182 どうせやるなら徹底的にです!
「お、お待ちください。今回の件は皇帝陛下からの勅命ですので必ず、約束は果たされます。ですので、その心配はご不要です。」
使者は必死にクレハに約束なら守られるということを伝えるが本質を理解していなかったのだ。しかし、それも仕方ない。
彼は皇帝から今回の飴の騒動がクレハの行いによるものという話は聞いていたが、その行動に至った理由は聞かされていなかったのだ。だからこそ、皇帝の名に懸けた約束ということが最も信用できない約束であるということを把握していなかったのだ。
「はぁ、どうやら何も知らされていないようですね。何も知らされていないあなたにお教えしますと、皇帝が約束したところでそんなものは何の意味もないんです。
あなたからすれば皇帝が約束をするということは絶対的なものかもしれませんが、私からすればまったく効果がありません。いえ、むしろマイナス要素ですね。皇帝の約束というだけで怪しさが増します。」
「はい?あなたはいったい何を言っているのですか?」
使者はクレハが何を言っているのかを到底理解することが出来ず、困惑していた。そんな彼のためにクレハは事の始まりから丁寧に説明するのであった。
「というわけです。私がなぜ、皇帝の約束が意味をなさないと言ったのかお判りいただけましたか?そう言うことですので、私はどんな条件を出されてもそちらで飴を売ることはありません。
そもそも、欲しいものがあれば自分で稼いだお金で買えばいいだけです。皇帝に買ってもらう必要など全くありません。そう言うことなので、あなたには気の毒なことかもしれませんが、お引き取りください。
少なくとも、事情を知らないあなたが今のまま交渉を続けたとしても良い結果を得られるとは到底思えませんよ。交渉とは事前の情報ですべてが決まるんですから。」
クレハはそう言うと、今度こそ使者に帰ってもらおうと、立ち上がり扉を自ら開く。
クレハの表情は微笑ましいものだが、目では今すぐに帰れと言っているように感じた使者はいくら皇帝の命令で来ていると言っても、ここで自分までクレハの機嫌を損ねてしまえばそれこそ問題だと考え、今回はおとなしく引き下がるのであった。
「分かりました、本日はこれで失礼させていただきます。ですが、次回は必ずクレハ様が交渉に応じていただけるような条件を用意させていただきます。」
こうして、帝国からやってきた使者はクレハの元を去っていくのだった。そんな使者を見て、今までは一言も話そうとしなかったルークがようやくここで口を開く。
「オーナー、一応帝国からの使者ですけど大丈夫なんですか?王妃様に、使者がやってきたことを報告しておいた方が良いのでは?」
「ん~、そうね。使者が来たっていう報告は王妃様も心配なされていたからしたほうが良いと思うけど、特に何か手を貸していただくということは必要ないでしょうね。向こうもこれ以上何か問題を起こせばマズいことは分かっているのだろうし。」
「でも、このまま飴が帝国でも買えなければ帝国にとっては大打撃になるんですよね?それなら無理やりにでもオーナーを攫って飴を作らせるとかしないんですか?」
ルークは追い詰められた帝国が最悪の事態を巻き起こさないかを心配しているのだ。しかし、そんなことはもちろんクレハも想定している。
「まぁ、そうなる可能性はないとは言えないわよね。むしろ、皇帝が何もしなくても皇帝からの評価を受けたい貴族とかが勝手に何かするかもしれないわね。」
「じゃ、じゃあどうするんですか。やっぱり、使者の人をもう一度呼び戻してきましょうよ。」
ルークはすぐさま使者を呼び戻さないと大変なことになると焦っているようで今にも部屋を飛び出し、使者を呼び戻そうとしているがそんな彼を止めたのはクレハだった。
「ルーク、そんなことをする必要はありませんよ。あの様子だったらもう一度、訪れてくるでしょうし。その時にこちらから要求を突き付ければいいだけです。」
「えっ?でも絶対に帝国では飴を売らないって?」
「何言っているんですか。確かに、飴を売らなければ帝国には大打撃を与えることが出来ますが、私達には何のメリットもないですよ。
せいぜい、ざまぁみろと思えるだけですしね。それなら、帝国から利益を得たほうがましです。せいぜい、たんまりと頂きましょうか。
だって私たちは被害者なんですから。それに、なんだって条件をのむと言ってましたしね。今日、返したのは条件を飲ませやすくするためです。
確かに、何でもいいとは言っていましたが、それにだって限度はありますからね。どうせなら、事態の収拾を少しでも遅らして私の条件をのまざるを得ない状況になってもらわないと困りますからね。」
そんなことを話すクレハはルークが今までに見たこともないような悪い顔をしているのであった。
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