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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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続・家造り日記④

 気がついた事実。 話すべきことなのだろうか。

 問題は……エルが戦いの場に引きずり出される可能性があることだ。 エルの渡された神聖浄化は月城の手に渡ったら範囲浄化という弱いだけの能力に変質し、当然神と戦闘を行う場合には扱えない。


 尤も、女神に与する義理もないが、降り立った神が何をするか不気味ではあるので無視とはいかない。


 考えるに、魔王とはある程度、能力……神の瘴気を持った勇者のことなのではないだろう。

 エルと大山以外の勇者は……それこそ潰し合って神の瘴気を一箇所に集めるためのものであると考えられる。


 今思えば、ロトが襲われたという勇者もそれが目的だった可能性がある。 仲間がやられたのに気にしていないというのは、反対に仲間がやられたとしてもそれはそれで目的が達せられたからと思えば納得もいく。



 ……確かめる必要がある。 もしこの仮説が正しいのであれば……無作為に勇者を集めていたあの村は既になくなっているはずだ。


 ……神聖浄化は汚れとエルが思っている物を消す能力なのに、よく知りもしない瘴気だけは、その条件を無視して消せていたというのも一つの証拠だろう。 元々瘴気を別空間に閉じ込める能力なのだから、むしろ汚れを消す方は偽装のために付随されたのだろう。


 気分の悪くなる考えを誤魔化そうとしていると、エルの薄い尻が俺の性器に当たる感触がして、悩みが唐突に失われる。 まぁ、取り敢えずまた見に行ってから考えたらいいか。


 それのせいで座り心地が悪いのかエルは身体を揺らして、薄いのに柔らかい尻に刺激されて、思わず吐息が漏れ出る。 エルは不思議そうに俺の様子を見てからべったりと俺に抱き着く。

 エルの身体は柔らかく、肌はすべすべとしていて少し触るだけで心地よい。


 エルは純粋な気持ちで触れ合いたいのだろうけれど、どうしても情欲は湧く。 誤魔化そうとするが、膝の上に深く乗られている以上、誤魔化しようもなく、不思議に思ったらしいエルがそれに触れて、顔を真っ赤にして硬直する。


 パッチリと目が合って、そのままゆっくりとエルは手を離し、誤魔化すようにエルは俺に抱き着く。


「ぎゅっー! ですっ!」

「お、おう」


 それで誤魔化すのは無理だろう。 いや、誤魔化すのは俺側なのではないのか。 取り敢えず、叱られることを覚悟していたで誤魔化すようにエルの頭を撫でる。


「りぴーと、あふたー、みー! ぎゅっー!」

「……?」

「僕の後に繰り返してください。 ぎゅっー!」

「ぎゅ……ぎゅー」


 抱きしめるとエルが嬉しそうにしているので、いいということにしよう。


「いひひ。 好きです。 大好きです! 好きって言ってください」

「好きだ」

「もっと愛を込めてください」

「好きだ。 ……君だけは絶対に幸せにする」

「……アキさんが幸せじゃないと嫌ですよ」

「善処する」


 睨むようなエルの目、軽く抱きしめてから、好きだと呟く。

 言葉など、何な意味があるのだろうか。 俺の思いが伝わっている気がしない。半分、またその半分、はんぶん、半分。

 伝わっていない、一欠片ほどしか。


「俺は……エルが好きだ。 上手い言葉が見つからないから、そればかりを繰り返しているけれど、実際はエルが思っている何十倍もの好意を抱いている」

「えっ、それは頭おかしいですよ?」

「頭おかしいんだよ」

「僕のことしか頭にないですよ?」

「エルのことしか頭にない」


 エルをベッドに押し倒し、押さえつけるように彼女の手をベッドに押し付ける。 潤んだ瞳に誘われるように顔を近づけて、彼女の唇にキスを落とす。


「あぅ……」


 いつもしていることなのに、いつまで経っても恥ずかしがっている。 そんな様子も可愛らしく、どうしようもなく……怖い。

 戦って、戦って、いつになれば安心して抱き合うことが出来るのか。 神と名乗る何かと争って勝てるのか。


「……いざとなったら、逃げよう。 勝てそうにない敵が出てきたら、走って逃げようと思う。 二人で」

「誘拐した時みたいに、ですか?」


 エルは俺に押さえつけられたままクスクスと笑って、待つように眼を閉じる。 もう一度唇にキスをして、次は頰に、と、マーキングするように色々な場所に繰り返し行う。


「もちろんです。 好きですから」

「明日から、前に話していた勇者の集まりに向かおうと思う。それで確かめたいことがある」

「確かめたいこと、ですか?」

「神の目的」


 エルはぽかんと俺の顔を見つめる。


「言って帰ってくるだけだ。 二人で行くことになるが、いいか?」

「もちろんいいですけど……よく分からないです」


 話しも纏まったので、取り敢えず今は何も気にせずにエルに抱き着く。


「あの、押さえつけなくても逃げませんよ?」

「こちらの方が安心する」

「んぅ……今日は僕がアキさんに甘える日なのに」

「甘えてもいいが、逃げられないようにしたい」

「逃げませんよ……」


 逃げないと分かっていても、その行動が出来なくすることに意味があるのだ。

 渋々と手を離すと、エルは少し残念そうな表情をしてから、下から張り付くように俺を抱きしめる。


「エル、この体勢少ししんどい」

「んぅ、じゃあ、離しますけど逃げないでくださいね」

「逃げるわけがない」


 エルと向かい合うようにベッドに横になって、顔を付き合わせる。

 あどけない顔も、照れくさそうな表情も、何もかもが愛おしい。


 彼女の頰に手を当てて、手に頰が押し付けられるようにスリスリと動く。


「顔の大きさも大分違うな」

「身体も全然違いますからね。 2倍以上、アキさんの方が体重ありますもん。 三倍はないと思いますけど」

「可愛らしい。 同じ生き物とは思い難いぐらい違う」

「……そうですね。 アキさんはどこもかしこも硬くて、力も強いです」

「エルは柔らかくて軽いな。 肌も滑らかで力を入れたら裂けてしまいそうだ」

「アキさんは丈夫ですね。 隕石が降ってきてもピンピンしてそうです」

「時々、違いすぎて悲しくなる」

「アキさんは甘えんぼさんですね」


 エルほどではないと言おうとしたが、今の状況を思えば否定のしようがない。 開き直るようにエルの胸に顔を埋めて、エルに頭を撫でられる。


「俺が、どんな敵からでも、神が相手でも魔王が相手でも、世界全てが敵でも、君を守るから……。 見捨てないでくれ。 一緒に生きてくれ、ずっと」


 あまりに情けない言葉だ。

 結局、少しは成長したが、出来るのは戦うことばかりだ。 剣を振ることしか出来ず、エルが俺を見捨てれば……食事も取れずに飢えて死ぬ自信がある。


「頼もしいのか、かっこ悪いのか全然分からないです」

「……戦うだけなら、絶対に負けない」


 胸に顔を埋めたまま、エルと会話を続ける。


「本当ですか?」

「……人は、何かを守りたいと思っている」


 不思議そうなエルの声が聞こえる。 少しずつ、人間のことが分かっていく。 人には守りたいものはある。


「それでも俺が一番そう思っているから、負けはしない」

「……口説かれてます?」

「口説いていない。 好きだ」

「一秒で矛盾しないでください! ……ん、僕もです」


 エルはよしよしと俺の頭を撫でる。


「アキさんは、子どもっぽいですけど、大人っぽいですよね」

「……よく分からない」

「ん、僕もです、えへへ」


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