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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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vs猫①

 どうしてこうなった。 手に肉の切れ端、その目の前で……黒くて小さな眼が互いに睨み合っている。


「モテモテだね、アキくん」


 月城は一人優雅にカップを傾け、クスクスと下を見下す。


「シャーッ!」

「な、何をっ! こっちも負けませんからねっ! 今度ばかりは譲れませんっ!」

「ニャーッ!!」

「う……お、脅しなんて効きませんっ」


 エルに飛びかかる黒い影、エルは突然の行動に驚いて後ろに下がろうとして、足を縺れさせてこける。

 黒い影はそのままエルの上に乗り、短かく「にゃ」と鳴いてから、エルを見下ろして鼻息を鳴らす。 その後、俺の手にある肉をひったくるように取って、俺の背後で食べ始める。


「く、悔しいです。 ……悔しいです」


 あっさりと敗北したエルが月城に慰められる。


「にゃー」


 黒い影は俺の膝の上に丸まり、勝ち誇った。


 どうしてこうなった。



◇◆◇◆◇◆◇



 星矢を探すために街を歩き始めたが、いかんせん手掛かりが少なく見つかりにくい。 一応、星矢自身が助けを求めていたのだとすれば、この街から離れるとは思い難いが状況が分からない以上は確実なことは言えない。


 どうにも手がかりがないものかと思っていたら、エルが口を開く。


「ありますよ、手がかり」

「えっ、エルちゃん突然どうしたの?」

「アキさんが手がかりがないかと思ってたので」

「さらっとそういうことするよね。 話についていけないからちゃんと口に出してよ、アキくん」


 俺が悪いのだろうか。 適当に頷いてから、周りにある魔力を探る。

 こういう時にレイのやつがいたら楽だったのだが、レイは俺よりも高い魔力の感知能力を持っている。 エルは記憶がある時でも、感知能力は低かったし、月城はそもそも魔力を感じられないので問題外だ、


「手がかりとは?」

「えと、アキさんの推理通りなら、なんで直接頼まなかったのか、敵対する可能性の高いことをしたのか。 という疑問がありますよね?」

「そりゃそうだね。 普通そうするけど……」


 それを認めたくないと思っている月城に、エルはゆっくりと続ける。


「つまり、助けを求められない状況であることが推察されますね」


 月城がホッと息を吐き出す。 いつもより口数が少ないのは、やはり感情的になっているのを抑えるためだろうか。

 多少心配になるが、それを心配するなら早急に解決することが望ましい。


「……助けを求められない状況とは?」

「単に脅されてるってことですね」

「脅されてる? あんなに強いし……それに、一人で動いてたのに?」

「脅しって一言で言ってもカツアゲみたいに力や数でするものや、契約や社会的なものを盾にした脅し……それに、例えば人質を使った脅し、みたいなのもありますよ」


 逃げられる状況だったので、力で押さえ込まれてはいないだろう。 社会的なものという具体例は思いつかないが、この国から離れれば問題ないはずだ。

 残るのは人質か。 月城が呟くように言い、エルは頷いた。


「その可能性が高いですね。

それで星矢くんが行った行動を思い返すと……」

「能力の強奪か」

「アイテムボックスみたいな能力を持ってたので、もしかしたら他の物も取っていったかもしれませんが、僕の記憶の限りだと減った物はありませんね」


 星矢は何者かに脅されて、俺たちから能力を強奪した。 あくまでも推理という枠組みから外れないので過信は出来ないが。


「他の勇者だな。 勇者以外には能力の移譲が出来ないのだから奪う意味がない」


 エルが頷く。

 今までの推理を纏めると、星矢は別の勇者に人質を取られて脅されており、エルから神聖浄化の能力を奪った。 その時に俺たちに助けを求めるような行動をしている。 ということか。


