118 戦いの末路
「気にしないでください、どちらもちゃんと飲みますよ。それでは、まずは店の棚に置いてある醤油です。」
クレハはスプーンで少しだけ掬い醤油をなめる。味自体は問題ないが本来醤油とは調味料であるため、そこまで食べるものではなく、非常にしょっぱい。
「問題ありませんね、それではあなたが持ってきた醤油です。」
クレハは男が持ってきた醤油をスプーンですくう。その瞬間、男の顔がにやけているのを見逃さなかった。口へと運ぶスプーンをいったん止め、男に話しかける。
「何かおかしなことでもありましたか?先ほどから顔がにやけているのを隠せていませんよ?」
その問いに、男は動揺する。しかし、男が動揺したのは一瞬で再び怒鳴り声をあげる。男からしてみれば何の証拠もないため、動揺する必要がないと思ったからだ。
「うるせえ!何も問題はないだろう!さっさと飲めよ、それとも醤油はやっぱり毒だから飲めないっていうのか?」
「いえ、醤油自体は先ほどの店の棚から取り出したものを飲んでいる時点で毒ではないことの証明はなされました。おや、あなたが持ってきた醤油にスプーンを入れたら色が瞬く間に変わってしまいましたね。
このスプーンは銀でできているスプーンなんですが。銀のスプーンの色がこの醤油に触れてから変わってしまったということはこの醤油に毒が盛られているということです。銀食器に毒が触れると色が変わるということは知っていますよね?これはいったいどういうことでしょうか?説明してくれますよね?」
その瞬間、男はすべてを悟り、冷や汗を流し始める。クレハをはめようとした男であったが、逆にその策を利用されてはめられたのは男のほうであった。しかしここで罪を認めてしまえば大変な目に合うことは目に見えている。男は罪を認めることなく、クレハに言い寄る。
「うるせぇ!そんなの信用できるかよ、さっき食べた醤油にたまたま毒が入っていなかっただけだ。」
「それでは店に並んでいるほかの醤油も食べましょうか?何度やっても無意味だとは思いますが。あなたが毒をこの瓶に入れて毒があると言い張っているのは既に明白です。ですが、あなたがこんなことをやる必要はありませんよね。つまり、あなたの雇い主がいるはずです。その人間を今すぐに話しなさい。」
「だ、誰がそんなことを言うか!この醤油は毒なんだ。」
「状況を理解していないようですね、あなたは自分の命を懸けて黒幕をかばうか、減刑を求めてしゃべるかの2択しかないんですよ。
最も、自分の命を懸けるのは結構ですが、今回のことでいくつもの罪を犯しているわけですから、それは、それは、厳しいことになると思いますね。領内で起こったことは領主の判断で刑を執行できますので他の貴族が介入することもできませんし。
私だったら、命が惜しいですから、簡単に話してしまいますが、どうやらあなたは見上げた忠誠心の持ち主のようです。
いやぁ~主人のために自らの命を犠牲にするなんて泣かせるじゃないですか。貴族の中には平民を道端の石ころ程度としか考えていないような人たちもいますので、あなたの主は素晴らしい人ですね。」
クレハがニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら男に尋ねると瞬く間に顔色が悪くなってしまう。男の主人が自身のことを石ころ程度にしか考えていないと思い出したのだろう。
そのうえ、男は事前に罪など、どうにでもしてやると言われているから従っていたのだ。領内で起こったことは領主の裁量に任されているということは知らず、今頃になってようやく理解したのだ。自分が捨て駒であったという事実を。
そこからは早かった。どちらに命を任せれば生き残ることができるのかなど火を見るより明らかだ。男はすぐにでもクレハに助命を懇願するのであった。
「ちょっと待ってくれ、いや、ください。私は命令されただけなんです。知っていることは何でも話しますから、どうか助けてください!」
男は先ほどまでの態度と打って変わり、クレハに頭を下げる。クレハは想像以上にうまくいったことに喜びつつも、最後までそれを表情には出さない。男は重要な証人であるため厳重な警備の元、牢で情報を聞き出すのであった。
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