第65話 必要な力について
結局のところ、フレスコの言っていることは正しいと思うに至った。
そもそも俺の抱えている問題は多岐にわたるが、目的は常に一つだ。
「普通に生きていけるようになる」、これに尽きる。
もう今更、貴族として返り咲こうとか、有名な人間になりたいとか、そういう虚栄心は一切ない。
ただ、キャスやコボルトたちと、幸せにどこかで暮らしていけるのなら、それだけで十分だ。
あとは、まぁ、アトがいてくれたらそれで、な。
そのために必要なものがなんなのかを考えると、まず教会に追いかけられないことである。
これについては根本的な原因をアトが排除してくれるはずだ。
俺が死んだという情報を教会に上げてもらって、もう俺など探す意味がないと理解してもらうことで。
ただ、もしもそれが失敗したら。
仮に成功していたとしても、それが一時のことで、後々また俺が生きていることが分かられてしまい、再度追いかけられることになったら。
その時のことを考えると、俺には色々な意味での《力》が必要だという答えに行き着く。
その一つとして、俺自身の物理的な力……つまりは戦闘力とか《聖王》技能とかを鍛える。
これがまずある。
だからアトに鍛えてもらったし、また彼女がいない間の方針として、自分たちの実力を上げていくことを当面の目標として設定することにした。
今回、冒険者として《カード》を貰えたのはそう言う意味でもいいことだった。
冒険者となり、依頼を受けて魔物を倒し、ランクを上げて入れる迷宮を増やして、攻略していく。
それによって俺たちの実力は上がっていくはずだ。
そして、高ランクの冒険者は国家ですらもそう簡単に介入することが難しくなっていく。
もちろん、そこまでに至るためには、銀級や金級では不十分だろう。
最低でも白金級には至るべきだし、さらに上……可能ならば最上位の神鉄級まで至ることが一番だ。
そこまでになればもはや国家とかそういうものの頸木から解放される。
まぁ、それでも俺が《聖王》という技能を持っているからと教会総力で持って攻撃されればまずいだろうが……。
今のところは、というかそういうことはまぁ、置いておき、ランクを上げていくために活動するというのはそれほどダメな方向性ではないだろう。
もう一つ、俺が持つべき《力》として、下世話な話かもしれないが《権力》というのはあるだろうと思った。
政治的な力こそ、この世界を生き抜くために重要な力であることは、貴族であった俺にはよく分かっている。
それがないからこそ、もしくは欠けていたがゆえに、俺はこうして教会に追われることになったのだからなおのことだ。
もしもオラクルム王国が、またはオリピアージュ公爵家が教会権力よりも強い力を持っていたら、こんなことにはなっていない。
それくらいに権力というのは有用で、得られるのなら得ておいた方がいいものだ。
だから、そのためにカタリナに協力すべきだというのなら……その話は乗っておいてもいいだろう。
もしもオラクルム王国や教会から追手が差し向けられても、この国ユリゼン連邦というのは、そもそも両者ともあまり関係がよくないこともいいだろう。
オラクルム王国とは対立しているし、教会権力はこの国ではさしたる力を持たない。
したがって、この国の政治家の力を借りることが出来れば……安泰、とまでは言わないまでも、俺たちにもなんとか生きられる場所が確保できる可能性はある。
だから……。
「……ノア様。あまり食が進んでおられないようですが、お加減でも……?」
夕食の席で、カタリナが俺にそう話しかける。
俺たちは今、カタリナの屋敷にて世話になっている立場にあるから、当然ここは、カタリナの屋敷、その食堂だ。
ただ、やはりコボルトたちは別室で食べている。
カタリナは一緒に食べたがったのだが、マナーの問題は解決していないから……というのも理由だが、そもそもコボルトたちも気を遣うから方便に近い。
コボルトたちはまだあまり人間との接触になれていないということもあり、その辺りがある程度なれてきたら、一緒に、という形でも構わないとは思っている。
基本的なマナーについては本当のところ、アトに叩き込まれているから、慣れていないのは本当だけれど全くできないというわけでもない。
しばらく時間が経てば、問題なく他人とも食べれるようになるだろう。
そんなことを考えつつ、俺はカタリナに、
「あぁ、いえ、色々と考え事をしていまして……それで。すみません、食べ方などにもお見苦しかったところがあったかもしれません」
ぼんやりと考え事をしていたことを謝ると、彼女は慌てて首を横に振った。
「いいえ、そのようなことは……テーブルマナーについては、なんの問題も無いほどに完璧ですわ。一体どこで身につけられたのかと思ってしまうほどに」
その言葉に、ほう、となる。
あまり気にしていない風だったが、やはり彼女も俺の出自などについてはしっかりと気になるらしかった。
まぁ、当たり前か。
無頼の人間と言いながら、政治制度に批評し、貴族家におけるマナーもある程度できているとなれば、一体、となるのは当然だ。
最初に俺がユリゼン連邦の政治制度について口にしてしまったのはうっかりだったが、その後のことは正直、なあなあというか、気づかれたらそれはそれでいいか、という気もしてやっていたことだった。
その方が後々色々切り出しやすいかも、と思っての布石というか。
最初のうちはぼんやりとしか考えていなかったが、やはり、権力は必要だとどこかで考えていたからだ。
この辺りが切り出し所かもしれない。
そう思った俺は、カタリナに言う。
「……それを含めて、カタリナ様、少しお話があるのですが」
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