48.負ける気がしない
「――見つけた。ちょっと遠いけど」
「いけるか?」
「うん、大丈夫」
「さすが。プラトがいてくれてよかったよ」
「もっと褒めてー」
褒めるよ。
気が済むまで、彼女を助けた後で。
「行くか?」
「準備ならできているわよ」
「いつでもいいよー」
「あたしらも行くぜ! アナリス姉ちゃんを助けに行くんだろ!」
「私にできることはありますか?」
「――ああ、一緒に行こう」
彼女を迎えに。
◆◆◆
タイミング的にギリギリだったらしい。
俺たちは間に合った。
いつだってそうだ。
誰かのピンチに颯爽とかけつける。
勇者が人々のために駆けるならば、勇者が窮地に陥った時は?
もちろん、俺たちが駆けつける。
地の果てでも、空の上でも。
「待たせて悪かったな」
「遅いよ……ライカ」
アナリスは涙目になりながら微笑んでくれた。
身体に目だった傷はない。
状況的に、これから何かされそう、といったところか。
触手で四肢を拘束されて、一部は服を破って肌に触れて……。
「アナリスがエッチなこそされてるー」
「子供には刺激がつえーな」
「あんたも見るんじゃないわよ!」
「いいから助けてよ! このままじゃ私がお母さんにされちゃうよ!」
「え、本当にそういう状況だったの!?」
グラーノがアナリスを攫ったのって、彼女にエロいことをするためだったのか?
いや、さすがにそんな単純じゃないか。
「なぜ、ここがわかったのですか? 魔力の痕跡は一切残さなかったはずですが」
「うちの魔法使いを侮り過ぎだ」
「――! なるほど、夢を辿りましたか」
「正解だよー」
彼女は夢魔であり、スキルによって他人の夢の中に入ることができる。
一度でも入ったことのある夢の主は記録され、その大まかな位置を知ることが可能だった。
これはスキルの副次効果であり、夢の中での滞在時間が長いほど、より明確に位置を特定できる。
この十年間、彼女はスキルを行使してアナリスの眠りを補助していた。
今、プラトはアナリスの存在を、誰より強く感知できる。
「誤算でしたね。ならば今度は、そのスキルの効果も無効化してしまいましょう」
「次はねーんだよ! てめぇはここで潰す。どうやって生き延びたか知らねーが、二度も俺らから逃げられると思うなよ」
「その前に、うちの大事な勇者は返してもらうわ。ライカ」
「わかってる」
俺はスキルで自分自身を転移させる。
彼女は今、俺のスキルの対象から外れてしまっている。
おそらくあの触手の影響だ。
シェアリングも、軍事領域も、どちらも対象外。
だが、直接触れていれば話は別だ。
俺は手を伸ばす。
彼女の頬へ。
「一緒に帰ろう」
「うん」
シェアリング発動。
俺のステータスと経験値、そしてエレンとエリンの聖なる力を割り振る。
向上した膂力で拘束を引きちぎり、彼女は聖剣を抜く。
輝く聖剣は残る触手を両断して、真に解放される。
「アナリス姉ちゃん復活だぜ!」
「ありがとう! みんな!」
「っ……まさか、こうも簡単に奪われるとは思いませんでしたよ」
グラーノがため息をこぼす。
アナリスが解放され、七対一の状況。
形勢逆転!
だが、彼の表情からは焦りを一切感じない。
グラーノは不敵な笑みを浮かべる。
「やはり、勇者を手に入れる前に、邪魔なあなた方を排除したほうがよさそうだ」
「――! ライカ!」
珍しくプラトが大声を出す。
こういう時は決まって、何か魔法的な攻撃を受ける合図だ。
対処も決まっている。
全員を俺のスキルで地上へ、安全な場所へ転移させる。
地上の森へ出た直後、地響きが鳴る。
「これは……」
「――本当は使いたくありませんでしたが、仕方ありませんね」
地面がひび割れ、何かが飛び出す。
それは人か、悪魔か。
青白く光る巨人が、俺たちの前に立ちはだかる。
「――自分をモンスター化したのか」
「おもしれーじゃねーか! あれだけでかけりゃ倒し甲斐があるぜ!」
「子供みたいなこと言ってるんじゃないわよ、もう」
「急におっきくなったねー」
「関係ねーよ! あたしのパンチでぶっ倒してやる!」
「み、皆さんの怪我は私が治します」
突如変貌したグラーノを前に、誰一人として恐怖していない。
その表情は希望に満ち、やる気満々だ。
「不思議だね? さっきまで怖かったのに……今はちっとも怖くない!」
「じゃあ、やれそうか?」
「もちろんだよ! だって私は勇者だから!」
「ああ、知っているよ」
君が最強だと、俺たちはよく知っている。
だから臆さない。
俺たちの未来は、勝利以外あり得ない。






