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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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家造り日記⑥

 カタカタと、俺の形をした人形が笑っている。 あるいはそれは笑顔ではなく、意図を引かれて顎の関節が動きなっているだけなのかもしれない。

 人形に人格が存在しているなど誰が誰保証してくれるというのだ。 あると考える方が非現実的で、理解に苦しむ。

 俺がここにいることは、本当に偶然の産物なのか。 糸を引いている神のような何かがいるのではないか。


 あるいはエルも、同じように操り人形なのではないのか。 考えてもみれば、雨夜樹の義理の妹という関係者だ。 勇争記録でも特別な扱いを受けているらしく、何もないと考える方がおかしい。


 エルとの出会いは運命だったと言えば聞こえはいいが、何者かに手引きされて操られている存在だとすれば、それほど恐ろしいことはなかった。


◇◆◇◆◇◆◇


 目が覚める。 嫌な夢だ、馬鹿な俺の馬鹿げた勘違いだ。

 荒くなった息のまま、心配そうに俺を見ているエルを抱き締める。


「また、怖い夢を見たんですか?」

「……何故、エルは俺が好きなんだ。 おかしいだろう。 頭も悪く、粗雑だ。 記憶を失ってからは、無理矢理誘拐したのに、好きだとか」


 俺を好きになる要素がない。 操られていたと考えた方が余程納得出来る。


「顔、真っ青です。 身体も汗で冷えて……」


 抱き締められて、汗を拭くとエルが手拭いとお湯を持ってくる。 熱と悪い夢見のせいで全身から出てきた汗は気持ち悪いし冷たい。

 その気持ちの悪さが、俺が人形ではなく人間であるという証拠のようで少しだけ安心する。


 されるがままにエルに上半身を脱がされて、お湯で濡れた手拭いで拭かれていく。


「んぅ……身体が大きいと、拭くのも一苦労です」

「エルの倍はあるからな」

「……体重も倍以上ですもんね。 よし、っと。 足も拭くのでまくりますね」


 新しい服を着せられてから、ズボンを捲られる。自分で拭けるとエルに手を伸ばすが、躱されて手拭いで汗を吹かれていく。

 スッキリとしていき心地よいが、これぐらいのことも人任せというのが不服である。 実際、そこまで弱っているわけではなく、これぐらいの体調ならエルよりも遥かに体力がある。 今から魔物の群れ千匹殺して来いと言われたらすぐにでもいける。


「んぅ……その、お尻とか、その、そことかはお願いします」

「ああ」


 むしろそこだけお願いしたかったなどと言えるはずもなく、そそくさと出ていくエルを余所に身体を拭く。

 崩れていた服装を直してから、お湯や手拭いを片付けてしまおうと部屋から出ると、使用人が片付けると申し出てくれたので礼を言って渡す。


 部屋に戻り、暇なので剣でも振ろうかと思ったが、エルに怒られそうなので諦めてベッドに寝ころがる。


 べたべたと小さな手で身体をさわられた感触を思い出すと、這い出てくるような欲求が頭を支配しようとする。 エルの残り香を嗅いで我慢しようとするが、それは俺を煽るだけで余計にひどくなるばかりだ。


