102 利益が出れば変な虫もわく
それはコーカリアス王国の貴族や商人たちに瞬く間に広がっていった。今までのものと比べれば使い心地も優れていて、かさばることがない。何より、今まで使用していたものよりも格段に安上がりなのだ。今までは節約していたそれも、この値段であれば必要がない。
今まで使用していたものは何だったのかと思い、売り切れてはならないと皆それを際限なく求めたのであった。それほど、一度それを買った者たちは商品の虜になっていた。そう、クレハが新しく開発した紙である。
「クレハ様、こちらの書類にサインをお願いします!こちらもです!すでに現在の製造施設では注文をこなすことができません!さらに増設する必要があります!」
「オーナー、新たに他国の商人さんからも大口の注文です!もうこれ以上注文があればパンクしちゃいます!」
「あーもう!どうしてこんなことになってるんですか~。さすがにこれは予想できませんよ~!」
クレハの元にドルクスとルークが大量の書類を持って押し寄せていた。二人とも忙しそうにしているが、一番大変だったのはクレハだった。国中から紙の注文が殺到しており、それに伴う書類の整理や製造施設の増設による予算の確保など、目を通す書類が山のように積みあがっていた。
クレハは最近ではろくに睡眠時間もとれておらず、目にはクマがはっきりと浮き出ていた。さすがにこれでは過労で倒れてしまうと考えたクレハはドルクスに何とかするように頼む。
「ドルクスさん、これではいつか絶対に倒れてしまいますよ!もっと人員はいないのですか?せめて、必要な書類と不要な書類を仕分けできる人材くらいは欲しいですよ!最後にベットでちゃんと寝たのはいつだと思っているんですか!毎日、毎日、寝るのはこの書斎で目が覚めれば書類に目を通してで、もう限界です!」
最近の寝不足のため、クレハは普段では気にしないようなことでもイライラしてしまったようだ。さすがにドルクスも今のような事態はまずいと考えていたのか、追加の人員を用意してくれていた。
「クレハ様、あと二日お待ちください!もうじき、私の知り合いの文官が到着しますので、彼らが来れば今の状態も改善されるはずです。ですから、どうかそれまではご尽力ください、お願いいたします。」
クレハの寝不足な生活はまだまだ続くようであった。
三日後、クマができて寝不足な顔をしていたクレハの顔はどこにもなかった。すでにクマは無くなり、クレハは清々しい朝を迎えていた。昨日、ドルクスの言っていた文官たちが到着し、久しぶりにベッドで眠ることができたからだ。
朝食も久しぶりにゆっくりとることができ、満足している所にルークがやってくる。
「オーナー、ようやくゆっくりできますね。それにしても、まさかここまで人気の商品になるとは思っていませんでしたよ。」
「それはそうですよ、何よりコストが圧倒的に違いますから。そこらへんは商人が特に気にしていることですからね。利益につながるのなら我先にと利用しますよ。」
「これで街の発展に色々費用を使えますね!次は何の開発を行うんですか?」
「農業改革は結果が出るまで時間がかかるので領内に人を呼び込むためにお金を使いましょう!」
クレハには次の開発のアイデアがすでに思いついているようだった。ルークがそのアイデアを聞こうとすると、ドルクスが二人の元を訪れる。
「クレハ様、お客様がいらしています。」
「どなたですか?」
「それが、どうやら伯爵家の人間のようです。用件を尋ねてもクレハ様を出せの一点張りでして。」
「とりあえず、相手が貴族の関係者であるならば、面倒ですが追い返すことはできなさそうですね。」
クレハはようやくゆったりと過ごせると思っていたところに厄介ごとの種がやってきたような気がしてため息をつくのであった。
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