他種族との交流6
可愛いは正義。
その概念がエンブルク家の馬車にもたらされて数日。
自他共に認められるほど馬鹿な親にでも現状がおかしいことは分かった。
「さ、流石におかしくないか?」
「可愛いですよ、ね、サイスちゃん」
「うん、とても、可愛いな。 エルちゃんは」
剣にリボンをつけてニヤニヤとしているリアナを見て、どうしてこうなったと嘆きたくなる。 いや、こいつはいつも限界以上の鍛錬をしていたので休ませるのに都合がいいのはいいんだが……。
御者のおっさんと星矢が交代することになり、馬に水などを飲ませるためにも一度止まる。
そして恒例となった行事が始まる。
「はいちゅーもーく」
星矢の中性的な声が響く。
「第8回可愛さ選手権ー! ほらアキレア、イェーイ」
「……いえーい」
「NO.1:俺、今日の服装はエロさと可愛さとを組み合わせたユニセックス感のある感じで仕上げた!」
だいたい意味は分からないが、やることは変わらない。
いつもエルが履いているのに似た半ズボンに長い靴下、上はエルのよりふわふわとした感じの服装だ。
髪は後ろに纏められていて、いつもの姿よりも活発な印象を受ける。
「……ふむ、全体的にいつもより女性らしさを減らして中性的な印象が強くてなっているな。
ところどころの小物が桃色だったり水色だったり淡い色なのが少女趣味を感じさせるが、後ろに纏めた髪は凛々しさもある。
個々で見るとチグハグに見えるが、全体を見ると不思議と統一感があるというか──」
「アキさん、早口なのが若干気持ち悪いです」
代表して簡単に纏めるとエルにつねられた。
「よし、じゃあ点数」
ひとり持ち点20点で、本人を除くと5人いるので丁度100点が満点になる。 俺から順にエル、サイス、御者のおっさん、リアナと続いて、星矢の可愛らしさの点数を発表する。
「……12点」「えと、17点です」「10点」「なら、14点で」「14点」
「合計67点ですね。 結構伸びましたね。 いつも辛口なアキさんとサイスちゃんが共に二桁の点数を付けたのが要因ですね」
「ちょっとエルちゃんの服装に似ていて、可愛いと感じた」
「……僕にどれだけ似せるかって話じゃないですからね」
手慣れた様子で集計が終わる。 俺もサイスと同様の意見で、半ズボンがエルの物に似ていて良い。 エルほどは似合っていないが。
「じゃあ次は、アキレア」
「任せろ。 基本的にいつもと変わらないが、エルの抜け毛を利用した腕輪を付けている」
一瞬でエルに剥ぎ取られ、エルが外に投げると同時に発火して灰になる。
「ああ、勿体ない……エルちゃんの髪……」
「……結局アキレアはいつも通りだな。 じゃあ、点数、俺からな」
順番は俺と星矢が入れ替わっただけである。
「2点で」「ん、その、20点です」「1点」「4点」「2点」
「29点……いつも通りですね。 ……もう人の髪の毛を拾い集めたりするのやめてくださいね」
「えっ、ダメなのか!?」
「サイスちゃん……あの、最近よくアキさんと揉めてますけど……」
「もちろんエルの髪を取り合っていた」
「やめてください。 わりと本気で」
怒られてしまい、2人で落ち込む。
集めていた髪の毛を捨てられたサイスに「アキレアが隠していれば」と怒られ、より落ち込む。
「次、雨夜……じゃなくてエンブルク夫人」
「僕、これに参加しないとダメですか? ……いつも通りですけど……」
エルは恥ずかしそうに顔を背け、少し赤くなっているのが非常に可愛らしい。
「……20点だ」「じゅうは──」
剣を握り締める。
「20点だな、うん」「もちろん20点」「20点です」「に、20点」
「もうっ! なんですかこの茶番っ! もういっそ殺してください!」
「100点だな。 やはりエルは最高に可愛い」
「次です! 次ですっ!」
次はサイスか。 星矢の影響か、わりとオシャレに目覚めたらしく、街に滞在していた時はよく服を眺めていたのを記憶している。 星矢の服を借りているのか、少しぶかぶかな格好だ。
