42.このパターンは二度目
ライカたちがアンデッドと交戦している頃。
クーランたちが護衛する行商人の馬車も、モンスターの襲撃を受けていた。
「ガーゴイルにグレムリン」
「下級の悪魔ばかりね」
「囲まれちゃったねー」
「お、おいあんたら暢気すぎるだろ! この数だぞ!」
一緒に護衛を任された冒険者たちは慌てている。
地上にはグレムリンの群れ、上空は飛翔するガーゴイルが狙っている。
上下左右、前後も塞がれた状態。
加えて数の差は一対二十以上である。
「慌てんなよ。この程度の相手に」
「こ、この程度って」
「ごめんね口が悪い男で。危ないから君たちは、馬車の護衛に専念してくれるかしら?」
「え、ああ……え?」
クーラン槍を構える。
「上はお前らに任せるぞ」
「ええ」
「そっちはお願いねー」
瞬間、クーランは地面を豪快に蹴って消える。
グレムリンの胸に風穴が空き、次々に倒されていく。
上空のガーゴイルは炎を噴射する。
しかしプラトの結界によって防がれ、そのまま炎は反射し数体が撃墜される。
その隙にシルフィーが矢を連射し、空飛ぶガーゴイルを打ち落としていく。
「す、すげぇ……」
「なんだよこの人たち……」
その鮮やかで的確な手際に、思わず他の冒険者たちが見惚れていた。
戦闘開始からわずか五分。
百体を超える下級悪魔の群れを撃退する。
「こんなもんか」
「そうね。プラト」
「魔法の気配もないよー」
「……なぁ、あんたら! ここは普段から使うんだよな?」
唐突にクーランが行商人の一人に尋ねる。
自分に話しかけられたのかと、指をさして確認し、クーランが頷く。
「は、はい。何度かは」
「ここって下級の悪魔の縄張りだったりするのか?」
「いえ、こんなのことは初めてです」
「なるほどな」
クーランは難しい表情を見せる。
アンデッド同様、下級の悪魔が発生するエリアには条件がある。
一番は、その地域の魔力濃度の濃さだ。
下級の悪魔は、人間が呼吸をするように魔力を吸収しなければ弱体化してしまう。
そのため彼らは魔力濃度の濃い場所を好み生息している。
わかりやすい例でいえば、ダンジョン内とか。
何の前触れもなく、突然大量発生することはない。
「やっぱり絡んでやがるな」
「悪魔ね」
「ちょっとだけ気配は感じたよ。遠かったから、確かめる方法はなかったけどねー」
「はぁ、こりゃ本格的に気合入れねーとな」
クーランの言葉にシルフィーは真剣に頷く。
プラトは眠そうに欠伸をしているが、結界は今の維持したままだった。
「今夜は眠れそうにねーな」
「残念ね、プラト」
「本当だよー。あーライカと合流したいー」
「我慢しろ。終わってから存分に甘えやがれ」
「はーい」
クーランはライカたちがいるであろう方角を見つめる。
多少の心配はあるが、それ以上に信頼が勝る。
彼らのほうも何かあっただろう。
だが、必ず勝利していると。
◇◇◇
アンデッドの襲撃以降、特に何事もなく朝を迎えた。
交代で見張りを立て、いつも通り俺が朝方を担当している。
「今夜も付き合ってもらって悪いな、エリン」
「いえ、私が、その、お話したかったので……」
今晩も見張りはエリンが一緒にいてくれた。
先の戦いを経て、少しだけ表情が柔らかくなり、余裕が現れたような気がする。
俺にも遠慮しながらだけど、積極的に話しかけてくるようになった。
とてもいい変化だ。
「みんなを起こそうか。エレンとアナリスをよろしく」
「はい!」
俺はちょっと面倒だが、行商人やもう一組の冒険者を起こすとしよう。
結局、見張りは一度も来なかったな。
彼らが寝ている馬車に近づく。
昨晩はあんなに仲良くしていたのに、今は見る影もない。
女性二人は馬車の外で寝ていて、俺の足音で気がついた。
起きたなら残る一人を起こしてほしかったが、どうやら無理そうだなと悟り、小さくため息をついて馬車の荷台を開ける。
「――なんだよ」
「もう朝だぞ」
「そんなこと知ってる。言われなくてもな」
「そうか」
起きているなら自分から出てきてほしかったな。
それよりも……。
「あの二人と仲違いしてるんだな」
「――! おっさんには関係ねーだろうが!」
突然キレ始める男に、ちょっとだけ驚く。
相当触れられたくなかったようだが、我慢してもらいたい。
ここはすでに戦場なのだから。
「関係あるんだよ。護衛はまだ終わっていない。次に戦闘が発生した時、ちゃんと連携してくれなきゃ困るからな」
「知るかよそんなもん! あいつらに言え!」
「君がリーダーなんだろ? だったら」
「うるっさいな! おっさんのくせに調子乗ってんじゃねーぞ」
「おっと」
男は逆上して、俺を馬車の荷台から突き落とす。
バランスを崩しながら地面に着地する俺を、荷台から見下す。
「いいか? おっさんは仲間に恵まれただけなんだよ! 俺は違う! 一人でも戦える! そんな奴らいなくてもなぁ!」
「「……」」
「おい、言い過ぎだぞ」
「うるせぇ! 俺より弱いくせに指図すんな!」
「じゃあ試してみたら?」
俺の背後からアナリスがそう言う。
振り返るとニコッと笑顔を見せていた。
「ライカと君、どっちが強いか。強いほうにみんな従うってことでいいんじゃないかな?」
「は! いいこと言うじゃねーか!」
「……はぁ」
この流れ、あの時と一緒だな。






