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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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空へと落ちる日⑧

 昼食を食べ終えたあと、エルを膝に乗せながらどうするかを考える。 俺の方がリアナよりも遥かに強いが……教えるのは難しい。

 ただでさえ、頭が悪いのに、それに加えて身体能力に差がありすぎる。


「んぅ……リアナさんってどんな人なんですか?」

「ロトの仲間」

「まずロトさんがよく分からないです……」

「リアナは……少し暴力が多いな、ロトや俺の弟のレイがよく殴られていた」

「……怖い人です?」


 エルが俺の服の裾を掴む。 これは怯えているフリをして甘えようとしているのだろうと、直感的に悟りながら彼女の手を握る。


「いや、俺とエルは殴られたことがないな。 ……いや、模擬戦ならあったか。 何にせよ、ロトとレイ以外には無闇に殴ったりしないから大丈夫だ」

「……それは大丈夫なんですか?」

「ああ、あの二人はなんとなく殴ってもいい気がする」

「ダメだと思いますけど……」


 とりあえず、相手になってやればいいか。 あと、高みへと朽ちゆく刃を可能な限り伝えるか。

 教えられればグラウの生きた証を残すのに役立つし、グラウも嫌がりはしないだろう。


 剣を手に取り、手入れをしていなかったからか錆びを見つけて残念な気分になる。


「……危なくないです?」

「実力差があるからな。 怪我をすることもさせることもない」


 エルと手を繋いで部屋から出て、廊下にいたシシトにリアナを庭まで連れて来るように伝える。 サイスが勉強をサボっているのを見つけたが、まぁいいかと思い軽く声をかけるだけで済ませる。


 庭に出て、エルの手を離してから握り心地や剣の重心を確かめながら、精神を戦闘のためのものに切り替えていく。


 遅れてやってきたリアナは少し身綺麗になっていて、風呂に入っていたのか少しだけ髪の端が濡れている。


「……相変わらず、アキレアは武器の選びは酷いものだな」

「まあ、専門外だからな」

「剣士なのにか」

「付け焼き刃の、と枕詞がつくけどな」


 別に剣に拘りがあるわけでもなく、いい武器があれば他の槍でも斧でもメイスでも棒でもなんでも良いので、剣士と呼ばれるほどのものでもない。


 鞘から剣を抜いて、剣を鏡にしてエルが充分に遠くにいることを確認する。

 地面の感触を確かめながら、剣先を地面に置いてリアナに言う。


「持てる力すべてを以って、かかってこい。 実力を見る」


 リアナは俺を侮ってはいない。 彼女は上段に構えたまま、息を整える。 呼吸が完全な状態になった瞬間、彼女は駆けると同時に剣を振り下ろした。


 左手で剣の側面を押すようにして逸らし、振り切ったところを右に持った剣で抑えて、左手でリアナの首を掴む。 締めることはせずにそのまま離す。


「……やはり、強いな。 ロトよりも」

「あれはあれで俺より優れたところは多い。 ……やはり、遅いな」

「遅さは……どうしようもない」

「グラウは普通の人間だが、速かった。 高みへと朽ちゆく刃を中心に教える、というかそれぐらいしかお前よりもいい技を持っていないからな」


 我流の技は俺の器用さや速さを前提としているし、他の技は見よう見まねのものでしかない。

 とりあえず俺がグラウに教わったやり方でいいかと思いながら、うろ覚えのそれをすることに決める。


「シシト、悪いがペンと紙を大量に持ってきてくれ」

「了解っす!」


 リアナの前で剣を持ち、高みへと朽ちゆく刃でも最も扱いやすい一式の袈裟斬りを披露する。


「……何をしているのか分からない」

「ただ全身の筋肉のブレをなくして動かしているだけだ。 同じ距離を動くなら、ギザギザに動くよりも真っ直ぐに動いた方が速いというのが分かりやすいか」

「……ブレているつもりはないが」

「それは小さいから知覚出来ていないだけだ」


 シシトが取ってきた紙を手に持ち、インクにペンを付けてから、紙を投げてペンで線を引く。


「このように直線を引けるようになるのが第一段階だ」

「……簡単に見えるが……」


 リアナは紙を手に持ちながらペンを振るい、その線の歪みに顔をしかめる。


「まぁ、上出来だろう。 一人で暇なときはそうやって練習したらいい。 コツは……エルの顔を思い浮かべることだ」

「それはお前だけだ」


 俺の場合、色々と修行を無視して身につけてしまったので手順が分からないな。 まぁグラウも我流で身につけたものを我流の教え方をしていただけなので、俺もそれに倣えばいい。


