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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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続・家造り日記⑥

 馬鹿らしい結論から言えば、村はもうなくなっていた。

 魔物の被害ではないのは一目瞭然であり、以前より密度の高くなった家が倒壊しているのは痛ましく見えた。


「この規模なのに……血痕がないんですね」

「勇者は死んだら体が残らないからな」


 魔物であれば魔物の血やらが残るはずで、それも勇者同士の争いを示すものだった。

 一通り見て回り、この場には生き残りがいないことを確認してから踵を返す。


「あの、どうしてこんなことに……?」


 言葉で誤魔化すのは無理だろうが、あまり不安にもさせたくはない。 とりあえず良い言い訳を思いつくまでエルの体を抱きしめて、髪の匂いを嗅ぐ。


「や、やめてください……!」

「こうしていると、落ち着く」

「そう言われると抵抗しにくいです……」


 無抵抗のエルを抱き上げながら廃村を出て、馬車の中に入って、馬車の中でひたすら頭を撫でたり抱きしめたりして甘やかせていると、エルはほにゃほにゃと顔を緩めて抱きついてくる。

 言い訳が思い浮かぶまでの時間稼ぎのつもりだったが、眠りそうになっているエルを見たらこのまま誤魔化せるのではないかと思ってしまう。


「アキさん……僕、いつの間に馬車に……」

「……昨日」

「いや、昨日も乗ってましたけども」


 ぶすりと睨むエルを膝の上に乗せて、抱きしめながら目を閉じる。 旅の間は、御者がいるのであまりいちゃいちゃすることは出来ない。 そのため馬車では眠って、宿の部屋でいちゃいちゃすることが多い。

 暗くてエルがよく見えないのが難点だが、いいものである。


 これから……元野盗に会い子供を預かる約束になっている。 どうにも気乗りしないが、放ったらかしてしまうわけにもいかない。 それで野盗になられたり盗っ人になられると非常に迷惑だ。

 あと、エルはこういった慈善のようなことをするのが好きなので、喜んでくれるし、俺のこともより好きになってくれる。


 子供助かる、親喜ぶ、住人迷惑なくなる、エル喜ぶ、俺嬉しい、みんな良い思いをするわけである。


 ……色々と不安は多いが、今回の確認である程度の安全を確かめることが出来た。

 少なくとも、勇者の村で起きた戦闘は同格程度の争いだ。 俺であればあの連中が束になっていても抵抗する間もなく殺せる。 あれだけ多様な傷があったということは、尾喰か別の奴かは分からないが魔王というのはありえないほどの強さがあるわけではない。

