第60話 冒険者組合
注意深く聴きながら、俺はほくそ笑んだ……とかいうと人聞きが悪いかもしれないな。
より正確に、悪意なく言うのであれば、非常に都合よく思った、というくらいになるだろう。
というのは、誰でも俺たちの状況の全てを理解していれば分かることだろうが、《神の頭脳》から全ての情報を引っ張って来られてしまうと、魔物であるコボルトたちはそこで終わりだ。
また、技能に関しては正直微妙だと思っていたが、根源技能の扱いについてはどんな団体でも慎重である。
これは人の可能性を初めから見通せる類のものであり、従って他人に見られることをよしとしない人間が大半だ。
だからこそ、限られた人間しか見られないようにしているところが大半だ。
《カード》を身分証として使う場合はかなりたくさんあるわけだが、そういうときにも非表示が基本の部分だ。
そのため、冒険者組合でもかなり厳重な扱いをしているはずだという確信はあった。
もしそうでなかったとしても、今回の場合は仕方がない、と諦めればそれでいいだけの話だったしな。
まぁ、そうなっていたら、コボルトたちの身分証は得られないわけだから、俺たちは放浪の身としてどこかで何かしらの身分証を手に入れる方策を見つけなければならなかっただろうが。
別に身分証は《カード》だけではないから不可能ではない。
《カード》は非常に有用な魔道具で、手に入れようと思えば大半の人間は手に入れられることは間違いないが、表示される情報があまりにも正確過ぎる点で問題もある。
誰もが後ろ暗いことの一つ二つはあるもので、だからこそ《カード》の提示を求めることは、公的な場面以外では実はそれほど多くない。
では何を使うか、と言えば、属している団体の発行する身分証だな。
商会組合の組合員証とか、村人なら村長の出した証明書とか、関所で出す通行証とか。
多岐にわたるが、《カード》ほど理不尽に人の内実を明らかにしないものたちだ。
街の出入りではどうしても《カード》を持っているのならそれを求められざるを得ないのだが……。
なければ絶対に入れないというわけでもない。
調査などにしばらく時間がかかり、場合によっては数日、数ヶ月待たされる可能性がある、というだけだ。
それを大半の人間は嫌うから、嫌だと思っていても結局《カード》を出す羽目になるのだけれどな……。
ともあれ、間違いなく俺たちにとってありがたい話なのは確かだ。
だから俺は言う。
「そういうことなのであれば、こちらとしても問題はないです。ぜひ、全員分の《カード》を作っていただければと思います」
「あぁ、分かった。おい!」
フレスコが外に向けて声をかけると、しばらくして、こんこん、と応接室の扉を叩く音がし、それから職員が静かな様子で入ってくる。
数は二人。
二人で少しばかり重そうな、嵩張りそうな魔道具と思しき物体を部屋に運び込んできた。
テーブルにどすり、という音と共においたので、やはり見た目通りの重さがあったのだろう。
運んできた二人は華奢な感じの女性たちなのだが、冒険者組合の職員ともなるとやはり、素の腕力も通常とは違うのだろうか……。
そんな思いが俺の目から滲み出ていたのか、女性職員二人から、特にこちらに視線を向けていないのに空気を押すような圧力を感じ、少し緊張する。
けれど。
「……? お前ら、これからこいつらの《カード》の登録を行うから、出ていけ」
フレスコがそういうと、即座に頭を下げて、出て行った。
彼の冒険者組合職員からの信頼は絶大らしい、とそれでわかる。
冒険者組合というのは面白い団体で、各都市の冒険者組合はそれぞれ特色がある。
これは冒険者という集団が、街や村、都市によって固まってきた歴史的経緯に基づくだろう。
より具体的にいうなら、あまり大きな横のつながりがない。
国を跨いだ巨大な団体のようなものをイメージしたくなるだろうが、そのような部分はほとんどなく、基本的には街ごとに独立しているに近い、地方団体のようなものの方が実体に近いだろう。
だから、この街の冒険者組合はこの街の冒険者組合だけで完結している。
なぜこんな形になっているかといえば、それは先程言った歴史的な事実もあるが、国々との緊張関係にも理由がある。
考えてみてほしい。
強力な武力を持つ冒険者、彼らが所属する独立的な団体が自らの国の内部に存在していたら、国の権力者は果たして何を思うかという事を。
間違いなく、滅ぼすか、自らの管理下におこうとするかのどちらかだ。
しかし冒険者組合はその両方を嫌ったのだ。
その方策が、国を跨いだような団体でなく、あくまでもそれぞれの地方の独立した自警団のような存在である、という一種の方便だ。
実際には全く国を跨いだつながりがないとかそんなわけではない。
有事の場合には協力することもある。
だが、通常の場合はそのような形で動いているのだ。
だからこそ、冒険者組合はそれぞれの都市などごとに、特色がある。
この街のそれは、差し詰め、フレスコの一党独裁かな。
それは言い過ぎかもしれないが、それに近いところがあると考えてもいいだろう。
ただしそれは彼が強権的に行なっている、というわけではなく、彼の人徳がそうさせている。
そんなところだろう。
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