表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第四章:自分のことすら理解出来ず、それでも君を理解したい
85/358

殺されたい

 エルの大きな声で、気持ちが揺らぐ。 本当に俺などのことが好きなのだろうか。 などと疑ってしまう心が、ほんの少しはある。


「本当に好きです」


 エルは感情が高ぶりすぎたのか、こちらを見て涙を流しながら言葉を続ける。


「アキさんが、本当に僕のことを好いてくれてるなら、その千倍は僕はアキさんのことが好きです」


「それはない」


「アキさんが僕を守ってくれないと、情け容赦なく僕は死にますから。

この世界だけじゃなく、元の世界に戻ってからも死にます。 大好きなアキさんに約束を破られて、その絶望を味わいながら死にます」


「無茶苦茶だ……」


 エルは俺の前に立って、涙でぐしゃぐしゃになった顔を俺に向ける。


「守って、ください。

僕、今日は帰りたくないです」


 エルは俺の肩に手を伸ばし、俺の目を見詰める。


「しゃがんで、ください」


「え……」


「いいから、しゃがんで、目を閉じてください」


 命令に従えば、エルの吐息が唇を撫でる。 そこからすっと横にズレて、頰に少しだけ湿ったような柔らかい何かが押し当てられる。

 驚いて目を見開くと、エルの顔がそこにあって、恥ずかしそうに目を閉じて、唇を俺の頰に押し当てている。


「エ、ル」


「んぅ、目を閉じていてって、言ったじゃないですか。

僕は約束、守りましたよ。 だからアキさんも守ってください」


 僕のことも、約束も。


「今日は帰りたくないです。 アキさんになら、殺されたいです。 だから、一緒にいましょう。 一緒にいてください」


 エルのための決意が、エルにより絆される。 エルと一緒にいたい、そんなの当然だ。

 でも、それではエルを襲ってしまうかもしれない。


「少し、待っていてくれ。 迎えに行くから。

手掛かりは、ある」


 魔物の特徴と多く合致している俺だが、明確に魔物とは違う特徴を持っているのもまた事実だ。

 俺には、成体として生まれる魔物とは違い幼少期がある。

 俺の産まれ育った家。 俺と同じ髪色と眼の色の父親、弟、使用人、産まれた跡、育った証はそこにあるはずだ。


「俺が魔物なのか、あるいは人でいられるのか……。

昔の家に戻れば、いや、行けば分かるはずだ」


 父親。 尊敬して、嫌っているあいつと会えばきっと何かが分かるだろう。


「俺は、あの家に行く。 それから人でいられるのならば……エルを迎えに行くから、待っていてくれ」


「嫌です。 ずっと一緒にいます」


 エルは真っ向から反対してくる。


「俺の脚だと、一人でなら行き帰りで、ここからまた進むと考えても一週間も掛からずに戻って来れる」


「戻って来れても、戻って来ないかもしれないです。

解決策がなかったら、もう帰ってきませんよね」


「だが……」


 エルは手を振り上げて、大声を出す。


「グラウさん! アキさんを捕縛してください!」


「……! 何を!?」


 エルの言葉に反応して思わず逃げ出そうとするが、エルに手を掴まれていて逃げることが出来ない。 強く引っ張ると抜け出すことは容易だけれど、その場合はエルが地面に倒れてしまう。


