159 乱闘の始まり
「おい、貴様なにをしている!殿下の身を傷つけるなど大罪だ!この場で首をはねてやる!」
兵士はルークの行動にヒートアップし、剣を抜く。しかし、それでもルークは引き下がろうとしない。もしも、自分が引きさがってしまえば間違いなくクレハは連れていかれてしまう。それだけは我慢できなかったのだ。
「無礼だと、ふざけるなよ!オーナーを誘拐しようとしたくせに何が無礼だ!お前たちなんてやっていることは盗賊と変わりないじゃないか!」
そんなルークの言葉にただでさえ沸点が低い兵士は限界を迎えてしまう。
「貴様!誇りある我々を盗賊などと侮辱する気か!もう許せん、殿下、こいつを処刑する許可を!」
「はぁ、仕方ないね。彼が僕とクレハの邪魔をするというのであればそれは自業自得だ。悪いけど、死んでもらおうか。」
そんな第四皇子の無慈悲とも理不尽ともいえる命令を聞いた兵士はすぐさまルークを殺害しようと剣を向ける。
しかし、そんなルークを助けたのは意外な人物だった。突然、兵士に向かってガラス瓶が投げつけられたのだ。さっきに満ち溢れていた兵士はその衝撃で血を流し、倒れ込んでしまう。
「お、おい!大丈夫か!誰だ、こんなことをしたのは。兵士に対する暴行は犯罪だぞ!」
第四皇子が叫びだし、引き連れていた兵士たちも自分たちに被害が及ばないように周囲を警戒している。
「おいおい、何が犯罪だ!お前のやっていることの方がよほど犯罪じゃないか!」
クレハとルークの二人はその声の主を確認する為に振り向くと、そこにいたのはポティリ男爵やコーカリアス王国の出店枠の貴族や商人だった。
「ポティリ男爵!それに皆さんも、これはいったい?」
「ビオミカ男爵!先ほどからの話は聞かせてもらっていたよ。どう見ても悪いのはこいつらだ、あんたは逃げな!ここはあたしらに任せておくれよ!」
「待ってください!それでは皆さんがどんな目に合うか。」
いくら頭のおかしな人間だとしても相手は皇子なのだ。そんなことをしてしまえば彼らの身が危ないと感じたクレハは彼らを引き留めようとする。
「何を言っているんだい!こっちはこんなに人数がいるんだよ、この程度どうにでもなるさ!それに、こっちは昨日、あんたに仇を討ってもらった礼があるんだよ。これくらい返させてくれよ。」
ポティリ男爵が言っているのは昨日のテクネー王妃の件だ。みんな、さんざん自分の展示物を彼女にバカにされて、落ち込んでいたがクレハのおかげで彼女はみっともなく逃げ出し、胸の内がスカッとしていたのだ。そのため、みんな口には出していないがクレハに感謝していた。
「何を言っているんですか!そんなことで埋め合わせになんか、なるはずがありません。今なら何とかなりますから、皆さん落ち着いてください!」
「いいや、これが落ち着いていられるか!いいからビオミカ男爵は逃げな、王国まで逃げれば帝国の追っ手は入ってこられないさ。なに、いくらこの国の皇子と言えどビオミカ男爵を誘拐しようとしたんだ。
明らかに大義はこっちにある!きっと、王妃様なら何とかしてくれるさ。だから心配するな!さっさと、部下を連れて逃げな!まぁ、それでも足りないって言うんなら、ここにいる全員にビオミカ男爵の砂糖を譲ってくれれば文句はないけどね。むしろ何人かはそれが目当てなんじゃないか?まったくケチな奴らだよ!」
こうして、ポティリ男爵たちのおかげでクレハ達は連れ去られる前に万博の会場を逃げ出したのだった。万博以来、一度もなかった途中退場という異例の出来事となっているとも知らずに。
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