107 大豆パワー
それからしばらくの日数が経ち、ようやくクレハの求めていた材料がそろったと報告を受ける。
「クレハ、聞いていた材料は用意させたけど、こんなもので何を作るの?とてもじゃないけど、食べ物を作れるとは思えないけど。」
「これがヘルシーな料理に化けるんです。調理してきますので、少しお待ちください。王妃様もお食べになりますか?」
クレハは王妃に料理を進めるが王妃は気が乗らないようだ。王妃からすれば用意された材料の中には得体のしれないものも入っており、食すにはハードルが高い。
「う~ん、クレハが出す料理を疑っているわけではないんだけど、この黒い液体とか、苦い水を食べるとなるとチョットねぇ~。」
「この苦い水はともかく、黒い液体は醤油と言い、様々な料理に使用することができるんですよ。今度、領地にある町で商会を出店させる予定で、その際に醤油を使った料理を提供するのでぜひ、いらしてください。」
クレハの説得により、新たに出される料理を食べてみようと決心する。
「分かったわ、クレハがそこまで言うなら頂いてみようかしら。」
クレハは早速、王城の厨房を借り、料理を始める。
「お待たせしました。こちらが、ダイエットのための料理です。」
クレハが厨房に向かい、しばらく経った頃、白いお皿で白い物体を運んできた。見たことの無いような白い塊に王妃もサラも目を釘付けだった。
「クレハ、この料理は何なのかしら?ただの塊にしか見えないのだけれど?」
「これは豆腐と言います。本来はこれに醤油やネギなどをかけて食べるのですが、まずはそのまま食べてみてください。わずかですが、豆本来の味が感じられると思います。」
クレハが王妃に豆腐を勧め、王妃が食べようとしたその瞬間、王妃の手からいつの間にか豆腐が消えてしまっていた。
「こ、これは!ただの白い塊に見えましたが、舌触りも良く柔らかいとは!初めての食感です!ですが、あまり味が無いような気が?」
王妃が食べようとする豆腐を奪ったのはサラだった。サラは体型に見合わない俊敏な動きでクレハも王妃も気づかぬうちにサラの胃袋に収まっていたのだ。
またしても自らが食べようとしていた食事をサラに取られ、王妃はワナワナと震えていた。未だ豆腐を食べているサラの後ろから拳を振り上げ、一撃でサラを沈める。拳を振り下ろされたサラの頭からは今も白煙が昇っている。
「さて、邪魔者はいなくなったから私も頂きましょうか。あら、見た目と違ってとても柔らかいのね。でも、私には味を感じられないわ。」
「基本的には何かを付けて食べるものですので。こちらの醤油をつけて食べてみてください。一緒にネギとショウガもどうぞ。これで美味しく食べられます。そのうえ、これならば肉などに比べ太りにくい食品です。」
やはり、女性にとって太りにくいということは一種の魔法のようなことなのだろう。クレハから太りにくいという言葉が出た際に王妃の目が輝きを放っていた。
「それはいいわね、では頂きましょうかしら。ん!本当だわ、先ほどと比べて全く違った味になったわ。これは美味しいわね、それに太りにくいなんてなんて素晴らしい食べ物なのかしら。この味は醤油というものの味なのかしら?」
「その通りです、見た目こそ黒い液体ですが、これはとても優れた調味料ですので豆腐にも合うのです。他にもさまざまな料理に使えますよ!」
「確か、あなたの領地で新たに醤油を使った料理を販売すると言っていたわね。ここまで優れた醤油を使っている料理があるのなら、今度お邪魔するわね!」
他にはどのような料理があるのか?いったいどんな味がしているのか?まだ見ぬ味に王妃は期待を寄せている。
「もちろんです、その際にはぜひご馳走させていただきます。」
王妃が豆腐の作り方を教えてほしいと尋ねてきたため、作り方と材料がどこで用意できるのかを料理人に教えるのだった。
一通り説明をし、クレハは新たな店舗を開店させるために、アルケーへと帰還する。
「あれ?何か忘れているような気がするのですが?まっ、忘れているということは大したことがないのでしょう。」
王妃のゲンコツからサラが目を覚ましたのはそれから少し経った後だった。いつの間にかクレハはいなくなっており、後から王妃に醤油の話を聞いたサラは気絶しており、食べることができなかったため、ショックを受け泣き叫ぶのであった。
幸いなことに、クレハがいくつか王妃に用意して帰ったため、醤油は残されていた。それから、王妃の命令でサラの食事には毎日豆腐が出されることになる。風の噂では以前は部屋に閉じこもっていたメイドの1人が今では人目を気にせず、仕事をしているのだった。
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