 少なくとも現状は、という注意は付くが。


 エルの月城からもらった能力は別の人に移した方がいいだろう。 狙われる材料になるし、最悪……神、魔王に身体を乗っ取られる。

 レベルの問題か、能力の数が問題かは分からないが、早めに消しておいた方がいいだろう。


 エルが子供の頃の姿になるのは非常に魅力的だし、出来ることならその姿でキスなどもしたいが仕方ない。

 一番重要なのは身の安全である。 決して小さいエルの魅力に負けてはならない、


 ……これから、どうするべきか分からない。 尾喰との衝突は避けられないが、相手の出方も不明で、エルの意見も聞けない。


「どうかしましたか?」

「これからどうするべきかと思ってな」

「ん? まず屋敷に戻って、手続きを踏んでから子供を預かりに行くんですよね?」

「……その日暮らしをしているだろう。 金銭はないはずだ。

多少違法性はあるが、会うだけなら早めにした方がいい。 金を渡すだけでもな」


 そういうことではない。 子供などは割とどうでもいい。 やっていることの手を広げすぎていて手が回らないのは確実なので、だいたいの世話は他の人に任せるつもりだ。

 ……シシトあたりか、あるいは名前の分からないぼーっとしている元人質に任せればいいだろう。


 それより、そろそろ金策があった方がいい。 人が増えすぎていて、エル以外の住人の生活のレベルを下げなくてはならなくなってしまう。


「んぅ、そうですね。 すみません。 そういうことが思い浮かばなくて」

「エルのいた場所だと、その日暮らしは珍しいのだから仕方ない。 それより問題は、金が減りつつあることだろう。 何かしらで稼がないと……」


 以前は翻訳業などをしていたことを伝えて、金策についてエルに相談する。


「んー、手っ取り早くお金を稼ぐ方法なら幾らでもあるんですけどね。 そういうやり方はどうしても嫌われたり、単純に真似されたりして継続性に欠けますからね。

最低で十年ぐらいは安定してって考えると……」


 むむむ、とエルは頭を悩ませる。

 真似をされると考えればだいたいの商売などやりようがない気がするが、エルは俺の顔を見ながら考えるような表情を見せる。


「とりあえず、地図でも見ましょうか。 あの……ナルルさん、地図ってありますか?」


 エルは御者から地図を借りて、チラチラと俺を見ながらその地図に目を向ける。 指でつつーと、なぞりながら首を傾げる。


「水を売る商売ってありますか?」

「水?」

「あっ、い、いや、その、変な意味じゃなくて……ウォーターの水です。 アクアです」

「俺は市井に詳しくないが……水を出す魔道具は珍しくもないから、大した値段では売れないと思うが」

「農業用水は足りないんじゃないですか?」

「そもそもここらではほとんど農業はしていないだろう。 街中だと手狭で、街の外だと魔物に襲われる……ああ、いや……」

「もうよっぽどのことがないと魔物は出ないですね」


 ……それでも街の外に建物はまだ建てられていない。 魔物が減ってきても壁の外で何かをするのは不安があるのだろうか。


「……壁を広げて、そこの土地に建物を建てて貸し物件でもしますか?」

「……どうだろうか。 儲かるか?」

「んぅ……人が増えるわけでもないですから、ゆっくりとになひますね。 サイスちゃん頼りになりますが元手も少なくて済みますから」

「ならやるだけやってもいいか。 町長辺りに聞いてからになるが」

「あと、普通に農地とか作ってもいいかもです。 お野菜高いですから、このあたり。 ……まあノウハウがないのでやっぱりこれも……」


 エルの言葉を聞いて屋敷裏にある畑のことを思い出す。


「使用人の一人が農業をやりたがっていたな。 ……だが、水もないから大きいものは作れないだろう」

「すぐには無理ですけど、ため池を作ったら水はなんとかなりますね。 かなり長期の計画になりますけと……ちゃんと出来るようになるまで十年とかでしょうか」

「その間にも金が必要だからな……」

「んぅ、税金がない分、あまり大きな工事は難しいですね。 ……サイスちゃんなら出来ますけど、あまり個人の力に頼るのは良くないですし」


 何度か国を救った英雄のはずだが、世知辛い。 まぁ功績を面倒臭がって隠していたので仕方ない。 大々的に宣伝でもしたら違ったかもしれないが、それだとこうやってエルと触れ合う時間も減ってしまったかもしれない。


「長い時間働かないとダメなのは、アキさんとひっつける時間が減りますし……。 まぁ、街を広げて土地貸しでもいいですね。 家を建てなければお金もそんなに掛からないですし。 やっぱりサイスちゃんには頼ることになりますけど」

「まぁエルが頼めば断ることはないだろう」

「利用してるみたいです……」

「利用されたがってるからいいだろう。 俺もエルに利用されたら嬉しい。 綺麗ごとは抜きにして、それしか方法がないんだろ」

「いや、普通に色々ありますけど、拘束時間が長くなってしまうってだけで……」


 流石にエルとの時間を多く減らしてまで他の人の世話を焼きたくはない。 可能な限り色々と面倒を見てもいいけれど、それもこれもエルに比べれば価値の薄い物だ。



 街に着き、捕まえた野盗と面会させてもらい、軽く話したあと子供のいるところにいく。


 汚いな。 と軽く思いながら街の裏を歩き、それらしき数人の子供を見つける。 ある程度話は野党から聞いているだろうが、警戒した様子で……不意に一人がナイフを取り出し、ギラついた目で俺を睨む。


「……ッまえ……のせいでッッ!」


 否定は出来ないが、刺されてやるにもエルの魔力が勿体無いので適当に取り上げる。 半分はサイスよりも幼さそうだ。

 ナイフを持っていた子供は他の子供に抑えられるが、バタバタと手足を動かして抵抗する。


「離せ! こいつは殺すッッ!!」

「止めろって、言われたじゃん兄ちゃん!」


 何と言って止めるべきなのか分からない。 とりあえず、一番年長に見える子供に金を握らせて「またくるから荷物を纏めておけ」とだけ言って立ち去る。


 ……嫌われているのは予想もしていたが、ここまでとは思っていなかった。 いや、こんなものか。


 俺の方はあのナイフを持っていた子供もなんとなく嫌いになれないと思う。 何故だろうかと考え、簡単に結論に至る。

 仇が二人目の前にいて、弱そうなエルじゃなく、明らかに自分より強いだろう俺に挑んできたことは嫌いじゃない。


 明らかに怯えて萎縮した様子のエルを抱きしめて屋敷に戻る。 ……孤児院のようなことをするにしても、これほど嫌われていたらすぐ横に建築した家に住むのは危険か。

 全体的に、俺の知っている子供よりも粗野に見えるのは、俺自身育ちがいいからかもしれない。


「……預かるの、やめておきますか?」

「いや、どちらにせよ命を狙われるなら一緒だろう。 壁を広げたところに建ててもいいかもしれないな。 まぁ、元人質は狙われる可能性があるから街の人を雇うことになるが」


 流石に放火などをされたら困る。 多少金はかかっても遠くの子供の脚では来れないほど遠い場所にするのがいいだろう。


「懐、深すぎます。 ……色々簡単には解決出来ない問題多いですね」

「最悪二人で逃げればいいから問題ない」

「……それもそうですね」


 何があってもエルと離れる必要がないので非常に安心感がある。 大山辺りが追跡してくる可能性もあるが、追いかけあって負けるはずもない。


 とりあえず、孤児院の件は、かなり雑な草案を大山に渡して任せればいい。 街を広げるのは俺とエルとサイスでやればいいか。

 多少面倒ではあるが、なんとかなりそうな気がする。

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