306 一週間後の治療院
クレハが治療院を訪れてから一週間後、クレハは再び大勢を引き連れて件の治療院を訪れていたのだ。
「いったいどういうことなんです!あなたの言っていた診察結果では治療薬を服用しなければ数日で全員死んでしまうと言っていたではないですか!それなのに、全員薬を飲んでいなかったのに何も問題が無かったってどういうことですか!」
「はて、いったいどなたですか?私も忙しいのですから変な言いがかりはやめてもらいたいですね。」
以前にクレハ達を診察した医師は既に彼女たちのことを忘れており、クレハが診察の結果と異なっていることを指摘するも、めんどうくさい人間が来たと言ったようにうんざりしているようだった。
「どなたじゃないです、私はもっとよく診察をしてほしいと言ったのにあなたが無理やり処方したんですよ。これじゃ詐欺じゃないですか!お金を返してください!」
クレハがわざと周囲の目を引きつけながら自分たちを診察した医師に診断が間違っていたことを煽るように指摘すると自身のプライドを傷つけられたせいなのか、突如、クレハのことを思い出したのだ。
「あ、あなたは以前に診察にいらした貴族の方ですね。さ、詐欺って、いくら貴族の方とは言え心外です。」
「ならばこれはどう説明するんですか、あなたの診察では数日で命の危機があると言っていたのに一週間たっても全員元気なんですよ。私には誰も病気に罹るようには見えませんね。この状況を見ればあなたが健全な人間に無理やり薬を売りつけているようにしか見えませんよ。」
もちろん、この騒ぎはあえて周囲の人間たちに見せつけるために行っているのだ。そんなクレハの思惑通り、周囲の診察に来ていた人間は一斉にクレハ達の会話に耳を澄ませているのだった。
「人間にだって個体差があるんです。全員が全員、きっちりと診察した通りに行くとは限りません。極めてまれな例ですが外れることもあります。」
「よく言いますね、覚えていますか、あなたが診察をした人数。20人ですよ、20人。この全員が診察では命にかかわると言っていたのに全員が無事ってどれだけの確率だと思っているんですか!」
流石の医師もそう言われてしまえば自分が言っていることがどれだけおかしなことか理解したのだろう。反論をしようとしたその口を閉ざしてしまう。
「ようやく自分がどれだけおかしなことを言っているか理解したようですね。とにかく、このインチキ治療薬はお返ししますからお金を返してください。それと、あなたは私を詐欺にかけようとしたんですからそれ相応の覚悟はできているんでしょうね。」
クレハは周囲の人間たちに言い聞かせるように医師を非難していると突然、後ろから声をかけられる。
「おや、詐欺とは心外ですね。貴族の方とあろうものがこのような場所で大騒ぎしているなど、余程暇なのですね。」
そんな声をかけられるとクレハはようやく目的の人間がやって来たと周囲に見えないように笑みを浮かべるのだった。
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