127 乙女の秘密
ここはアルケーの街、クレハの屋敷だ。今日はいつにも珍しく、クレハの元を訪ねるお客さんが来ていた。
「クレハ、久しぶりね。元気にしてたかしら?」
「クレハ様、先日はありがとうございました。おかげさまで体型も元通りです。」
そう、王妃とサラの二人であった。
「お久しぶりです。それにしても突然の訪問ですね。事前にご連絡を頂けましたら精一杯のおもてなしをさせていただきましたのに。」
「いいのよ、大々的に来るのはマズいからお忍びなの。だからそこまでする必要はないわ。今日はね、クレハの様子を見に来たの。」
「私の様子ですか?」
「そうよ、前に城に来てもらったのを数えなければクレハが貴族になってから一回も街の様子を見に来てないでしょ。さすがに私がクレハに貴族になる話を持ってきたのだから、それくらいは見届ける責任があるわ。
だからね、今日はあなたが貴族になってからどれだけのことを成し遂げたのかを教えてくれるかしら?あっ、でも食べ物に関してはほどほどにね。またサラがあんな姿になったら今度こそ終わりだから。」
「王妃様!私はたとえどれだけ醜い姿になろうと、食べられるはずの食べ物をみすみす逃すわけにはまいりません。そんなことをするのであれば豚にでも何でもなったほうがましです。」
サラはきっぱりと己の心情を告げる。先日,自身の体型に自信を持てず、引きこもっていた人間とは思えないほどだ。
「あなた、私は醜い人間です~って泣き叫んでたじゃない。ふぇ~んって、あの時のしおらしいサラはいったいどこへ消えてしまったのかしら。」
サラの辞書にも恥じらいというものは存在していたのだろう。先ほどの王妃の発言に顔を赤くして恥ずかしげな表情を浮かべている。サラのこんな表情は非常に新鮮だ。
「お、王妃様!いくら王妃様と言えどもこれ以上、私の黒歴史を暴露するのは許しませんよ!これ以上お話になるのであれば、私にも考えがあります。
王妃様が夜中に陛下の寝室にお邪魔して良いものか部屋の前を行ったり来たりして悩んでいるのをみんなにばらしますよ。乙女じゃないんですから、そんなことで悩む必要性などないじゃありませんか。」
余りの恥ずかしさに、サラは言ってはいけないことを放ってしまったのだ。先ほどからあきれ顔のような表情でサラをからかっていた王妃は突如、氷のような表情になり、サラへと笑みを浮かべる。
「そうですね、私はいい年をしたおばさんですから、そのようなことで悩むのは馬鹿らしいですよね。あっ、気にしないでください。事実なので全然、怒っていませんから。
サラには城に帰り次第、それは、それは、きっつ~いお仕置きをするのは置いておいて、クレハに伝えることがあるのでした。あっ、やっぱりサラには食事を抜きが良いでしょうか?
人間は一週間くらい食事を抜いても全然大丈夫らしいですよ。私、人間がご飯を食べずに生きていける具体的な日数を知りたいと思っていたんです。
ちょうど、手ごろな実験動物も手に入りそうなので、城に帰り次第実験してみてもいいかもしれないですね。」
サラは禁忌に触れてしまったのだ。先ほどから話す王妃の目には光がともっておらず、ただただ暗い暗黒のようであった。一歩、また一歩とサラの元に静かに足を進めていく。さすがのサラも王妃の変わりように恐怖し、一歩一歩と後退していくが、ついには壁際へと追い詰められてしまう。
「お、王妃様、じょ、冗談です。冗談ですので、どうかお静まり下さい。」
サラは必死に王妃に許しを請うが王妃の耳には全く入っていないようだ。ゆっくりと、しかし確実にサラの元へと足を進める。部屋にはサラの悲鳴が響き渡るのであった。あまりの恐怖に、少しだけ漏らしてしまったのは墓まで持っていくサラだけの乙女の秘密である。
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