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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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剣聖剣奴⑥


「最も古き剣聖は、神に選ばれ巨大な魔物を斬る力を得たらしい」


 リアナの言葉に頷き、ベッドの上で彼女に渡された剣を撫でる。


「剣を振るには、少し大切なものが増えすぎた」

「だろうな。 剣士は必ずしも多くの武器や技があれば強いわけではなく、あるいは剣闘士、剣奴のような技を持たぬ者の方が強いことも珍しくはない」


 ある種の説教のようにも聞こえるが、リアナとしてはそのようなつもりはないのだろう。 エルほどではないが、口調や性格に反して女性的な優しさがある奴だ。


 剣は細身で軽く、俺が振るっているものよりも重心がしっかりとしていて軽く動かしてもブレが少ない。良い剣に触れたことなどなかったが、これが良いものであることは分かる。


「お前は長には向いていないな。 決断力はあるが、それしかない」

「エルや大山がいるから大丈夫じゃないか?」

「あの二人は頷くことしかしないだろう。 参謀にはならない。

……ここは個々の能力は高いが、いかんせん組織だったものと考えると程度が低くなる」


 なんとなく分かっていたことだ。 組織的な動きではなく、個人で勝手にしているところが多く、それに指示系統もなければ目的もない。


「長になれるような奴がいないな」

「まぁそうだな。 私達には基本的に欠けている能力だ。

私が最もその才がないから言えた義理ではないが、欲しい才覚はこんなところだな。 アキレアの決断力と人望、エルの知能、ロトの目的意識、不審者メイドの気配り辺りがあれば完璧か」

「組織が出来てから長を探すというのも妙な話だな」

「お前がそうなればいい。 エルがいるのだから、目的さえはっきりとさせれば組織としてマトモに運用出来るだろう。 実務はお前にはいらないからな」


 目的と言われても「エルと一緒に暮らしたい」以上の望みがあるわけではなく、そのために人助けやらなんやらとして人が増えただけだ。


「まぁ、他に譲りお前が矢面に立って戦闘してもいい。 お前が負けるような奴はそうはいないからな」

「……どうにも、実感が湧かないな」

「遣いレベルでお前に怪我を負わせられるとなるとな。 適当に纏めるのも戦うのも、となるのは難しいだろう。 お前がこれより強くなれるなら別だが」


 もういっそ逃げた方が楽そうだ。 などと思うが、それはそれで何かと巻き込まれそうだ。

 幸せそうに寝ているエルの頭を撫でて、溜息を吐き出す。


「これ以上早く剣を振れば、一撃で腕が壊れるな」

「人体の限界か。 同じく限界のある魔法はまだしも、能力に対応することが難しいな」

「結局、能力が対処出来ない。 魔力は感知出来るが、能力は何をされているかも分からない」


 その上、魔力や身体能力まで魔物化で向上しているから理不尽も過ぎる。 正直なところ、強さとは違う種類のやりにくさがある。


「まぁ、エルが前ぐらいの魔法が使えたらどうにでもなるが……今は足も治せないぐらいだからな」

「いや、それはわざと治してないだけだと思うが」


 それは否定出来ない。 死の危険がなく脚が動かせないだけなので、エルからすると治らない方が都合がいいのだろう。

 困った奴であるが、そういうところも可愛らしい。


「……いや、それは流石に起こっていいんじゃないか。 ちゃんとしていれば3日前には動けるようにはなっていただろう」

「まぁ、訓練に付き合ってやらなくてリアナには悪いな」

「そうではなく……自分の身に害がある程の依存は問題じゃないか」

「いや、大丈夫だが」

「……お前は少しおかしいな」


 軽い雑談を終えて、リアナが部屋から出て行ったので、寝ているエルを抱き締めながら、今後のことを考える。 俺が戦うことをエルが嫌がるので、そういうことの出来る人を雇うなりした方がいいだろう。

