111 新しい調味料は未知の味
「いらっしゃいませー、本日、クレハ商会・アルケー店がオープンしました!ご覧になるだけでもいいので、いらしてくださいー。」
ルークや従業員たちが店の前で客引きを行っていると、通行人たちが足を止める。最近では新たな商会がオープンしたことはなかったので足を運んでみようと考える者たちがいたのだ。
「おにーさん、この商会では何を売っているんだい?」
客引きを行っているルークに主婦らしき通行人が話しかける。主婦ともなれば近所の商会などが気にならないはずもなく、この手の話には目ざといのだ。
「いらっしゃいませ、こちらの商会ではさまざまなものを取り扱っていますが、ここでしか手に入らないのは醤油です!」
「醤油ってのは何だい?何かの食べ物かい?」
「ご説明させていただきます、醤油とは調味料の一つで料理の味付けに使います。当商会で新たに発明した商品です。」
ルークの言葉に彼女は驚いているようだった。
「へーっ、塩とか香辛料以外に味付けがあったんだね。初めて知ったよ、それっておいしいのかい?」
「こちらが醤油を使って作った豚の角煮です。この豚肉はどこにでも売っているような豚肉ですので、食べてみてください。とっても美味しいですよ、醤油を買っていただいたら、この料理のレシピも一緒にお教えしています。」
すると、ルークは豚の角煮を差し出す。しかし、見た目が黒いためか、彼女も少しためらっているようだった。
「う~ん、この黒いものを食べるのかい?お兄さんを疑っているわけじゃないんだけどね、これ食べても大丈夫なのかい?」
「安心してください、この商品を開発したのはこの街の領主様なんです。この商会は領主様が会頭ですので信用していただいて大丈夫です。」
ルークは見た目からこの食べ物が受け入れられないことを予想していたため、事前にクレハから名前を使うことを許可してもらっていたのだった。彼女はその言葉を信じたのか、一口食べるのであった。
「そうなのかい、領主様が作ったのなら食べないのは失礼だね。それじゃ、少し怖いけど頂きます。・・・・・うまーーい!なんだいこれ、このお肉、高級品なのかい?こんなに柔らかいお肉を食べたのは初めてだよ!」
一口食べればそのおいしさに目を見開く。彼女もこのお肉の柔らかさに驚いたのだろう。一口一口かみしめる顔が幸せに満ちているようだ。
「これはどこにでも売っているお肉で、誰でも買えるものですよ。この調味料が美味しさと柔らかさの秘密なんです。見た目は初めて見る色をしていますが、とっても美味しいでしょ?」
「ええ、これとっても美味しいわ。旦那にも食べさせてあげたいくらいよ。ねぇ、この醤油を買ったらさっきの奴の作り方も教えてくれるの?」
「もちろんです、この醤油は先ほどの料理だけではなく、ほかの料理にも合うので色々試してみるのもいいですね。」
「それは嬉しいわね、それに私は料理をするのが好きだからね。この醤油の使い道を研究するのも楽しそうだよ。いくつかもらっていこうか。」
「お買い上げありがとうございます。」
他の従業員たちも豚の角煮を来店した人たちに勧めており、食べたひと皆が気に入ってくれたようだ。先ほどから醤油がどんどん売れていき、用意した在庫が足りなくなりそうだった。あの美味しい食べ物が食べられるのであれば見た目など誰も気にしないのだ。
その日から主婦の口コミで瞬く間に醤油は広まったのであった。しかし、世の中には人の成功を見ればいちゃもんをつけることしかできない人間もいるのだ。
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