208 人間スーパーボール
男たちの一人がゆっくりと常務に向かい歩いてゆき、かがみこむ。そんな男の行動に常務は金を拾うのだと考え、ニヤリと笑みを浮かべたのだ。しかし、その瞬間に男はかがみこんだ姿勢からいきなり立ち上がり常務の顎めがけて拳を振り上げる。
そのまま、その拳は常務の顎を打ち抜き、ゴキッという鈍い音を奏でる。その音と共に常務の体は跳ね上がり、見事なバク宙を成功させた後、地面で何回かはね、動かなくなってしまった。
「ひぃーっ!」
チンピラたちは人間がしてはいけない動きを実現させた筋肉だるまにおびえ、顔を青くしている。
「なぁ、お前ら、俺たちの恩人を痛めつけようとしたんだよな?」
「お、恩人ですか?」
「あぁ、そうだ。ここにいるクレハさんは船乗りの俺たちが死んでしまう病気の対策を考案してくれたんだよ。この人のおかげで何人もの知り合いが救われた。
今日は嫌な予感がするから遠めでも良いので見守ってくれないかって言われて見てたらよ、お前たちが暴れてくれたってわけだよ。」
目の前の男たち、船乗りたちが完全にクレハの味方だったと知ったチンピラたちは自分達がどれだけマズい状況にいるのかをようやく理解し、次々に謝罪を始める。
それに、先ほどの発言でヘーデュ商会は自分達を切り捨てるということが分かったのだ。そんな人間たちのために自分たちが被害を被るなど馬鹿らしかったため、どうにかしてヘーデュ商会のせいで自分たちは仕方なく従っていたという風に終わらせたいと考えていた。
「す、すみません。俺たち、あいつらに脅されてて、それで仕方なくこんなことをしてたんです。もう二度と恩人様には近寄りませんから許してください。」
チンピラたちが頭を下げ、謝罪を行うと船乗りたちはうんうんと頷き始める。その様子を見たチンピラはどうにか助かったと安堵の表情を見せるが、次の瞬間には地獄に叩き落されてしまう。
「でもよー、お前、すごく楽しそうにしてたよな。俺はとてもじゃないけど無理やりやらされていたようには見えなかったな。」
「い、いやそれはですね。」
チンピラはどんどん嫌な汗を流し、この世の終わりのような顔をしているが、向かい合っている船乗りは溢れんばかりの笑顔だった。だからこそ、その笑顔がチンピラたちをより一層恐怖に陥ることになるのだった。
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