301 大パニック
薬の更なる情報が治療院から発信され国中に広まるのにそう時間はかからなかった。そうなると次はどういったことになるのか、クレハの想像していた通り、国中でパニックが発生し、治療院には不安で押しつぶされそうな国民たちが押し寄せていた。
「先生、私は、私はどうなんですか、私は大丈夫なんでしょうね!」
「そんなのより俺を早く見てくれよ!俺の方が重要だろうが!」
「しぇんしぇ、ママがね、ママが大変なの。おねがい、たすけて。」
「くくくっ、クハハッ。くくっ、本当にバカな奴らだ、笑いが止まらんな。」
自身の部屋の窓から目の前で起こっている惨状を目のあたりにし、院長は笑いが止まらなかった。彼は目の前でパニックになり自身の治療院の前に集まってきている国民たちを見下ろしながら言いカモがやって来たと考えていたのだ。
「これならば伯爵もお喜びになるだろう、薬を規制したところで我々を止めることなどできないのだ。しかし、些か集めすぎたか?これでは治療院の許容を超えているぞ。どうせなら薬と入院の二つで儲けてやろうと思ったがこれでは無理だな。
大して効果の無い薬を渡すだけでこいつらは満足して帰っていくんだ、こんなうまい商売はない!クハハッ、ほんと笑いが止まらんな。」
院長は偽の情報で民衆の不安を煽り、治療院特製の薬を服用し続けなければ命にかかわると言うことを患者たちに伝えていたのだ。だからこそ、これから何の効果もない薬を渡すだけで患者たちは永遠に自分の身を守るために治療院を訪れ、いつまでも金を落とす永久機関が完成するのだ。
本来であればこのような話を嘘だと思う人間も少なくはないだろう。しかしながらこういった極限の不安状態で誰か一人でも不安を煽るような行動をとればみな、本当に自分は大丈夫なのかと心配になってしまうのだ。
集団の心理とは恐ろしいもので一人、また一人と何も考えずに周囲の人間に同調するように動き始める。そんな連鎖的な現象の結果が今の惨状だった。
院長は自分たちが作り上げたこの永久的なシステムに絶対的な信頼を寄せ、いつまでも、いつまでも笑い続けるのだ。
院長が自分達の計画に酔いしれているころ、国中で起こっているパニックに関して国王たちや関係各所の人間が対応していないはずがなかった。
「陛下、国中で大パニックが起こっています。早急に何とかしなければ事態はますます悪化してしまいます!」
「分かっている。全く、どこの愚か者だ、このような噂を流したものは。すぐに捕らえに行け!」
国王はこのような偽の噂で国を混乱させた人間をすぐさま捕らえろと命じるもそれには少しだけ問題があった。
「陛下、私どももそうしたいのは山々なのですが証拠がございません。」
「そんなものなど無くても良い。国を混乱させた、それだけで重罪だ!」
「確かに我々からすれば今回の件はいたずらに国を混乱させた幼稚な嘘です。しかしながら国民はそうは思っていません。我々が王命で強制的にその者を捕らえるのは簡単ですがその目的を理解していない国民がそのことを知り、自分たちが治療されないと知ったらどうなるでしょう。それこそ、取り返しのつかないことになってしまいます。」
臣下の言うことはもっともであると国王は重々承知している。だからと言ってこのまま噂の主を放置しておけば事態が好転することはまずないだろう。だからこそ国王はもどかしさとやるせなさで押しつぶされそうだったのだ。
「とにかく、今は国民を納得させるだけの証拠を集めましょう。それさえ集まればすぐに捕縛できます。」
こうして、すぐさま院長たちは捕縛されることなく、噂は徐々に、徐々に広がっていくのだった。
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