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225 フラッシュバック

「みな、本日は私主催のパーティーに集まってくれてありがとう!実は、このベスト公爵、とある商人の伝手で大変珍しいものを手に入れてな。


なんでも、こことは違う別の大陸では良く飲まれる嗜好品らしい。みなにもぜひ、味わってほしいと考えたのだ。ささ、みな、今回も見た目はすごいが遠慮せずに飲んでみてくれ。」


ベスト公爵は世の中の珍しいものを見つけるとそれを自慢するために貴族達を集め、披露するというパーティーを頻繁に行っていたのだ。


そんなパーティーに毎回呼び出される貴族達からすればたまったものではないかもしれないが相手は公爵だ。嫌とは言えないだろう。


それに、このベスト公爵が紹介するものは意外とはずれがないのだ。だからこそ、仕方なく彼のパーティーに参加している貴族達の口からも文句は出なかったのだ。しかし、そんな彼らの不満も今日、一斉に爆発してしまうことになる。


「なぁ、これなんかすごくマズくないか。」


「た、確かにそうですね、これが嗜好品とは正直期待外れもいいとこですね。」


いつもであれば自分の持ってきた品を褒め始めるころかと期待をしていたベスト公爵であったがそんな彼の耳に聞こえてきたのはそれとは全く反対の言葉だった。


「そ、そんなばかな!お、おい、私の分ももってこい!ぶふっー、な、なんだこの酷い味は!」


公爵はコーヒーを一口飲むや否やあまりの不味さに吐き出してしまう。そんな彼の反応を見てこのパーティーに参加していた貴族たちは思わず顔をしかめてしまう。


「おい、自分で飲んで吐き出しているってことはもしかして味見をしてなかったってことか?よくそんなのを人に出せるよな。流石にそれはないだろ、せめて使用人に飲ませて美味いかマズいかくらいの確認は取っておけよ。」


彼が吐き出したことで自分たちに出されたものを公爵が飲んだことがなかったという事実に全員がたどり着き、口々に不満を囁くようになる。


もちろん、ベスト公爵も以前は人に出す前には必ず自分で味見を行ってから紹介していた。しかしながら最近では自分が目につけたものはかならず当たりであったため、慢心により、それを怠ってしまっていたのだ。


公爵があまりの不味さに放心しているといつまで経っても動き出さない彼にあきれてしまい、貴族たちは続々と帰宅してしまう。公爵が気が付いたときには既に会場は使用人たちしかおらず、このことが原因で貴族たちの間ではベスト公爵の不名誉な噂が広まってしまうのであった。


しかも、公爵にとっての悲劇はそれだけではなかったのだ。なんと、それからしばらく後に行われたとある男爵の誕生パーティーにて同様の品が出されることになる。それは、クレハ商会が別の大陸から輸入してきたコーヒーだったのだ。


そんなコーヒーに初めに目をつけ、クレハ商会で誰も目もむけない中、買っていったのがその男爵だった。彼の誕生パーティーに参加した貴族の中には公爵のパーティーに参加したものもいたため、コーヒーを出されてひどく不機嫌な顔をしているものが多かった。


しかしながら、誕生パーティーということもあり、飲まないというわけにもいかないため、覚悟を決めて飲んでみると公爵の時とは異なり、非常に美味しかったのだ。


そんなコーヒーを気に入った貴族たちはいったいこれをどこで仕入れたのかと男爵に食い入るように尋ね、男爵のパーティーは大成功に終わることになる。


しかしながら、そんな男爵とは反対にベスト公爵の名誉は一気に地に落ちることになる。公爵ともあろう人間が男爵が用意できた商品以下のものしか用意できなかったからだ。こうして、公爵は貴族社会の中で爵位は高けれど、指をさされてしまうようになったのだ。




執事から出されたクレハ商会のコーヒーを飲むまではベスト公爵も自分を非難する噂は誇張されていると考えていた。しかしながらこれを飲んだ後ではあながち間違えではないだろう。


「もしも、これが本物のコーヒーであるというのであれば私が商人から購入したコーヒーはいったい何なのだ!」


公爵はこのコーヒーの味が一般的なものであるというのなら間違っていたのは自分ではなく、商人であるということになるという結論に至ったのだ。今でさえ、王城に向かえばすれ違う貴族たちに陰ながら指をさされる肩身の狭い思いをしているのだ、そんな原因となった商人など生かしてはおけなかった。


「おい!今すぐにあの商人を連れてこい、この私に恥をかかせよって!どういうつもりか問い詰めてやる。」


公爵はプルプルと震えながら顔を真っ赤にして例の商人を連れてくるように執事に命令するのであった。


もちろん、自分のコーヒーが回りに回ってこのような事態を引き起こしていると知らないクレハは今日も領主としての仕事を全うしているが、いつもの様に追加の仕事が増えてしまうのも時間の問題なのかもしれない。


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