72 捨てられる食材
クレハが領主の館から出てくると港がにぎわっていたため、何か次の料理のアイデアにならないかと見回ることにした。港周辺ではさまざまな魚を販売している商店があり、クレハが見たことないものばかりであった。
港町ということもあり、魚の値段はかなり手ごろなものだった。そんな中、クレハは値段がついていない商品を見つける。その商品が気になり、店主に何故値段がついていないのかを尋ねる。
「すみません、この商品ですが何故値段がついていないのですか?」
「いらっしゃい、ああ、これかい。これは後で捨てるんだよ、こんなもの食えたものじゃないからね」
「これを捨ててしまうんですか?美味しいのにもったいない」
クレハの言葉を聞き、店主は温かい目を向けていた。どうやらクレハがまともな食事を食べられていないと勘違いしているようだ。
「お客さん、これが美味しいって相当苦労してるんだな。よし、これは俺のおごりだ、魚を持っていけ」
「違います!何か勘違いしていませんか?別に私は食べるのに困っていません。本当にこれは美味しいんです」
その言葉を聞き、店主は若干引いている。まるで変人を見る目だ。
「なんだ、そっちの類かよ。お客さん、悪いことは言わないからよしなよ。こいつはどんな方法を使ってもうまくならないんだよ。ヌルヌルしていて、見た目も気持ち悪いし美味しくもない。最悪の食材だ」
「これは適切な処理をすれば美味しく食べられます。これから継続的にこれを購入させていただけませんか?捨てる予定の物に価値が付くのであれば、あなたにも利益が出るでしょ」
「そりゃこっちも金を払ってくれるってんなら文句はないけどよ、本当にこんなので金をもらっちまっていいのかい?」
「契約成立ですね、それでは部下に定期的に買いに行かせますのでその時はお願いしますね。今日は在庫があるだけ買わせてもらいます」
クレハはその商品も持ち帰るとロドシアたちの所に持っていく。クレハの湯でエールと共に新しい商品を出せばさらに客寄せになると考えたからだ。しかも、ここキュリスでは塩の生産が始まったため、かなり格安で手に入れることができる。
クレハはその点を考え、今回の食材を使うことにしたのだ。ロドシアたちはクレハの湯でオープンの準備を行っていた。従業員たちはクレハが帰ってきたため、挨拶をするが、クレハが何か手に持っているため、みなの目線はそれに注がれる。
従業員の1人がクレハが手に持っているものを尋ねるとクレハはそれを持ち上げる。
「会頭、その手に持たれているものは何ですか?」
「ああこれですか、これをみんなで食べようかと思いまして」
クレハの信じられない答えに従業員は気絶する。その騒ぎを聞きつけ、ロドシアたちがやってくる。
「ちょっと、これは何の騒ぎですか?あっ、会頭お帰りなさい。ところでなんで気絶してるんですか?」
「私がこれをみんなで食べると言ったら気絶してしまいまして、とっても美味しいのに」
そう言いながら、クレハは笑顔でそれをロドシアに近づける。その日、クレハの湯からは大きな悲鳴が聞こえた。
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