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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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獣が剣を握るが如く②

 通気孔を覆うようにある建物の中には見張りらしき勇者がいたが、適当に首を捻って眠らせて対応する。


「やっぱ、一人強いやついたら楽だな」

「目を覚まされたら厄介だが……殺すわけにもいかないな。 ……大山、ロム、お前達はここに残っていてくれ。 あと、通気孔を登るのも子供化していたら難しいだろうから、しばらくしたらロープのようなものを確保して垂らしていてくれ」


 エルは不思議そうに俺を見る。


「あれ、二人で行くんですか?」

「ああ、子供化させたら二人は魔法が使えないだろうから足手まといだ。 二人残していればある程度安心して戻って来られるだろう」


 大山から聞いた話だと、地下三十メートル程らしく、通気孔は適当に作られているためほぼ一直線らしい。 見れば見たこともない作りで、首をかしげるとエルが軽く話す。


「ん、アルミ……ではないけど似たようなものですね。 魔法で再現したのでしょうか。 日本にあるものと似てますけど、外側を取り繕ってるだけですね」


 小さく口にしたエルはつまらなさそうにそれを見下ろして、俺は軽く通気孔のフィルターに手を掛ける。

 横に置いてから中を覗き込むと空気が動いているのを感じ、エルに目配せをすると、エルは聞き耳を立てて通気孔に耳を傾ける。


「換気扇が付いてるみたいですね。 んー、普通に牢屋側にも見張りありそうですよね。 壊したらバレるでしょうし」

「一気にいって、一気に片付けたら問題ないだろう」

「……人質を人質に取られたら……」

「問題ない。俺よりも速く動ける人間はいない」


 心配そうなエルの頭を撫でてから、軽く剣を握る。


「エル、俺を舐めすぎだ。 本気を出したら、俺より強い奴などいるか」

「ん、んぅ」


 そんな言葉を言うけれど、信じてもらえるだろうか。 あからさまな嘘だ。 少なくとも父親やグラウにはまだ勝てないだろう。 しばらく何もしていなかったから、ロトにも差を詰められているかもしれない。


 エルには分からないと思ったが、俺の様子から何かを感じたのか不安な様子は拭えない。


 これ以上話してボロが出ても嫌なのでエルに能力をかけてもらい、神祈月の流転(クロック・リーン)により子供化し小さくなった身体で通気孔の中に入り込み、軽く手を側面に付けてゆっくりと落ちる。途中でエルが来るのを待ち、頭の上に靴の感覚が乗ったのを確認してから力を緩めてゆっくりと落ちる。


「あ、す、すみません。 その、力一杯落ちないようにしているんですけど」

「いや、問題ない。 辛いならもっと体重を掛けても大丈夫だ」

「……すみません」


  ゆっくりと落ちるようにおり、換気扇から灯りが漏れているのを確認してから、エルの足元にシールドを貼り、落ちないようにする。 軽く息を整えてから力一杯に換気扇を蹴り飛ばし、そのまま飛び降りる。 それと同時に自身の体に掛かっていた能力が解かれ、本来の力が戻る。


 見えた人影、着地よりも前に空中にシールドを張り、それを蹴って空中を駆ける。 驚愕する黒い目を見ながらその両目に指を突き入れ、叫ばれる前に喉を潰す。 軽く見回し、他に人がいないことを確認し、状況を見る。


 倒れている勇者、おそらく正規の出入り口と思われる階段、それに扉が二つか。


 血を払ってから扉を開けてみると、どうやら管理人室のような場所らしく、謎の機器と勇者がおり、勇者がその機器に手を伸ばそうとしたのでその手を掴み、へし折ってから喉を貫手で突き潰し、廊下に放り投げる。


「……人質の救出にきた。 全員解放できたら治療してから話を聞く」


 魔法を使おうとするが、痛みのおかげか魔力が霧散している。 楽でいいと思いながらもう一つの扉に入ると、足を鎖に繋がれた人が四人いることを確認する。


「助けにきた」

「……助け?」


 説明が面倒なので人質は無視して剣を抜いて鎖を斬りつけるが、異様な硬さに弾かれる。


「……無理だ。 その鎖はどうやっても壊れない」


 なら壁を、と壁を切り崩そうとするが、やはり常識はずれの硬さで切る事が叶わない。 ……人質の腕を切り落として治癒魔法を使えばいいか。 いや、クロック・リーンで子供化させたら腕も抜けるか。


