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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第十二章:強くなりたい≒弱くなりたい
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鬼と讃えよ⑥


 俺の様子を見てか、エルは不安そうに俺を見て、顔色を伺うような仕草をする。

 苦手な作り笑顔のあと、先程の話をしようかと思ったが月城の前では話すことが憚られた。


 話をしにいっている間に着替えたのか二人とも寝巻き姿でベッドの上に座っている。 いつもなら月城がこうも居座ることはないが、もしかしたら思っていた以上に星矢の裏切りが辛かったのかもしれない。


 エルとしている話もたわいもないことが多く、星矢については触れられていなかった。

 不自然なその会話を聞きながら椅子に座る。


「そろそろ寝ろよ。 夜更かしすると辛いぞ」

「あ、はい。 ごめんなさい」


 エルは素直にベッドに入り込むが、月城は出ていく様子を見せない。

 曖昧に笑うところを見て、溜息を吐き出す。


「そのベッドで寝ていていい」

「えっ、悪いからいいよ。 私、エルたんと同じベッドで寝るから」

「それが出来るなら俺がしたい」

「……アキさんと一緒には寝ませんよ」

「エルたんとは思えない発言。 ……いや、本当に悪いから」


 床で寝るから、と月城が言い始め、部屋に戻るつもりがないことを理解してから、俺は椅子から立ち上がる。

 数歩移動して扉に手を付けてから月城に言う。


「寝具を持ってくるぐらい手間にはならない。 少し休め」


 少し話しただけの星矢のことを思い出しながら、別の部屋からベッドを持ってくる。 レイのを持って来ようとしたが、食べカスが汚かったので、少し離れるが月城の部屋からベッドを運ぶ。


