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57 ノイマンの過去

「これはまだ私の商会が今と比べ、ずっと小さな商会だった頃の話です。ライラはまだ生まれておらず、その頃のことを今まで話したことはありませんでしたが、あの頃はアディーと共に二人で商会を切りもりしていたんです。当時は小さいながらも順調でした。しかし、ある時に商会の販売を担当していたアディーが貴族に目を付けられてしまいました。その貴族はあまり良くない噂の絶えない方で当然、彼女はその貴族のお誘いを拒否しました。私も彼女を守るためにできるだけ、彼女には裏方の作業を担当してもらい、表に出る作業は私が行うということで対策を行っていました。


しかし、それが貴族の方には気に入らなかったのでしょう。次第に私たちの商会には商品を卸す方がいなくなってしまったんです。おそらく、裏でその貴族が圧力をかけて商品を卸さないようにしていたんでしょうね。


先ほども申しましたように、当時は今とは違ってとても小さな商会で、私たちには何もできることはありませんでした。次第に売るものもなくなってしまい、お客様もいらっしゃらなくなってしまいました。


そんな中、例の貴族が再び私たちの商会を訪れたんです。もしも、アディーが貴族の元に嫁げばすぐにでも商会を融資してやろうと。


当然私はその誘いを断りました。しかし、彼女は違いました。商品が売れなければ次第に商会は赤字になっていき、私たちを待っていたのは貧しい生活でした。彼女はそれに耐えられなかったんでしょう。貴族の提案を受け入れてしまったんです。


彼女を手に入れた貴族は、商会を融資することはありませんでした。しかしながら、今までのことが嘘であったように商会に商品を卸す方がいらしたんです。それから、私は二度と同じことになってはいけないと身ごもっていた妻を連れ出し当時いた国を出て、このコーカリアス王国にてノイマン商会を開いたんです。


風の噂で、アディーは貴族から捨てられたと聞き、私は彼女を探しました。しかし、どれだけ探しても彼女を見つけることはできませんでした。もしかすれば、私がこの国に来なければ彼女を見つけることはできたかもしれません。


しかし、私には妻とライラがあの時の貴族のように目を付けられるかもしれないということのほうが心配で逃げ出してしまいました。ですから、彼女が私を恨んでいるのは当然なんです。」


ノイマンから語られた過去は壮絶なものだった。それはあまりにも酷く、悲しい過去であった。しかし、悪いのはその貴族であると考え、ノイマンの行いをクレハは咎めない。


「ノイマンさん、悪いのはその貴族であり、あなたが責任を感じる必要はありません。ご家族を守るために、国を出ることはきっと悩みに悩んだ結果だったんでしょう。そうであれば、自分を卑下するのはやめてください。あなたは立派な人です」


「そうよ、お父さん。王国に来なければお母さんも何かされていたかもしれないんだし、それにアディーさんを探す努力もしたんでしょ?それならお父さんは十分よくやったわ」


彼女たちの言葉にノイマンは今までずっと心に貯めていた罪悪感が少し薄れ、目じりに涙を浮かべる。


「ありがとうございます。少し気持ちが楽になったような気がします」


「それよりお父さん、そんなひどい貴族がいた国ってどこの国なの?」


ライラは自身の父を苦しめた貴族がいる国をノイマンに尋ねる。


「ああ、それはライスオット帝国ですよ」


その名を聞き、クレハはやはりと考える。これはクレハが関わってきたライスオット帝国の貴族がろくでもない者たちばかりであったかもしれないが、基本的にクレハは帝国の貴族が良い人間だと思っていない。そのため、特にクレハは驚かなかった。


彼らは本来の目的であった抽選会の結果を再確認すると露店祭に備えるためにピトリスの街へと帰っていった。


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