 どうしたらいいのだと思っていれば、グラウが俺の身体を縛る。


「なんでグラウは何の戸惑いもなく従ってんだ!」


「いや、なんて言うか、昔の癖が……」


 駄目だこいつ、役に立たねえ。


「アキさんが暴走して、僕を傷付けるから一緒にいれないと言うのならば! アキさんを縛っていれば問題なしです!」


「なるほど」


 ロトが後ろからやってきて、また俺を布や紐で縛る。


「いや、それはおかしいだろ。

手が使えないと、そりゃ暴れたりも出来ないが、生活も出来はしない……」


「それは僕が、全てお世話させていただきます!」


「なるほど」


「なるほどじゃねえ!」


 どう考えてもおかしいが、それを否定する言葉は上手くではしない。

 困惑し過ぎてよく分からなくなっているところで、エルが縛られている俺の横から抱きつきながら笑う。


「いひひ。 これで、ずっと一緒にいれますね。 ずーっと」


 俺を縛っている紐の端をしっかりと握りながら、泣き腫らした顔をこちらに向ける。

 可愛いとは思うけれど。 何故だろうか、ほんの少しだけ首筋が冷えるような感覚がした。



◆◆◆◆◆



「それにしても……だ」


 リアナが取り仕切るように口を開いた。

 その場のノリで生きていると自称しているロトと、煙草の煙をぷかぷかと吐き出しているグラウ、それに当事者である俺とエルを除くと、後はリアナとケトだけで、取り仕切るのは当然のようにリアナとなった。


「アキレアとエルが抜けるのはまぁ仕方ないようだ。

だが、戦闘や生活が出来ないほどに拘束しているアキレアと、一切の戦闘が不可能なエル。

事実として、動けないだろう」


「いや、エルがしがみ付いてくれるなら、魔物を振り切るぐらいは余裕だ」


「エルがしがみ付くのがな。 長時間は出来ないだろう」


 確かにそうだな。 と頷く。


「だから、お前達だけで行かせる訳にはいかない」


「んじゃあ、俺が着いていく。 アキレアはどうせヴァイスたんのところに行くつもりだろ?

俺もあいつに久しぶりに会いたいから、丁度いい」


 グラウが何故か指を鳴らし、木剣を手にして攻撃的な笑みを浮かべながら言う。


「……ごめんなさい。 僕達が持ち込んだものなのに、押し付けるみたいになって」


「いや、ロトの考えはこんなだから分からないが、私としては不満はない。 元より、英雄になるために都合の良い物と思っているからな」


「俺も問題ナッシングだ。 あっ、だが……1日待ってくれ。 やっておきたいことがある」


 ロトはそう言ってからグラウを手招きしてから、絵本を手渡す。


「これを持って、寄ってくる奴を全員ぶっ殺してくれ。 魔石の回収とかはいいから」


「まさか、ロトさん……」


「おう、パワーレベリングだ」


 それからよく事情の分かっていないグラウは、これからのことに必要なことだと言い聞かされて、しぶしぶといった様子で遠くに歩いていった。


 それからロトといつ落ち合うといった話になったが、互いにいつ終わるかの都合が不明なために、いつかまた会おうという結論で終了し、グラウはいないが、半日ぶりの食事を摂ることになった。


「はい、アキさん。 あーんしてください」


「あの、エル……。 食事の時ぐらい解いてくれないか?」


 駄目で元々と思いながらエルに頼むが、呆れたように首を横に振る。


「駄目です。 いつまた魔王の影響があるのか分からないんですから。 はい、あーん」


 仕方ないか。 と、諦めてエルの手で小さく千切られたパンを口に含む。


「美味しいですか?」


「味なんて分からない」


 エルの手に触れていた物を咀嚼していると思えば何となく甘い気はするけれど、緊張で食べているのかさえ定かではない。


「あっ、レベル上がった」


 ロトが優雅に食べているのが物凄く羨ましいような、あるいは優越感か、非常に微妙な感情を覚える。


「おっ、また上がった。 あのおっさんやべえな」


 いつも矢面に立っていたせいか、人が戦っている横でゆっくりと食っているのは性に合わない。

 そう考えても今の俺は戦力にはならないので諦めてエルの慰み物になるしかない。


「私は、少し行ってくる。 流石に一人に任せるのは……」


 リアナが立ち上がって剣を手に取るが、ロトがそれを止める。


「多分、行っても無駄になるぞ。 あの人超強いから。

行ってもいいけど、邪魔にならないように遠巻きで見てろよ?」


 その言葉に、リアナは気を抜かれたように座る。


「それほどなのか?」


「アキレアの高みへと朽ちゆく刃。 それに後出しで全て防げるぐらいには」


 ロトがそう言うが、リアナは首を横に捻る。


「ああ、見たことないのか。 まぁ、半端ない技だ。 そういうことなら参考に見てきたら?」


 リアナがそのまま剣を持って出ていった。


「おっ、また上がった。 頼んで良かったな、これは」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