123 転機
自らの抱えていたお抱え商人をすべて失った伯爵はそれから本当に大変であった。いくら伯爵が権力や財に任せて優れた商品を生み出すことができると言ってもそれだけだ。
作ったものを売らなければ手元には一切お金は入ってこない。今までは商人たちにそれらの点は任せていた。しかしながら、今ではお抱え商人の1人もおらず、いまさら別の人間にやらせようとしても急にはそんな人間は見つかるわけではない。
「クソ、クソッ、クソ!どうなっているんだ、タダでさえ羊皮紙が売れていなかったのに今では売り上げがゼロだと!おいどういうことなんだ、この状況を説明しろ。それに、最近のワシの食事は何だ、あんな質素な食事はワシに似つかわしくない。今すぐに以前のような食事を用意しろ。」
伯爵は執事に向かって羊皮紙が全く売れなくなったこと、最近の食事の質が下がっていることを問い詰める。伯爵に問い詰められた執事は真実を告げるのであった。
「旦那様、羊皮紙が売れなくなったのはお抱え商人が一人もいないからです。もちろんあの忌々しい男爵のせいで最近の売れ行きは低下していました。しかしながら、羊皮紙の売り上げもゼロではなかったのです。
商人たちが羊皮紙を我々から購入し、売り出していたことによっても僅かですが売り上げが保たれていました。しかしながら、先日の一件でお抱え商人は一人もいなくなったため羊皮紙を買い取る商人がいなくなってしまったのです。」
執事は伯爵に命じられた通り、羊皮紙が売れない原因を説明する。しかしながら、その説明が気に入らなかったのだろう。伯爵は執事をにらみつけている。
「きさま、それでは無能な商人たちを追い出した私が悪いというのか!そういうことか!」
執事としては聞かれたことに正直に答えただけであったが、伯爵の耳にはそうは聞こえなかったのだろう。伯爵からすれば自らの行為に執事風情が指図するなどあってはならないのだ。
「滅相もございません、ご不快にさせて申し訳ございません。」
執事が謝罪をするも伯爵の機嫌は悪くなる一方だ。伯爵はいつものようにストレスを発散しようと執事にものを投げつけようとしたが、それを止めたのは屋敷に仕えているメイドであった。
「旦那様、失礼します。旦那様にぜひお会いしたいという商人がいらしているのですがいかがいたしましょうか?」
まさに商人を必要としている伯爵。執事でストレスを発散しようとしていた時にメイドに止められたのは気に入らないが商人が会いに来たということであれば、そうはいっていられない。今、この状況で商人がいなければ本当に伯爵家の財政は傾いてしまう。
そのため、伯爵はすぐにでも商人との話し合いに応じるために、応接室へと通すようにメイドに命じるのであった。
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