50 捕縛されるクリフ
「貴様ら何をしている!直ちに投降しろ!」
その声を上げたのは複数人の兵士であった。彼らは剣を抜きクリフとその執事に切っ先を向ける。クリフは兵士に剣を向けられると、その迫力に後ずさりするが自らが貴族であることを思い出し、その権力を行使する。
「お前たちこそ何をしている、私はライスオット帝国の伯爵であるぞ!その伯爵に剣を向けるということがどういうことか分かっているのか?今すぐ無礼打ちにしてくれるぞ!」
しかし、ここはライスオット帝国ではなくコーカリアス王国である。そのため、兵士たちにその脅しは効かない。
「そんな脅しが他国で通用するわけないだろ。それに、貴様こそ問題だ。分かっているのか、他国で貴族がその権威を振りかざし、民を退けることは他国に介入するということだぞ!それがどういうことか分からないわけでもあるまい」
「うるさい!これはわが家の問題だ。貴様たちが関与することではない」
それを聞いた兵士たちはクレハに本当か尋ねる。
「クレハ様、それは本当でしょうか?」
「いいえ、今にでも彼らに襲われるところでした。この人と私は家族でも何でもありません。赤の他人です、それなのに商会の財産や権利などをすべて渡せと店を滅茶苦茶にされるところでした」
その瞬間、兵士たちはクリフたちに殺気を向ける。
「ほう、クレハ商会に襲撃をかけようとしていたのだな、我々はこの商会に手を出すものは何人たりとも捕縛しろと王の勅命を受けている。お前たち、無駄な抵抗はやめるんだな、抵抗すれば殺す。命が惜しければ抵抗するな!」
クリフは兵士たちのあまりの恐ろしさに抵抗する気も失せ膝の力が抜け、立ち尽くす。しかし、執事はそうではなかった。
「わ、私は関係ない。そいつとは無関係だ、どけ!」
執事はクリフを置いていき、兵士たちを押しのけ、逃げようとする。しかし、それを見逃す兵士ではなかった。兵士の1人が剣を横なぎに振り払うとそのまま剣筋は執事の首元へと向かい、首の骨ごとひとたちする。それから執事が話すことはなかった。
クリフは兵士たちにすぐに捕らえられる。クリフを捕らえると兵士たちの代表がクレハの元を尋ねる。
「クレハ様、お怪我はありませんか?」
「はい、私は大丈夫です。それにしても陛下自らが私たちの商会にお目をかけて頂いているとは思いませんでしたわ。最近やけに兵士さんたちの見回りが増えたとは思っていましたが。ちょうど、いつもこの時間にいらしていることは分かっていたので心配はしていませんでしたが」
「我々は陛下から、クレハ様が陛下の恩人であるとしか伺っておりません。しかし、陛下自身がそう言われるのであればクレハ様はこの国の恩人でもあります。そのお方をお守りするのは我々兵士の務めです。ですからクレハ様も無茶なことはあまりなさらないでください。」
兵士たちはクレハが王の恩人であるということを王から聞いており、クレハ商会に手を出すものがいないか最近になり巡回を行っていた。それに気づいていたからこそクレハはクリフに対してあのように焚きつけたのだ。
「ええ、次から気を付けますわ。彼はどうなるんですか?」
「あのものは、他国の貴族のようなので一度王都に護送し陛下の判断を仰ぎます」
そう兵士から聞くとクレハはクリフに一言いいたいと兵士に許可を求める。兵士は一言であるならと許可を出す。
「一言、あのものに言いたいことがあるのですが、いいですか?」
「それなら問題ありません」
「ありがとうございます」
クレハは兵士に礼を言い、クリフの元へと向かう。クリフの元へと向かうと縛られているクリフの耳元まで近づき、普段のクレハと思えないような恐ろしい顔をし、囁く。
「残念でしたね、彼らがここを巡回することは初めから分かっていました。他国で暴れた上に現行犯ではどうしようもないでしょうね。帝国はあなたなんか簡単に切り捨てますよ。さようなら、・・・・・お父様」
その言葉にクリフはすべてを悟り、目を見開き発狂する。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
クリフはいきなり発狂しだしたため、兵士に抑え込まれ気を失うのだった。
クレハが先ほどまで話していた兵士とルークの元にクレハが帰ると兵士は何を言ったのかを訪ねる。
「クレハ様、いったい奴に何を言ったんですか?あそこまで発狂するなんてよほどのことですよ。」
「特に大したことじゃないですよ。もう馬鹿なことはしないでくださいと言っただけです」
それを聞いた兵士は黙ってしまい、自らの仕事を行うべくクリフを連行するために王都へと帰還していく。
「さっ、ルーク、邪魔が入ってしまいましたが、片付けを終わらせてしまいましょうね」
クレハの顔はすっきりしたように爽やかであり、店の中へと帰っていく。しかし、そのうしろ姿を見たルークはなぜかいつものクレハではないように感じられた。なぜかは分からないが、このまま放っておいてはいけない気がする。
「オーナー、大丈夫ですか?僕、どうしてか分からないんですけど、オーナーが無理しているような気がして」
「ありがとうルーク、でも私は大丈夫よ。さっきも言ったでしょ、自分から追放されたって。私は生まれた時からずっと一人だから、これが私にとっては普通なの。だから別に心配ないわ」
「オーナー!どうしてそんなこと言うんですか、オーナーは確かに貴族の家では一人だったかもしれません。でも、ここには他の従業員や僕がいます。もし、あなたが一人だと感じるなら僕が二人目になります。だから一人なんて言わないでください!・・・・・僕を頼れよ!」
ルークは真剣なまなざしでクレハに告げる。普段からは考えられないようなルークの物言いに少し戸惑うが、そんなルークにクレハは笑みをこぼす。
「ルーク、もしかしてそれはプロポーズですか?そんなことは独り立ちできるようになってからするものですよ。さぁ、そんなふざけたこと言ってないで仕事に戻りますよ」
「あー、オーナー!僕はふざけてなんかいませんよ。真剣な話をしているんです!待ってくださいよ、オーナー」
クレハはルークにそう告げるとさっさと仕事に戻ってしまった。うっすらと赤くなった自らの顔をルークから隠すために。
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