332 採用面接
「ねぇ、それって意味が分からなくない?だって元々は私たちのお店だったのよ、それなのにあなたのせいで店を無くした私たちに店で働かせてやるっておかしいわよね。ただの乗っ取りじゃない、商人として恥ずかしくないの?」
クレハの要請に異議を唱えたのはとある女性の商人だった。彼女はクレハが自身の店を事実上乗っ取っていることに不満を感じているのだ。しかしながら、事業の真似をすること自体は法では規制されていないものの、あまり良い行いとはされていない。
だからこそ、そのような事を棚に上げ、自身の失敗をクレハのせいにする彼女に対しては容赦なく言葉をぶつけるのであった。
「別に恥ずかしくはありませんよ、私はただ売りに出されている店を買い取り、従業員を募集しているだけですので。いたって普通の商売活動です。」
「そうじゃないよ、私が言っているのはあんたが店の乗っ取りをしている点だよ、話を逸らすんじゃない。」
「店の乗っ取りとはひどい良いようですね。あなたが言うそれは私の事業を勝手に真似した結果、損をしたから私のせいということですか?
それともあなたが事業の真似をすることを前提で新たな事業を行い、その隙に店を乗っ取ったとでも言うつもりですか?流石にそれは無理があると思いませんか?
それが分からないのであれば商売で成功するはずなどないですからむしろあなたを雇う必要はありませんので申し訳ないですがお帰り下さい。」
今回、彼らが集められた名目は店を畳んだばかりで働き口がなく、もう一度店を始める気があるのならチャンスがあると言ったものだった。つまり、これはクレハによる採用面接のようなものなのだ。
だからこそ、自身の失敗を他人のせいにし、非を認めようとしない人間は元々店を経営していた人間であったとしても店を任せる気にはなれなかったのだ。
「はぁ?あんたが呼び出したんじゃないか、それなのに一方的に追い出すっていうのかい!」
「私はチャンスを与えると言ったまでですよ。あなたのような人間は雇ったところで損失しか生みません。あなたの様に他人を責めることしかできない人間より、仕事ができなくても誠実である人間を雇った方が余程未来への投資になります。」
クレハは彼女に対し冷ややかな目でさっさと出ていくように無言の圧力を向ける。しかし、彼女も現状を理解していないのかクレハにありえないような要求を提示するのであった。
「それなら、私の店を返せよ。あれは私のものだ、あんたのもんじゃない。」
「おや、それは異なことを言いますね。あの店は正式に私が買い上げたものです。それを返せとはいささかおかしな話ではないですか?貴方だって店の売却金として私が支払ったお金を受け取っていますよね。
少なくとも商人であるならば契約くらいは守らなければ今後誰もあなたと仕事をしなくなりますよ。それとも、私が購入した倍の価格でお売りしましょうか?それならば別に私も手放しますよ、どうせあなたを雇う気はないのでその店を所有していても意味がありませんから。」
「ふざけんな、何でこっちが金を支払わなきゃいけないんだよ、こんなの無効だ!」
いつまで経っても話が終わらない彼女に対して流石のクレハも相手をするのが面倒になってきたのだろう。それに、ここにいる商人たちもほとんどがクレハの話に関して興味を持っており、さっさと彼女がどこかに行ってくれないかと言ったような目で見つめていた。
「そろそろ気分は落ち着きましたか?周囲を見てください、この目線があなたの対応に対する答えです。時間の無駄ですからさっさと出て行ってくださいね。」
周囲の商人たちは早く出て行けと言ったように悪態をつき始め、流石の彼女もこの状況には分が悪いと理解したのかクレハをにらみつけ出ていくのであった。
しかしながら、そう言った態度をとったものは彼女一人だけであり、残りの商人たちはクレハと契約を結び、再び自身の店で働き始めることになるのだった。
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