108 現金なヤツ
とある伯爵領、領主の屋敷にて、領主とその執事が何やら極秘の会話を行っていた。
「おい、それで奴らはわしの言う通りに紙の生産を中止したのか?」
「それが旦那様、忌々しいことに私が伯爵家から話に来たと言っても断固として生産を中止することはないと申しており、全く聞く耳を持ちませんでした。」
「なんだと!わしは伯爵だぞ、王妃の気まぐれで男爵になった成り上がりの小娘風情がいい気になりおって!」
「旦那様、このような方法をとられるのはいかがでしょうか?」
執事は領主の耳元で自らの考えを囁くと先ほどまでいらだっていた領主の顔が次第にニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。
「良いではないか!よし、この件はお前に任せる。わしに逆らった小娘を地獄に叩き落せ、成り上がりに貴族の恐ろしさを教えてやろうではないか。なに、心配ない。王妃が背後にいようと、この程度で動いていてはそれこそ問題だ。むしろ、王妃が動こうものなら、その件で攻め立ててやるわ。」
自らに従わなかったクレハに対して憎悪を抑えきれない伯爵はクレハに破滅を与えるために動き出す。
王城からアルケーの街に帰ったクレハであったが、迎えてくれたのはルークではなくドルクスであった。
「クレハ様!大変です、あのクソ執事やりやがりました!」
ドルクスはすごい勢いでクレハに迫ってきた。あまりにも、衝撃的なことがあったのか、いつもの丁寧な言葉遣いから汚い言葉に変わってしまっている。そんな切羽詰まったドルクスに若干引きつつもクレハは話を聞くのであった。
「ドー、ドー。落ち着いてください、何があったのか話してくれなければ何もわかりません。まぁ、大体想像はつきますが。」
「あの執事をよこしてきた伯爵家を調べたのですが、その伯爵家が統治している領地でアルケーの街を統治している領主の頭がイカれているという噂で持ちきりだったんです!」
クレハは自分の知らないところで頭がイカれていると噂されていると知り、顔をしかめる。誰だって自分の頭がおかしいと言われていればそうなってしまうだろう。
「それで、詳しい話を聞かせてくれますか?」
「クレハ様が考案された肥料に関してです。紙の製造に関しては情報漏洩に徹していましたが、肥料に関しては特に情報漏洩の策を行っていませんでした。
そのため、伯爵家がこの話を聞きつけたのでしょう。アルケーの街の領主は食べ物を育てる畑に家畜の糞をばらまく頭のおかしな人間という噂が。
今は伯爵家の領地のみですが噂はすぐに他の領地にも広がってしまいます。確かに、クレハ様の頭はおかしいですが、何もここまですること、へぷっ。」
突如、ドルクスの頭にクレハのゲンコツが炸裂する。クレハが直接的にこのような行動をとることは非常に稀なことである。クレハのゲンコツを受け、座り込んでいるドルクスにクレハは冷たい目を向ける。
「ド・ル・ク・ス。くだらないことを言っていると、その寂しい頭にゲンコツをたたき下ろしますよ。」
「いや、クレハ様、ゲンコツをたたき下ろすって、すでにたたき下ろしていますよね?」
ドルクスの反論にただでさえ、冷ややかなクレハの目が一層冷ややかなものになる。その様子に、ドルクスは年甲斐もなく、悲鳴を上げてしまう。
「何か、言いましたか?」
「ヒッ!い、いえ、何でもございません。失礼いたしました。それで、話を戻しますが、例の伯爵家に関してはどういたしますか?」
「それに関しては、新しく商会を開店して新たな商品を販売するので、それで様子を見ましょう。新しく販売する商品も見た目は奇抜ですが、美味しいので私が行っている行動が一件、理解できないできないものでも正しいと証明できるはずです。それでも、改善されない場合は別の方法を考えましょう。」
「かしこまりました。そのようにいたします。」
ドルクスは先ほどクレハから、さんざんな目に合わされたというのに、全く懲りていない様子だった。口ではクレハの言うことに、賛同しているがクレハがまたもや新しく商品を出すと知り、少し心配そうにしている。
彼にはいまだに、クレハの考えていることが理解できず、少しかわっつた人間程度としか認識していなかった。ドルクスの表情からクレハは自分のことを未だに頭のおかしい人間と思っていると考えたため、ここである作戦を考えつく。
「そういえば私、とある食べ物を知っているのですが。薄毛に効果があったり、なかったりするらしいのですよね?でも、一般的には誰も食べないようなもので、それを勧めてしまうと私の頭がおかしいと思われてしまいますよね。
はぁ~、本当に残念です。そのような他人の目を気にして、数少ないチャンスを棒に振ってしまうなんて。」
クレハがニヤニヤとしながら、ドルクスをちらちらと見つめる。そんなクレハの真意にドルクスは気づいたのだろう。
「わ、私も他人の目を気にしてチャンスをふいにするのは愚かな行動だと思います!重要なのは結果が得られるかどうかで、その方法がいかに奇抜なものでも問題ありません!サー!」
ドルクスは姿勢を正し、クレハに最敬礼を行う。ドルクスはようやく、クレハの知識に関して心から信じるのであった。
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