「……なんていうか、結構分かったね」

「そうですね。 わざと情報を残してくれていた可能性もあります。

ということなのでアキさん、魔力を辿ってみるにしても星矢くんだけではなく、大きな魔力を探るといいかもしれません。 勇者は魔物化して魔力が大きくなりやすいらしいので」

「分かった。 やってみる」


 見分けるのは難しくとも、巨大な魔力を探るというだけなら難しい話ではない。 歩きながら、魔力を探る。

 弱い魔力は全て無視し、大きな、強い魔力のみを見る。


「……いくつか、あるな。 勿論多少強いというだけで、レイや父親よりも遥かに弱いが。 それに、街全域とはいかないな。 多めに見て四分の一程度だ」

「へー、なんかよく分からないけどすごいね」

「すごいんですか?」

「分からないけど、すごいんじゃない? みんながみんな出来るわけじゃないだろうし」


 見つかる中で、父親を除いた最も強い魔力を探り、それに向かって歩く。 どうやら留まっているらしく、特に苦もなく近づき……それを見る。


「……あれだな。 強い魔力を持つ生き物」

「……猫?」

「にゃん……ではなく、猫ですね」


 黒い毛並み、紅い目。 魔物に近い容姿を持っており、まともな生き物ではないことは確かだが……ペンギンという奇怪な鳥が勇者であったことも考えれば、まぁあり得ない話でもないか。

 少なくとも、人に対して敵対的でないようなので魔物ではなさそうだ。


「……貴方は勇者ですか?」


 エルが恐る恐ると近づき、首を傾げながら尋ねる。


「…………エルちゃん何してるの?」

「えっ、とりあえずお話を……」

「いや、猫だよ?」

「えっ」

「月城、エルは猫と話せるんじゃないか?」

「いや……猫だよ? 無理でしょ」

「いや……その、話の通じる動物もいるかなーって、思いまして……」


 エルが妙な妄想に取り付かれている。 普通に考えて、動物とは会話出来ないだろう。

 現に目の前の猫はこちらを見ることもせずに首を掻いている。


「エルちゃんって、結構子供っぽいところあるよね」

「えっ、いや、ペン太さんも会話出来ますし……。 あ、女神様がみんなを集めたときに少し話したことがあって」

「ペンギンは普通話せるでしょ」

「俺は会話の出来ないペンギンは知らないな」

「えっ、僕の知識がおかしいんですか!?」

「まぁ……猫と話せるって思ってるの、可愛いからありだよ! エルたん!」


 俺が頷くと、エルはとぼとぼと歩いて俺の後ろに隠れるように移動する。


「もう知りません。 好きにしたらいいじゃないですか」

「……何を拗ねているんだ?」

「夢見るお年頃の女の子だったんだよ、察してあげて」

「……月城さんは馬鹿です」


 理不尽なエルに背中を押されて猫に近づき、俺の接近に気が付いて逃げようとした猫を摘まみ上げる。


「にゃー」


 特に暴れる様子もなく、危険には見えない。 毛並みも悪くなく、可愛らしいとも少しだけ思う。


「ナイスです! アキさんっ!」

「……とりあえず捕まえたが……」


 腕の中でバタバタと動いている猫をエルが触り、頰を緩める。


「えへへ、可愛いですぅ」

「エルたんは猫派なのか……私はペンギン派なんだけど。 こうして見るとなかなか可愛いね」

「これ、当初の目的とは違うよな。 流石に猫が脅したとは思えないしな。 俺はエル派だ」

「な、何を突然っ。 へんなこと、言わないでくださいっ」


 脅していた勇者ではないだろうと逃がそうとするが、月城に止められる。


「アキくんっ! 逃すなら、飼おうよっ!」

「そうです! 可愛いんで飼いましょう!

僕、将来猫を飼うのが夢だったんです!」


 エルがキラキラとした目で猫を見ていて、俺と話をしているのに俺の方を見ていない……。 少しにゃーと鳴くこの生き物が憎らしく思った。

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