 どちらにせよ、エルの協力が必須かと思い、廊下に戻り倒れている二人を横目に通気孔を見上げる。


「エル、制圧出来たから降ろすぞ」

「あ、はい」


 シールドを解除し、そのまま通気孔から落ちてきたエルを受け止める。


「あ、あの、そちらの方は……」

「見張りだ。 治癒魔法で簡単に治る程度の傷しか与えていない。 帰る時までは治癒魔法も使わない方がいいだろう。 あちらに囚われている人質がいるが、鎖が付けられている。 能力で小さくしたら抜けられるだろうから、全員小さくしてから脱出しよう」

「あ、はい」


 状況を説明しているだけの時間がないことはエルも理解しているのか、小さな手足をパタパタと動かして人質の元に向かう。


「今から脱出する。 話は安全な場所に行ってからするから、今は黙って従え。 エル、頼む」

「んぅ……失礼します。 神祈月の流転(クロック・リーン)


 漏れ出る驚愕の声を聞きながら、幼くなっていく人質は鎖から解放されたのを見る。 一人、結構な年齢の女性がいたせいで時間がかかったので急ぐ。ほとんど幼児になった四人を引き連れて廊下に出るとロープが垂れていたので、人質をロープに括り付けてから、何度かロープを引いてみる。


 上の大山が察してくれたのかロープが引き上げられ、人質が登っていく。 結構時間がかかりそうだ。


「……あの、これは」

「能力だ。 ちゃんと的に戻るから安心しろ」

「その、どうしてここに……」

「星矢という勇者に出会って、状況を突き止めた」


 人質に軽く説明をしているとエルが俺の服の袖を引っ張り、そちらを向くと小さく口を開いた。


「……あの、人数が少ないです。 多分、もう一箇所か二箇所に、分けられているのかもしれないです」

「……大山の言っていた情報と異なるな」

「はい。 その、それも勇争記録のズレかと。 あの人はそれに頼って調べていたみたいですから」


 再び降りていたロープに二人目を括り付け、何度かロープを引く。 もう少し長ければ一辺に運べたんだけどな。


「星矢という勇者を知っているか?」


 人質に聞くが二人とも首を振る。 既に引き上げられた人質も恐らく知らないだろうとのことで、エルの予想は正解しているようだ。

 色々と不安そうだが、今すべきことは不安を和らげることではなく、無事に安全な場所まで運ぶことだろう。


 そう割り切って三人目の人質をロープに括り付けたとき、階段から足音が聞こえた。 急いで隠れようとするが、この状況で隠れるのは不可能か。

 最悪、殺すと覚悟を決めて剣に手をかけると聞き覚えのある事が聞こえた。


「奏多ー、春野ー、定時連絡忘れてんのかー」


 ーー星矢だ。 エルに軽く目配せをし、小さな声で耳打ちをする。


「先に大山とロムと合流して、全員で急いで屋敷に戻れ」

「僕の能力がないとアキさんが戻れないじゃないですか」

「正規の道で戻る。 一人なら全力が出せる。 とりあえず、人質は任せる。 それに、一応星矢の対策は考えてきただろ。 問題ない」


 階段に駆けるのと同時に後ろの天井を切り崩してエルが追い掛けてこれないようにする。 異変に気が付いたらしい星矢に向かって剣を振るうが、一瞬、目線が繋がる。


「ッ!」


 剣が触れたと思った瞬間、手から剣の感覚がなくなる。 星矢にも切り傷はなく、まさに剣が消失したようにしか見えない。


 予想はしていたことだ (エルが)。 触れたものを収納出来る能力なのであれば、剣が当たった瞬間に吸収されてもおかしくはない。

 星矢が取り出した剣の側面を掴み取りながら捻り、奪い取ってから反対の拳で顔面を殴る。


 異様な硬さ。 人の肉とは思えないが、魔法の反応もない。 知らない能力……いや、食って吐いて(イートオート)によってものを収納すると星矢の体重が増えていたことから考えると、入れているものが多いほど硬くなると思った方がいいか。


 追撃しようと拳を振るうが、星矢の体から風が吹き、星矢が後ろに飛んだ。 食って吐いて(イートオート)によって空気を取り出し、噴出させての移動か。 ……予想通りだ (エルの)。


「ッ! アキレア! 何故ここに!」

「話は後だ。 黙って引き返すか、戦うか」


 星矢は剣を何処からともなく取り出し、構える。 面倒だな。

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