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230 王妃様からのお呼び出し

「ん~、さすがクレハ様ですね。これはパンにつけて何杯でも行けますよ!ウマウマ。」


「サラ、はしゃぎすぎよ。でも、このコーヒーっていうの?ケーキにピッタリね、ほんと、クレハは美味しいものを見つけてくる天才よね。」


クレハの目の前ではサラがカレーを、王妃がコーヒーと共にケーキを楽しんでいた。クレハ商会でベスト公爵が大騒ぎして何日か経った頃だろうか、クレハの元に王妃から呼び出しがあったのだ。


おそらくはベスト公爵の件だろうと考えていたクレハは何か手土産になるものは無いかと思い、コーヒーとカレーを持参した。そんな手土産がよほど気に入ったのか、本題に入らずに王妃たちは食事を楽しんでいる。


「あの、王妃様、それで本題の方は何なのでしょうか?」


クレハはこのままではただの食事会になってしまうと考え、きりのよさそうなところで王妃に尋ねると彼女はビクッと体を震わし、目線をさっとそらす。


「い、いやだわ、もちろん本題は今から話そうと思っていたのよ。決してクレハが持ってきたものに夢中になっていたわけじゃないからね。ねぇ、サラ。」


「ウマウマ!」


王妃は恥ずかしさからかサラに同意を求めるように尋ねるも未だにパクパクとサラはカレーに夢中だ。王妃は自分の恥ずかしさをどこにも向けることが出来なくなり、さらに恥ずかしさがこみあげてきたのはわずかではあるが頬をピクつかせている。


「んっ、ん!それで、本題だったわね。あなたを呼んだのはベスト公爵のことに関して話したかったからなのよ。あの公爵、あなたのお店に押しかけてあなたに乱暴したって聞いたのだけど大丈夫だった?」


クレハの考えた通り、王妃の要件とはベスト公爵のことだったのだ。


「はい、それなら問題はありません。ご心配ありがとうございます。」


「本当に?もしも何かあったら私に言うのよ!けちょんけちょんに懲らしめてやるんだから。あっ、でも今はちょっと無理かもしれないわね。ごめんなさい。」


ベスト公爵には腹を立てていたクレハであったがとある一件ですでに溜飲が下がっていたため、そのことに関しては別に問題なかったが今だけはダメという王妃の発言が気になったため尋ねてみることにしたのだ。


「別にベスト公爵のことは大丈夫なのですがどうして今は無理なのですか?」


「うん、実はねあの公爵が先日、王城に帝国のスパイだという人間を連れてきたのよ。正直、ベスト公爵にはいろんな噂が広まっていたからそう言う噂を消し去るために何処かから連れてきたのかと思ったのだけど、連れてこられた本人もラルチュ軍務大臣の使いのもので俺を話さないと戦争になるぞって騒いでいたから認めないわけにもいかなくてねぇ。


今やあの公爵は王城の貴族達の間では帝国のスパイを捕まえたヒーローみたいな扱いになっているのよ。だからね、今は無理だけど絶対にクレハを傷つけた報いは受けさせるわ。」


王妃は必ずやベスト公爵に報いを受けさせると意気込んでいるがいつまで経ってもクレハは何も返事をしないため、不思議に思っていた。


「クレハ?大丈夫、どうかしたの?」


王妃がそう尋ねるとクレハは難しい顔をしながら答える。


「王妃様、先ほど、ラルチュ軍務大臣の命令でそのスパイが動いていたと言いましたか?」


「えっ、ええ。そうね、確か、その軍務大臣の命令であなたのお店にいちゃもんをつけるためにベスト公爵を焚きつけたって言っていたわね。まぁ、正直、そんなことをしても何も意味がないと思うから嘘だとは思うのだけれど。それがどうしたの?」


「・・・ラルチュ軍務大臣は私の義理の祖父です。」


クレハから衝撃的な発言が飛び出し、部屋は一気に静寂に包まれてしまうのだった。いや、完全には物音は消えていなかった。サラのカレーを食べる音だけが響いているのだった。


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