177 広がる飴玉
ここは帝国にある帝都の一角。ここでは連日、住人たちがとある商品を求め、押し寄せてきていたのだ。そんな彼らが求めているものは丸くて、小さくて、甘い、例のものである。
「あらなにこれ、こんなに小さいのにこれほど甘いなんてすごいわね。ほんと、帝国に生まれてよかったわ。」
「ほんとだよな、聞いた話じゃ、この帝国でしか買えないらしいぞ。どこの国でも買うことが出来なくて、他の国の奴らも俺たちのことをうらやましがっているらしい。」
「そりゃそうよ。だって、これ、ほとんどが砂糖らしいわよ。それなのに、こんなに安いなんて、いくらでも食べられちゃうわね。ほんと、帝国に生まれてきてよかったわ。皇帝陛下万歳、飴玉万歳!」
ここ最近、帝国の複数の商会に飴玉を卸す商人が現れたのだ。初めは正体不明の商人から商品を卸してもらうなど、ありえないというように怪しげな目で見ていたものの、その人間が持ってきた商品の話を聞き、一口食べるとこれは売れると考えた商人たちが自身の商会で販売を行うようになり、どんどん流通していったのだ。
今ではこの飴玉の存在を知らないものはおらず、帝国でも最も人気の商品として国内外問わず、有名なものとなっていた。
そんな飴玉を卸している不思議な商人だが、帝国でしか卸売りを行っておらず、他国ではこの飴玉は手に入れることが出来ないのだ。そのため、他国の人間は帝国に住んでいる人間のことをうらやましく思い、帝国国民は自分たちの生まれが帝国で良かったと思っているのだった。
もちろん、この話が第一皇女たちの耳に入らないはずがない。そんな彼女たちは甘い食べ物が帝国でも手に入れることが出来ると喜んでいたのだろうか?いや、その逆である。
「お父様、城下でうわさになっている飴に関してご存じですか?」
「あぁ、話は聞いている。なんでも砂糖をふんだんに使っている飴というお菓子が安価で購入できるらしいな。しかも、この商品は帝国でしか買えないのだろう?」
「はい、その通りです。国民はこの飴が帝国でしか買えないと知って帝国に生まれてきてよかったと言っているみたいですね。」
城では第一皇女と皇帝が巷で噂の飴に関して話している。本来であれば帝国でも消費活動が盛んになったと喜ぶべきであるはずだが、二人の顔色は良くない。
「そんなものは良い、それよりも心配なのは飴に関してだ。あれはもしかして、」
「はい、おそらくお父様が考えている通りかと。あれだけ、大量に砂糖を使っている商品なんて用意できる人間は一人しかいません。砂糖の生産を可能にした人間が二人も急に出てくるはずがありませんよ。つまり、あの、飴を作っているのはクレハということになります。」
そう、二人は例の飴玉の生産を行っている人間がクレハということに気が付いていたのだ。しかし、その意図に関してはどれだけ頭をひねっても理解することが出来ない。
「だが、どういうことなんだ。あのバカに帝国から追い出されたばかりというのに、そんな国にわざわざ砂糖を配るなんて何がしたいんだ?しかも、うちだけというのが余計に分からん。」
「そうなんですよね、逆に帝国以外の国にだけ売り出すというのなら粛清として理解できるんですが、その逆とは。逆に考えが理解できなくて不気味ですね。」
二人はクレハの理解できない行動を不気味に思うがその意図が分からない為、何も対策をとることが出来ないのであった。
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