 多少嫌がるかもしれないが、抵抗することはないだろうし、それによって嫌われることもない。

 それが分かっているから、堪え難く……基盤を無理矢理にでも切り替えるために券を持って外に出る。


 適当に素振りをしてから、身体が傷つかない程度の勢いで高みへと朽ちゆく刃の訓練をしていく。


 剣を振りながら、最近は他の武器をあまり使っていないことに気がつく。あまり良い武器は高く買えないが、剣以外の武器も持っていた方がいいだろうか。


 だが、槍で高みへと朽ちゆく刃を使ってもすぐに壊れる、重い斧や大剣で使えば俺の腕や腰が潰れる、弓矢だと弦が引きちぎれると、剣以外ではあまり使えない。


 どうしたものかと思っていると、この前に切った木材が目に入る。


「木か」


 木である。 木であれば軽いし、長くしても振り回せる。グラウの武器が木剣であったことも考えれば、高みへと朽ちゆく刃を使えば問題ないわけだ。


 ……いや、普通に振り回すのには使えないからダメか。 グラウは高みへと朽ちゆく刃以外使わなかったからそれが出来ただけだ。

 俺はグラウよりも下手なので、使えば身体がダメになってしまうから出来ないな。


 そう考えたあと、ふと思い出す。 そういえば、あの使用人は見ない顔だな。 ……ああ、人質だった女だ、あいつ。

 父親に話が通っているということはないだろうし、俺も始めて知った、レイは不在、エルは俺とずっと一緒にいた。 ……あれ、誰が許可したんだろう。

 それに使用人に給金とか支払った覚えがないな……。 まぁ、使用人の誰かが管理しているのだろう。


 ……いや、それでいいのだろうか。 あまりにずさん過ぎるような気がする。 まぁ、一応誰が決めているのかぐらいは聞いておくか。


 剣を腰に戻してから、腕の汗を振り払って屋敷に戻る。


「ああ、坊ちゃん、一人は珍しいですね。 ご病気と聞きましたが……」


 知っているような、知らないような爺さんがいた。 もう爺さんだし、結構昔からいたのだろうか。


「なぁ爺さん」

「なんでしょうか坊ちゃん、ホッホッホ」

「爺さんって、ここにいて長いのか?」

「ホッホッホ、それはもちろん、旦那様……ああ、いえ、前旦那様が産まれる前からお世話になっておりましたから」

「そうか。 じゃあ、今は爺さんがここの使用人を仕切っていたりするのか?」


 父親が産まれる前からとなると60歳や70歳とかだろうか。 随分と長生きだな。


「ホッホッホ、私はしていませんね」

「じゃあ誰がしているんだ?」

「さぁ……ああ、メイドのサリーに聞けば分かるかもしれませんね、ホッホッホ」

「爺さんにも分からないのか。 ところで、爺さんは何かをしているところは見たことないが、普段何している?」

「普段からホッホッホと笑っていますよ。 貴族らしい雰囲気出るでしょう?」

「それは出す意味があるのか?」


 おおよそ存在意義の分からない仕事内容だが、爺さんは朗らかに笑いながら


「ホッホッホ、私を雇ってくださった先先代の旦那様がそういった雰囲気がお好きでしたから。 ホッホッホ、それとわたくしのことは爺やとお呼びくだされ、その方が雰囲気出ますので」

「……よく分からないが、頑張ってくれ、爺や」

「お任せください。 ホッホッホ」


 今更だが、大丈夫だろうか、この屋敷。 貴族らしいって、貴族だし、いや、貴族だったか? 貴族か。 確か。

 爺やから離れ、近くにいた掃除をしているらしい他の使用人に尋ねる。 若い女だが、まぁ他の使用人の場所ぐらいは分かるだろう。


「なぁ、少しいいか?」

「ああっ、いけません旦那様っ!」

「……何がだ?」

「旦那様には奥様が……」

「いや、いるけどどうかしたか?」

「奥様が悲しまれますっ! でも私はメイドだからご主人様には逆らえないっ! 部屋に連れ込まれてしまうっ! お許しをっ……」


 一人で身体をクネクネとさせている使用人を見て軽く思う。 何かやばいのを引き当ててしまった。 なんでこのような人物が雇われたのか若干不思議だ。


「聞きたいことがあるだけだ」

「年齢は16歳です、スリーサイズは上から──」

「いや、ここの使用人をまとめているのは誰だ?」

「いえ、私にはそれは分からないですね……」

「そうか、手間取らせて悪いが、サリーというやつの場所は分かるか?」


 やはり分からないのか。 結構な人数の使用人がいるので、指揮系統がはっきりしていないのかもしれない。

 領主の仕事ではないかもしれないがまずはエンブルクの屋敷のことをどうにかした方がいいのだろうか。


「そもそも、私はここに雇われているわけではないので使用人の方の名前までは……。 特徴を教えていただけたら、分かるかもしれませんが」

「雇われていないのか。 なんで掃除しているんだ?」

「メイドをしていたらご主人様に乱暴に襲われると聞いて」

「俺は襲わないな。 ……いや、何かおかしくないか?」

「何もおかしくないと思いますが……。 ああ、使用人の控え室がありまして、そこにいけば見つかるかもしれませんよ。 中庭の奥の方にありますので」

「そうか、行ってみる。 ありがとう」


 知らない人が入ってきているのか。 財産とかもあるだろうし、大丈夫なのだろうか。今まで侵入者などは聞いたことはないが警備とかはいないのか。

 爺やと部外者メイドは知らないだろうが、仕切っている奴には尋ねた方がいいかもしれない。

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