319 トンデモ理論
ここにいるのはクレハ商会の商売を容易に真似し、借金まで作ってしまったバカな商人の一人だ。
「くそっ、こんなはずじゃなかったのに。誰だよ、クレハ商会の商売をそのまま真似すれば簡単に金が入るって言ったやつは!
全然金が入ってこないじゃねぇか、くそがっ、借金までさせられてこれからどうすりゃいいんだよ。許さねぇ、これも全部こんな商売を考えやがったクレハ商会のせいだ!」
元はと言えば他人の商売を勝手に真似したことが悪いのだが今の彼は他人のせいにすることでしか正気を保っていられなかったのだ。そうして、彼は自分をこのような状況にしたクレハを恨み、彼女に責任をとらせようと動き出したのである。
「おい、金を返せ!このクソ野郎が。お前のせいで俺の人生は無茶苦茶だ、責任取れやこの野郎!」
その男がクレハの前に現れたのは本当に唐突だった。彼女が保険事業の事業所の様子を見に外出をしようとすると突然男が暴言を吐いてきたのだ。もちろん、そのような不審者が突然現れたため、兵士たちはクレハを守るように男に剣の切っ先を向けている。
「えっと、お金を返せとは何のことでしょうか?私は誰かにお金を借りた覚えはないのですが、人違いではないでしょうか?」
クレハにとっては彼が発したことは全く心当たりがないため人違いではないかと考えていたがそうではなかった。
「人違いなわけないだろうが、俺はお前に金を返せっているっているんだよ。お前のせいで、お前のせいで俺はおしまいだ。大体お前はいっつも商売がうまくいきすぎているんだよ、そんなのおかしいだろ!不公平だ!」
クレハがよくよく男の話を聞くとどうやらこの目の前の男は勝手に商売を真似しておきながら失敗すればそれはクレハの責任で、賠償として慰謝料を支払えと言っているのだ。流石のクレハもこのトンデモ理論には思わず頭を抱えてしまう。
「何を訳の分からないことを言っているんですか、人の商売を真似しておきながら失敗したら責任をとれ?あなた本当に大人ですか?子供が駄々をこねているわけじゃないんですから無駄な時間を取らせないでください。」
「こら、逃げるんじゃねぇ。おい、聞いているのか!このままで済むと思うなよ、お前のせいで痛い目を見た奴らは多いんだ。そいつらを全員集めてお前を訴えてやる!」
クレハがこんな男は相手をする価値もないと無視をしてその場を去り始めると彼はクレハを訴えると言い出したのだ。
もちろん、今回の件でクレハを訴えたところでまともな人間が話を聞けばその訴えがどれだけバカらしいものかなどすぐさま理解されるだろう。
ただ、商売を真似すること自体は規制が存在していないためクレハが訴えられた腹いせに逆に彼を訴え返したところで意味はないのだ。
つまり、今回の件は誰がどうしたところでただの時間の無駄なのである。しかしながら男はそれを理解していないのかクレハを訴えると言って聞かないのである。
「そんなことをしても時間の無駄ですよ、意味がないんですから。そんなことに時間を使うよりもお金がないのであれば自分で商売を考えればどうですか。人の商売を頭も使わないで真似するだけだから痛い目を見るんですよ。」
「へっ、どうした俺が訴えると言って怖くなったのか?だがもう遅い!お前に必ず慰謝料を払わせてやる!」
こうして、男はクレハの忠告を聞きもせず、そそくさとこの場を去ってしまうのであった。もちろん、この男もただバカをしているわけではない。彼にとっても秘策があったのだ。
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