 ある程度考えがはっきりとしてから、自室に戻ってベッドを他のベッドから少し離れたところに置く。


「よし、ここでいいな」

「あ、私のベッド……遠くない?」

「エルは?」

「無視か……もう寝たみたい。 エルたん可愛い」


 ブツブツと言いながらも月城はベッドを移動して、エルの隣のベッドを俺に譲る。 エルの寝ているベッドの縁に腰を掛けて、寝ているエルの頭を軽く撫でる。

 柔らかい髪質も直ってきた、少しだけ顔色も元に戻ってきて、以前の可愛らしさを取り戻している。


「……なんか兄妹みたいだね」

「そうか?」

「うん。 仲のいい兄妹みたいに見えるよ。 あっ、ごめんね。 結婚してるのに」

「いや、別に嫌な言葉でもない」


 柔らかな頰を突いてから、月城を見る。 華奢だけれどエルとは違って女性らしい身体つきをしていて、それを隠せていない薄い寝巻きだ。


「ん、どうかした?」


 彼女のことを見ていたことに気がつかれたのか、不思議そうに首を傾げられる。


「はっ、まさかエルたんが寝たのをいいことに私を……っ」

「そんなわけないだろう」


 言うべきことだろうか。 言わない方がいいかもしれないと思ったが、友人である月城に隠し事をするのは気が憚られた。


「……星矢のことだ」


 分かりやすく落ち込む顔。 友人だと思った人物に再会できたと思えば裏切られたのだから、当たり前かもしれない。

 落ち込んでいるからこそ言うべきで、言わないべきだ。


「どうしたの?」

「星矢は、能力を渡す前に自分の能力も語った。 戦ったときも実際にその能力を使っていたから、嘘は吐いていなかったらしい」


 月城は小さく頷いた。


「初めから能力を奪うつもりなら、嘘を吐かずに能力を晒して不利になる理由がない」

「いい能力だから突然欲しくなった、とかは?」

「初めから必要のない能力ってしていただろう。 神聖浄化は。

奪って逃げるまでもなく無料でもらえていたはずのものだ」


 月城は瞳を揺らして俺を見る。 彼女の不安げな顔は初めて見るものだった。

 縋るような瞳から目を逸らし、布団の中に手を突っ込んでエルの手を握る。


「星矢くんは、能力が欲しかったわけじゃ、ない?」


 俺は頷く。


「おそらくな。 月城を攻撃しようとしたのだって、星矢が能力を使えば俺に止められることもなかっただろう。 奪ったが、奪うことが目的ではなかった」

「じゃあ、なんで……」

「知るか」


 寝ているエルにキスをしようか迷うけれど、勝手にしてはいけないと思い留まる。


「アキくん、自分から振っておいて速攻で飽きてきてない?」

「いや、エルに気を引かれていただけだ。 ……おそらく、星矢は敵ではない。 敵だとすれば、整合性が取れない」

「……本当に?」


 弱い奴に、俺はとことん弱い。 目の前の月城も、あるいは逃げた星矢にしても。


「明日、探してみよう。 困っているかもしれない」


 目から溢れ落ちる涙に少しだけ見惚れる。 人を思って流すそれは、美しいと思う。 エルもよく同じように涙を流す。


「ありがとう……アキくん」

「礼は星矢から聞くからいらない。 もう寝ろ、明日は早い」


 俺もそのまま寝転び、目を閉じる。


「えっ、エルたんのベッドで寝るの?」

「エルが起きる前に移動する」

「うわぁ……」

「嫌がることはないから問題ない」


 布団の中に入りこみ、エルの身体を抱き寄せる。 暖かく柔らかく心地よい。 特に、腕の中に彼女がいる安心感は至福だ。

 世界を救おうとか、周りの人間にも優しくしようとおもったが、やはりエルは特別だ。


 甘く感じる匂いに獣欲を刺激されるが、それを誤魔化すようにゆっくりと息を吐いてから目を閉じる。


「おやすみ、エル」


 暗くなった部屋で抱き締める。 ああ、久しぶりに安心して眠れる……。


◇◆◇◆◇◆◇


 目を開けたら、世界の何よりも愛おしい人が目の前にいる。 その幸福感は筆舌しがたく、もじもじと動き、顔を真っ赤にして涙目で俺を見ているエルが可愛らしい。


 ……寝坊した。 エルが起きる前に移動するつもりだったが、久しぶりに安心して眠れたために思ったよりも寝すぎてしまっていたらしい。


 朝方の生理現象か、あるいはエルを抱き締めて寝ていたからか、大きくなってしまったそれがエルのふとももに当たる。

 エルが恥ずかしそうにもじもじと動く度に柔らかなふとももに擦られて息が漏れ出る。


「あ、アキさん、お、起きたんですか」


 無理に通常営業通りにしようと涙ぐましい努力をするが、顔は真っ赤になっていて、どう見ても異様な状態だ。 俺のせいであり、エルが恥ずかしい思いを隠そうとしているのだからそれを掘り返すわけにも行かず、ゆっくりと腰を引いてエルから離す。


 どうやら月城はもう起きているらしく、紅茶の湯気が鼻腔をくすぐる。 いつの間に着替えたのか、いつものメイド服姿で俺の方を見てた。


「おはよ」

「ああ、おはよう」

「……起きたときに抱きしめられてたらびっくりするよ、そりゃ」

「……そうだな」


 事実はそれだけではなく、むしろ別の理由が原案なのだが、言える筈もない。


 掛け布団から出ようかと思ったが、エルの泣きそうな顔に興奮してしまったためか、なかなか収まる様子はなく、月城の前だそのような醜態を晒すわけにもいかないだろう。

 そのため出ることも出来ずに布団の中に待機し、エルが出て落ち着いたら出ようとしたが、エルがベッドから出ることはなく、もぞもぞと恥ずかしそうにしているだけだ。


「二人ともどうしたの?」

「あ、え、いや、その……少しまだ眠たくて」

「すごくぱっちりおめめだけど……。 全く、バカップルめ、そんなに引っ付きたいのか」


 エルは首を横に振り、俺の方を見ると。


「ち、違いますっ。 アキさん、早く出てくださいっ」


 そうエルに言われるが、出るわけにも行かないので首を横になって振る。


「……まだ眠い。 エルが出てくれ」

「……別のベッドに行けばいいじゃないですか」

「……いや、俺はエルから離れたくないから」

「なんで訳の分からない揉め方を……」


 エルは頑なに出ようとしない。 長い間言い合いをしていたらなんとか興奮も収まったのか、いつも通りに戻ったのでベッドから出る。

 月城の淹れてくれた紅茶を飲み、ボサボサになった頭を掻く。


「顔洗ってきたら?」

「エルが場所分からないだろうから、エルが起きてからにする」

「……僕には気を使わなくていいですから、どうぞ、お二人で行ってください」

「二人で行く意味分からないよ。 もう私は一通り身支度出来たし」

「ほら、アキさんに場所を教えてあげないと分からないじゃないですか」

「ここは俺の家だぞ」


 エルは何を言っているのだろうか。 まぁ、寒いから出たくないとか、そういったことだろう。


「……まぁ、急いでいるわけでもないから待つから、ゆっくりしたら出たらいい」


 甘やかせ過ぎかもしれないと思いながら言うと、エルは顔を絶望に歪めた。


「どうしたの?」

「な、なんでもないですけど……」


 本当にどうしたのだろうか。 少し考えて、察する。


「……月城。 昨日読んでいた本を書庫に戻そうと思うんだが手伝ってくれ」

「ん、いいよ」

「エル、エルの着替えはそちらのクローゼットに一通り入ってるはずだがら。 あと、着ていたのは出して貰えば……」


 俺の言葉にエルが顔を真っ赤にして鼻をすすり、涙を流す。

 ぐすぐす泣きながら俺を見る。


「ち、違うんです。 アキさんが、変なこと、するから……。 変なことするから、変なことに……。 アキさんのばかぁ」


 エルの涙ながらの訴えに月城は困惑したように俺を見る。


「何したの、アキくん」

「……黙秘する」


 エルは性的なことに弱いが、嫌いというわけではない。 今回は……良くなかった。 申し訳なく思いながら部屋を出る。

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