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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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間章:三時間目、科目、魔法

魔法についての説明をする、エル視点の夢オチ回です

 目を覚ますと、机に突っ伏していたのか頰にちょっとしたした痛みがあることに気がつく。

 机で寝るのなどいつぶりだろうか。 元々授業中に寝るといったことはしてこなかったし、勉強もこまめにやっていたので徹夜で机に齧り付くなんてこともなかった。


 異世界に来てからは地球ほど机と向き合うことはなかったし、そんなことをしてまアキさんにベッドに運ばれるだろう。


 涎が垂れたりしていないかを気にしてから顔を上げると、どこか懐かしい場所だった。 黒い制服が周りにあって、同じ机が所狭しと並んでいる、息苦しい、ここじゃない。 なんでこんなところに。


 だってここは、高校の僕のクラスじゃないか。


 夢、だったのか。 アキレアさんのことも、アキさんのことも、ルトさんのことも……全部頭の中が彼のことばかりだった。


 違う、夢じゃない! そう思って教室から廊下に出ようとする。

 ポン、と僕の体が何かに当たり、倒れそうになったときに何かに支えられる。 目を開けると……一番愛おしい人、アキさんが不思議そうに首を傾げていた。


「……あっ、これ夢でした」


 夢だった。 よく見ればクラスメートに加えてケトさん、サイスちゃんにシシトさんとお義父さん、異世界メンバーが加わっていてすごくシュールな絵面になっている。

 というか何でお義父さんもクラスメートなのか、普通先生の年だろう。


 自分の夢に突っ込んでいると、アキさんが僕の頭を撫でてから「そろそろ座れよ」と優しく声をかける。 アキさんなら一緒にサボって保健室のベッドで寝ようとか言いそうなのにと思いながら着席すると、アキさんは教壇の前に立つ。


「よし、では教科書開いて」


 そっちだったか。 クラスメートではなく、先生だったか。

 そういえば、最近アキさんに魔法について色々教わっていたから……と納得する。


「じゃあまずは復習からだ。 シシト、魔力はどういうものかを説明しろ」

「えっ……あー、確か……人間の心の力的な?」

「違う、魔力は未だ何から出てきているのか不明なエネルギーだ。 昔は精神力の表れと思われていたが、意識のない半死体になっても存在することから違うという説が有力だ。 まぁ、人格により性質が変わるという点から無関係とは思えないが」


 なるほど、と言いながらノートを取っていく。 取ったノートの文字が日本語ではなく異世界の文字であることに気がつき、毒されてるなと笑みを漏らしてしまう。


「基本的に魔力は胎児の頃からあり、年齢を経るごとに増えていく。 だいたい50前後の頃から急激に落ち始める人が多いが、それまではずっと上昇していく」


 へー、と少し感心する。 普通に先生が出来ている。 あのアキさんが……と思ったけれど、これは夢の中なので本物とは関係ないか。

 それにアキさんは甘えんぼで、僕が近くにいないと寝ることも出来ないし、怖い夢を見たらよしよししてあげないとダメな人だけど、しっかりしているところはある。 決断力はあるし、物怖じしない、子供っぽい人だけど、僕の子供っぽいところである優柔不断なことや臆病なのはアキさんはしっかりしているのだ。


「先程言った、魔力による性質のことを属性というが、その属性には主にどのようなものがあるか分かるか? ……月城」

「あ、私? えと、火属性……水、土、風、光闇だっけ?」

「正解だ。 火、水、土、風、光、闇の六属性が主な属性で、稀に見る属性を特殊属性という。 それに、多くの人が扱える無属性もあるな」


 アキさんは手を高速で動かして黒板に書いていき、生徒達は急いで映していく。 しばらくしてから、三輪くんが手を挙げる。


「なんだ三輪、場合によっては退学だからな」

「治癒魔法とか浄化魔法は何属性ですか? 光属性とか?」


 アキさんは舌打ちをしてから溜息を吐き、舌打ちをして「いい質問だ」と言いながら舌打ちをする。


「魔力には属性があると言ったが、それは完全な事実ではない。 火属性を扱えてもエルのように攻撃魔法の火属性魔法を一切使えなかったり、属性とはまた違う魔力の性質が存在している。

俺も無属性のシールドしか使えないしな」

「じゃあどうなってるんですか?」

「単純に分かりやすいように無理矢理魔力の性質を体系化しているだけだ。

つまり、名前をつけているだけで実際にそれがそういう存在であるというわけではない。 ちなみに六属性と無属性で考える方式はヒールミン式七属性魔力体系と言う。

質問の治癒魔法や浄化魔法は別の体系であるサムラ-ミクラヌヒ式個別神祈魔法と言って、体系化や類型化をせずに、一つ一つの魔法が使えるかを試したりするな。 まぁ手間がかかるからあまりこちらは教えないが、気になるなら先生が本を持っているから借りにくればいい」


 チラチラと僕の方を見ながら授業を進めていく。 いや、チラチラと僕の方を見ながらというか、チラチラと僕以外を見ながらといった方が正しいだろうか。 僕僕黒板僕僕僕他生徒僕僕僕黒板、ぐらいの割合だ。 割とずっと目が合っている。


 先生設定の意味があるのだろうか、この夢。 五秒で恋愛感情が察せられてしまい、周りにバレないようにとか、禁断の愛とか、そういった要素が一切ないではないか。 まぁ忍んだりはしたくないので必要ないけど。


「魔力自体は何にでもなるが、何もなしに操るのが難しいから属性だとかの体系分けをしているということを理解するといい。 つまり、本来はエルのように魔法名や面倒な手順もなく使える訳だ」


 突然褒められた。 ああ、そうだった、昨夜そんな話を聞いて魔法の勉強はあまりする必要ないと思ったところだった。 魔力さえ足りたら攻撃以外のことはだいたい出来る

 

「あと、自分なりの体系化をしている奴も結構いるな。 ロトのルフトはウィンドに似た魔法だが、それと違って魔力の後付けや性質や方向の変換を容易になるようにしてあり……まぁ言ってしまえば安定しない代わりに機転が効いて汎用性の高い魔法体系にしてあるわけだ」

「アキレア、何言ってるか分からない」

「サイスは黙ってろ」


 やっぱり先生は似合わないな、と思う。 好き嫌いがハッキリしてしまいすぎである。


「まあ、初心者は元々ある体系に沿った魔法を使って、自分の魔力の性質を理解したら自己流だな。 あと、元々魔力が少ない奴は諦めて剣を取った方がいい」


 へー、と納得する。 たぶん個人差が大きいからハッキリとしたことが言えないのだろう。


「魔力は量も性質も回復量も人により違いがある。 魔法使いとして活躍するには、勿論色々な魔法や細かな技、多い魔力などの部分もあるが、第一には自分の魔力について知ることだ。

では、これで授業を終わりにする。 エルはあとでこちらに来るように」


 案外まともだなぁ、と思いながら、挨拶をして片付けをしてからアキさん……アキ先生の元に向かうと……ヤケに近くにアキ先生の顔が見える。


「あれ、アキ先生?」

「あ、起きたのか」


 頭がぼーっとする。 あ、目が覚めたのか。 何か変な寝言を言っていなかったか心配だけど、アキさんの様子からしたらそうおかしくもないだろう。


「アキさん、僕、魔法の練習しますね」

「程々にな」


 アキさんは僕の頭をなでながら軽く言った。

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