 問題は俺に長としての資質が足りていないことや、最悪、国から目を付けられる可能性があることだ。 それに、結局対抗出来る強さの人間はかなり少ない。


 とりあえず、色々疲れたのでエルの首筋を匂ってみると、無臭に近いが妙にずっと嗅いでいたくなる香りがする。 抱いているのが暑いのか、すこし汗ばみ赤みがかった肌が艶めかしく色っぽい。

 細身の身体が動き、暑そうにしながらも俺の背中に手が回される。


「……おはようございます。 あの、朝からなんでこんなことに……」

「可愛かったから耐えきれなかった」

「いひひ、ひひ、えへへ。 アキさんは奇特な人ですね。 そんなに僕が好きなんですか? 僕もアキさんは大好きですよー」


 眠たそうにしながらエルは俺の身体に頰を擦りつけて嬉しそうに笑う。


「好きって言ってくれませんか? その、落ち着くので」

「好きだ。 ……そろそろ脚治してくれないか? 」

「全力で治癒魔法を使っているんですけど……」

「そういうのいいから、好きだ」

「むぅ……いつから気がついていたんですか?」

「二日目の途中に「痛みがなくなった」と言った時から手を抜いていただろう。明らかに治りが遅いからな」

「治さないとダメですか……?」

「いや、治さないとダメというわけでもないというか……いや、治してほしいが」


 エルに対してはどうしても強く言うことは出来ず、エルがどうしても嫌ならいいという風に言ってしまう。

 しばらくエルは悩みながら手を俺の脚に伸ばして治癒魔法を使って、治していく。 ほとんど治ったのか、普通に脚を動かせるようになる。


「……ありがとう」

「いえ、すみません。 騙すような真似をして」

「大丈夫だ」


 エルの頭を撫でて、ベッドから立ち上がり軽く伸びをしてベッドに戻る。

 とりあえずしばらくは、勇者のような能力が身につけられないか試しながら過ごすしかないだろう。 一応、グラウという前例がいるので、身につけられないということはないだろうし、あれを参考に……なるだろうか。


 勇者の能力との違いは何か瘴気魔法のように詠唱があったことか……人生を語るとか、想いを口にするとかが重要なのかもしれない。


 感覚を言えば、俺という存在を認識し出来ないことを可能だと思いながら行うことで発動するといった感じだろうか。


 俺が何か……か。 勇者と同じ以上の瘴気を持っていることを考えると、それさえ掴めたら使えないこともない気がするが、


「考え事ですか?」

「……ああ、ほら、エルは披露宴の記憶もなくなっているから、改めてし直した方がいいかもしれないかと思ったが、継いでしまったから派手にする必要があるからいっそしない方が安全とかな」

「……んぅ、本当は何について、考えていたんですか?」

「……勇者に対抗する方法だ。 このままだとエルを守ることが難しいと思った」


 エルはそれを聞いて、目を逸らしながら「そうですか」とだけ言って、俺の服を掴む。


「分かっている。 可能な限り避けるつもりだ。 此処から離れるつもりもないしな」

「……はい」

「……逃げるか。 いっそ、全部捨てて」

「……人を見捨てては、いけません」


 分かっている答えだ。 エルは俺よりも勇気があって、優しい。 彼女はベッドから立ち上がって、口を開く。


「よしっ! 僕、アキさんがこの家から出たくなくなるように頑張ります! 手料理を振る舞いますよ!」

「……刃物と火は危ないから、俺がしよう」

「ん、それじゃ手料理を振る舞ったことにはならないです。 治癒魔法だってあるんですから、大人しくしていてください」


 大丈夫だろうか。 背も低く手も小さいから、調理器具が大きかったりと困らないだろうか。 前も料理をしてもらったが、あの時は月城もいたことだし、今は月城も寝ている。 ……まあ危ないことがないように見ていれば大丈夫だろう。


 身嗜みを整えてから、意気揚々と調理場に向かっていくエルの後ろを歩く。 不安である。

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