剣》!」
最初から全開で行く。
そのつもりで、俺は今の俺が放つことが出来る最も強力な技能を放つことにした。
小手調べなんてしてる暇はないからだ。
俺の剣が振られると同時に、剣の軌跡からいくつもの不可視の刃が髑髏王に向かって放たれる。
これで決まればそれでいいのだが……。
そう思った。
ーーガガガガガ!
という音が辺りに響き、俺の攻撃が命中していることが理解できる。
衝撃が地面から煙を立ち上げ、少し視界を悪くした。
倒したか、それともある程度ダメージを与えられただろうか。
そう思って剣を油断なく構えつつ、観察する。
けれど……。
「……くそっ!」
煙が晴れると同時に、そこから通常のスケルトンよりも倍はあるだろうその巨体が、砲弾のように出てくる。
狙いは……俺か。
他の三匹でなくてよかった。
俺ならばこいつの攻撃だって受けられる。
振り下ろされる剣、先ほどと同じ……と思ったが、よく見ると剣の表面にうっすらと魔力が纏われているのが目についた。
これは、受けない方がいいのではないか。
咄嗟にそう思った俺は、なんとかその攻撃を避ける。
するとその黒いスケルトンの剣は地面に思い切り叩きつけられた。
そして、その部分が、急激に冷え、水晶のような氷の華を咲かせる。
「魔法剣か……っ!」
魔道具の一種であり、魔力を注ぐことによって特殊な攻撃を放つことができる武器だ。
効力が弱くとも通常武具よりも倍は高価であることで知られる。
このスケルトンが持っているのはその辺にあるような魔法剣ではなく、かなり強力なものだろう。
受ければ、多分俺は凍らされていたと思う。
危なかった。
しかしそんな束の間の安心すらも、認める気はないようだ。
誰がか。
それはもちろん……。
「背中が空いていますよ!」
そう声をかけたのは余裕か撹乱か。
分からないがまさに魔力の塊が迫っていることは振り向かずに察せられた。
俺は足を着くと同時にすぐに回避行動を取る。
するとそこを火の塊がすり抜けていったのが見えた。
間違いなく魔術師組合長グライデルの放った魔術である。
このままでは、追い詰められてしまうかもしれないな。
そう思った俺は、視線でキャスに指示を出す。
マタザとリベルにも出来なくはないが、最も付き合いが長く、そして俺のことを分かってくれているのは彼女だ。
案の定、すぐに俺の意図を察してくれて、その小さな体でうまく気配を隠しながら、グライデルに近づいていく。
「……ふふ、いつまで続きますかねぇ!」
機嫌良さそうにそんなことを言っているグライデルだったが、
「……にゃっ!」
いつの間にか背後に来た小さな魔物の存在には気づけなかったようだ。
キャスがその前足を振り上げ、グライデルの首元を思い切り叩く。
《猫闘術》技能に基づく、猫パンチであった。
「うぐっ!」
魔術師らしく、というと数多くいる魔術師たちに申し訳ないのだが、あまり近接格闘能力には優れてはいなかったらしく、ろくに反応もできずにキャスの攻撃を受けたグライデル。
たった一撃でその意識を刈り取られ、その場に崩れ落ちていった。
可能な限り殺さないようにキャスにアイコンタクトをしていたので、それも試みてくれた様でありがたかった。
もちろん、慈悲からとかでは一切ないのは、言うまでもない。
ここでグライデルを殺してしまうと、何も分からずに終わってしまうためである。
「……なんとかこれで、こいつだけに集中できるな……マタザ、リベル!」
目の前に立つスケルトンを、キャスがグライデルを狙っている間、なんとか攻撃を避けながら捌いていた俺たち。
後ろから魔術が飛んでくるかもしれない状況では、あまり賭けに出ることも出来ず、こう着状態に近くなっていた。
しかし今なら。
そう思って二匹に声をかけた。
二匹は俺の言葉に反応し、少し開いて別々の方向から攻撃を加えるべく距離を縮めていく。
スケルトンキングはどちらに対応するか悩んでいるようだった。
心なしか先ほどよりも判断が鈍くなっている感じがするのは……グライデルが意識を失ったから、かな。
そういう意味でも、あっちを先に潰したのは正解の様だった。
結局、リベルに先に対応することにしたらしいスケルトンキングだったが、リベルはスケルトンキングの剣を巧みに避けて捌いている。
訓練の時、アトの剣を最も巧みに避けることが出来たのは、彼女である。
だからたとえスケルトンキング、その特殊個体とはいえ、当然のことだ。
その間に、マタザは隙を狙って、槍を突き出した。
いくらスケルトンの上位種とは言っても、基本的な構造は、通常のスケルトンと変わらない。
その体内のどこかに、必ず魔力の凝った魔石などがあるはず。
鎧ではっきりとは見えないが、その間から胸部あたりに魔石があったのはなんとなく分かっていた。
それはマタザも同様だったようだ。
マタザの槍は正確にそこを突いたようだ。
突然、ガクン、とスケルトンキングの動きが精彩を欠き始める。
こうなればしめたものである。
俺はダメ押しにと距離を縮めて、剣を振り上げる。
「これで最後だ!」
そして、その頭部目掛けて思い切り振り下ろすと、スケルトンキングの頭蓋骨は粉砕され、内部の魔石が露わになる。
剣を止めずにそのまま、魔石を砕くと、スケルトンキングの巨体は、結合を失ってそのままばらばらと崩れ落ちたのだった。
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