可愛らしいとは思うが、顔は俺とそっくりである。
「……2点」「んー、なら15点。 サイズを合わせたらもっと可愛いだろうけど」「20点です」「16点で」「17点」
「合計は60点ですね。 いつもそうですけど、アキさんのサイスちゃんへの評価が私怨が篭ってませんか」
「いや、俺の顔に似ているせいでなんか気持ち悪い。 あと、父親にも似てるからなんか嫌だ」
「そこが可愛いんですよ?」
「エルの意見でも理解出来ないな」
そう話をしたあと、御者のおっさんの番になると、おっさんは馬をこちらに向かせる。 馬に何かアクセサリーのようなものがたくさん付けられていて、変にキラキラしている。
「馬をデコりました」
「馬をデコらないでください」
エルの突っ込みのあと、何故かおっさんの可愛さを評価する羽目になる。
「……2点」「笑顔は悪くない。8点」「えっと……15点……です」「1点」「お父さんに似てるし、7点」
「合計33点ですね」
「いやー、悪いですね旦那! 旦那に勝ってしまって!」
「お前がそれでいいならそれでいいが」
エルが満点なら他はどうでもいい。
最後に剣をデコったリアナが立ち上がって、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「……14点」「普通に綺麗だし、17点」「えっと、19点です」「9点」「若い女の子だし20点」
「合計79点ですね。 まぁべっぴんさんですもんね、リアナさん」
「やめてくれ、恥ずかしい」
こんなことをして何か意味があるのだろうか。 まぁ親睦を深めるという意味ならあるか。
星矢がおっさんと代わり、俺とエルは人目につかないようにひっつくために屋根の上に登ってエルを膝の上に乗せる。
ベタベタと過ごしていると、遠くに横たわった人影が見える。 寝ているのか、倒れているのか、それとも死んでいるのか。
「……見に行ってくる」
馬車から降りて人影に近寄ると少女であることが分かったが、一瞬動きが止まる。 耳が生えている、ズボンから長い尻尾も見えていて……。
「獣人?」
この国だとほとんど見かけない獣人の姿を不自然に思いつつ、息を確かめると問題なくしており、脈を測っても同様に直ちに死ぬということはなさそうだった。
寝ているだけのようにも見える。 とりあえずこの場に放置しているのも危ないかと、抱きかかえて馬車に戻ると、御者台に座っていた星矢が悔しそうに口を歪める。
「くそ、このままだと可愛い選手権での立場がなくなる!」
「開口一番がそれか。 まぁ可愛らしいが……。 これ、どうする?」
屋根の上にいたエルが困ったように頰を掻いて息を吐き出す。
「一応、治癒魔法だけかけてから起こしてみましょうか。 魔物が少ないとは言っても、放置は出来ませんし」
「……いや、ここで休憩してもいいかもな。 そろそろ馬も休ませたい」
少女を抱きかかえているからか、エルは少しいらだった様子を見せる。 デコられたままの馬を撫でている星矢に少女を渡して、馬車の屋根からエルを降ろす。
「おー、猫耳。 テンション上がるな。 この国ってほとんど獣人いねえし、ケトさんはタヌキだったし」
「尻尾とか見るとアライグマっぽかったですよ? そもそも地球の動物に当てはめられるのか分からないですけど」
「知らねえよ……。 タヌキもアライグマも一緒だろ。
というか、俺にこの子渡してどうしろっての? 言っとくけど俺は可愛いけど心の中と股間に狼を飼っている狼少年だからな?」
「意味が分からないが、普通に馬車の陰になるところに布でも敷いて寝かせとけ」
「中じゃなくていいのか?」
「馬鹿か、起きたら知らない場所だと怖いだろ」
屋内は逃げにくいし、普通に恐ろしいのは間違いない。
「エンブルクに馬鹿って言われた!?」
「……最近エンブルクを悪口に使ってないか? 気のせいか?」
一応は特権を色々と持っている歴史ある家系であるというのに……。 そして否定出来ないのも辛いところだ。




