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146 ガラス職人ポティリ男爵

帝国万博は三日間の日程で行われるが本日はその一日目である。出店ブースは各国でまとまっているため、クレハの周囲にいる者たちは皆、コーカリアス王国の参加枠だ。


「ビオミカ男爵、準備の出来はどうだい?」


クレハに話しかけてきたのは同じ出店枠に選任されたポティリ男爵だった。彼女の領地ではガラス産業が盛んで見事なガラス細工が気に入られ、今回の出店権を獲得したのだ。そのうえ、彼女は男爵であるとともに、職人でもある。


職人だからか、元々の性格なのか彼女は今までにクレハが出会ってきた自分勝手な貴族ではなく、互いに尊敬できるような人物だった。職人でもあるため貴族らしからぬ口調と言われてしまえばそれまでだが、そのようなことを気にするクレハではない。王妃に仕えているサラを見ていれば彼女の言葉使いなど可愛いものだ。


「ポティリ男爵、順調ですよ。こちらのルークが手伝ってくれていますので、予定よりも準備が早く終わりそうです。」


「そいつは良い部下を持ったね。あたしのとこなんて指示を出さないと動かない部下ばっかりで困ったもんだよ。なぁ、ルークといったかい?私の所に来るつもりはないかい、待遇は要相談ということで?」


その言葉にクレハは驚いてしまった。まさか、本人のいる目の前で引き抜きをするとは思ってもいなかったからだ。予想外のことに大胆な発言をしていることに気づいてすらいない。


「ちょっと、ポティリ男爵!ルークは私のルークですよ。あなたにはあげません。」


「おや?それを決めるのは本人じゃないのかい?」


「うぐっ、そ、それはそうですが。」


クレハはポティリ男爵の正論に何も言い返せないでいたが、その必要はない。ルークの答えなどすでに決まっているのだから。


「申し訳ございません。僕の居場所はビオミカ男爵のいるところなのです。僕はどなたに誘われようと去る気はありません。」


「ルーク。」


ルークの本心を聞き、クレハはつい嬉しくなってしまう。もしかすればポティリ男爵の元へ去ってしまうかもしれないと心の中では思ってしまったが自分のことをここまで思ってくれていると分かり安心したのだ。


「なんだい、あんたらそういう仲なのかい?そう言うことなら早くいっておくれよ、悪かったね。あたしのところは優秀な人材が少ないからね、とにかく見つけたら声をかけてるんだよ。本人にその気がないのならこれ以上はしつこく誘わないから安心しておくれよ。」


「い、いえ、そういう仲というわけではないんですか。」


「そ、そ、そうですよ。僕とオーナーは部下と上司の関係なんですから。」


二人ともポティリ男爵の言葉に恥ずかしくなったのか急に顔を赤くして動揺し始める。


「あんた達、分かりやすいね。まったく、見せつけてるんじゃないよ。」


誰が見ても分かりやすい二人の反応にやれやれと首を振るのであった。


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