 リアナが悪戦苦闘している横で、分かりやすいよう「高みへと朽ちゆく刃の動きをゆっくりとしようとし、身体が転ける。

 何度かしようとするが、どうしても遅くしようとすると体勢が崩れそうになることに気がつく。


 少しずつで速くしながら試すと、高みへと朽ちゆく刃の動きは高みへと朽ちゆく刃を使っていないと再現が出来ないようだ。


「……走っているのと同じか」


 ゆっくりと歩くのに速く走るときと同じような体勢でいれば転けるのと同じように、高みへと朽ちゆく刃を普通に剣で振るように再現すると転ける。


 ゆっくりとするから転けるというよりかは、本来なら転けるものを速く動かすことで転けるより前に振り終えることが出来るということだろう。


 思えば、初めて成功させたのは空中だったが、むしろそちらの方が転けることがないから簡単なのかもしれないと気がつく。


「何しているんだ?」

「動きの確認だな。 ……これ、教えるの異様に難しい」


 見える速さで動けば別の動きになり、本来の形でやれば速すぎて見えない。 ……見て覚えるということが一切出来ない。


「まぁ、ロトは死ぬこともないだろうから、ゆっくりやるといい。

よし、俺が付き合える時間は実践形式にするか」


 高みへと朽ちゆく刃は強力だが、それだけでは意味がない。 自分さえダメージを食らう技だから、治癒魔法が使えない以上は多様できるものではない。


 俺もエルの治癒魔法ありきで使っている。


 リアナが剣を構える。 とりあえず、次は先ほどのように速く決したら練習にならないので、こちらからは攻撃しないように気をつけながら、リアナの剣を弾いていく。

 やはり長年剣を振るっていただけあり、隙は少ない。


 剣戟の音を聞きながら、気がついたことを口にしていく。


「脚の動きで次の行動が読めるな、あと、目線も分かりやすい」

「っ! ああ」


 剣を受け止めて鍔迫り合いになり、押されたところを引き、体勢を崩させて、立ち直るのを待つ。


「当たる時に毎回相手の剣を弾くようにしているが、場合によってはこうやって引いたり逸らしたりした方がいい。

隙を伺うだけではなく、隙を作った方がいい」

「っ! あ、あ!」

「返事する余裕がないなら無理はするな」


 リアナの剣を柄で受け止めて、弾き飛ばす。


「速く動かしたいなら剣先は有効だが、手に近いところの方が打ち合った時にブレにくい、打ち合って弾かれた自分の剣が自分に刺さりました、なんて笑い話にもならないからな」


 軽く下がりながら剣先を動かして、剣身で太陽光を反射させて簡単な目潰しをする。


「目に頼りすぎだな。 今のような目潰し以外にも、砂煙、夜襲、煙幕、布などで覆う、フェイント、など、幾らでも視覚を奪う方法がある」


 様々な指摘をしていくがら長年の癖がそれだけで抜けるはずがない。 元々対人用の剣ではなく、魔物のための剣技ということもあり、大振りなものが多いことが目についた。


 完全に矯正するのも魔物の戦いの際に不都合が出るだろうと、矯正ではなく付け加えるような形で変化させるように声を掛けていく。


 リアナの疲れが見え始め、目に見えて動きが精彩を欠いているので、リアナの剣を弾いて訓練を止める。


「私は……まだ、やれる!」

「妙な癖がついても困るだろう。 汗でも流してこい」


 俺の言葉に構わず、剣を構えるリアナだが背を向けると悔しそうに息を吐き出す。

 最後に、と高みへと朽ちゆく刃を放つ時の感覚を口にする。


「振り方はいつもとさほど変わらない。

ただ、ひとつのことを考える。 なぞり線などなく、曲線ばかりが目に入る視界の中に、たったひとつの思いをなぞるように……空気すら傷付けないように、ゆっくりと振る」


 視界に浮かぶエルの笑み、愛を示すように……剣を振る。


「精神的な話をされても困るんだが」

「参考までに、話半分に聞いてくれればいい」


 剣身に映るエルへと振り返り、一日目の修行を終えたことに軽い達成感を感じながら、かいた汗をエルに拭われていく。

 少し気恥ずかしいが大人しく受け入れて、剣を鞘に戻す。


「……ロトと会えたらいいな」

「当然、会うつもりだ」


 強いものだ。 なんとなく、使えるようになる気がした。

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