表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
264/358

君を想えばえんやこら④


「ライトニングショット! ストーンバウト! ファイアバレット!」


 イチカの手からばら撒かれる魔法に息を巻く。

 魔力が極端に多いタイプの魔物らしいが、同じ魔力型であるエンブルク家の二人とは違い、一つの属性に特化しているわけではなく、多くの属性の魔法によって適時違う物を効率よく放つことで魔物を倒している。


 共に旅をしていたレイは特に酷く、ゴブリン一体に対して地形を変えるような魔法をぶっ放すことも珍しくない。


 それに比べて、魔力の運用効率がいい。 安定して戦っているのを見ると、安心して馬車の屋根で一眠りすることが出来る。


 馬車ももう一台買ってくれたし、イチカ様々である。 王女、老人、護衛三人に俺、六人揃ってロリババアのヒモである。 やったね。


  護衛の奴も御者が出来るらしく……というか、この護衛達は割と何でも出来る。

 一応は王女であり、その護衛ということらしい。 侍女がいないのはおそらく旅の間に死んだのだろう。


「それにしても、魔物多いな」


 魔物を倒し終えたイチカは馬車の屋根に飛び乗って、首を傾げる。


「前よりも大分少ないぐらいですよ? わざわざ倒す必要がないぐらいには」

「ああ、知り合いの……というか、今から会いにいく雨夜樹の義妹勇者の能力で瘴気の大部分が消えているからな。

……ほら、普通に瘴気が薄いだろ?」

「あ、ケンさんが瘴気魔法でどうにかしてるのかなって思ってました。 そういう能力もあるんですね……。 なら、魔王とか女神とかもどうにかなるかもですね」

「…………ああ」


 イチカの恋人らしい雨夜樹の魂も、同様だろう。

 それを分かっていない彼女ではない。 少しだけ歪んだ笑顔を俺に向けて、イチカは口を開いた。


「今更、ですよ。 魔物が生まれて彼の瘴気が混じっていたら駄目、千年もバラバラになったそれが混じっていないなんてことは考えにくい。

今更ですよ。 こんなの」


 言っていることとやっていることが食い違っている。

 なら何で待っているのか。 そう言っても彼女を困らせてしまうだけだ。


「人は死ねば死んだまま、そんなこと……分かりきっています。 分かってます。 分かってるんですよ?」

「何回も言わなくても分かってるよ」


 諦めきれないことぐらい分かる。

 聞くまでもなく。


 二人してため息を吐き出して、空を見上げる。


「……空、綺麗だな」

「私を口説いてます?」

「何でだよ、そんな要素ねえだろ」

「んっ、昔……イツキさんも、同じことを言ってたので」

「はん、昔の男のことばかり話す女は口説く気にはなれないな」


 死ねば死んだまま。 当たり前のことを聞いて、自分の手を空に翳す。


 揺れる馬車。 どうにも寝転んでいる背中が痛い。


「忘れさせてやるよ。 とか、そういうのはないんですか?」

「惚れさせて千年愛されるとか怖いからな」

「酷い人ですね」


 千年も待たせている奴よりかはマシだろう。 そんな言葉は口に出さず。 彼女に聞く。


「どんな奴だったんだ? その色男は」


 少しキョトンとして、花が咲いたような満面の笑みで、イチカは俺に話し出した。

 こちらの世界では、千年も昔の英雄のことを。


◆◆◆◆◆


 王女様一行が小悪魔未亡人系ロリババアのヒモになってから数週。 レイの家……エンブルク家に入る。


「のぅ小僧。 ……儂等はあくまでも忍んでこの国に来ておるのだが」

「あー、貴族の家によるのはマズイのか。 まぁ大丈夫だって、ここの人はアホだから、問題にはならない」

「どういう理屈……」

「そのまんまだよ。 大丈夫、俺も以前ここの長男と次男を連れて旅に出ても大丈夫だったし」

「お主なにしとるん?」

「最終的に家長も引っ張り出しても問題にならなかったぞ」

「違う意味でこの家に入りたくなくなってきたのじゃが……」


 嫌がる爺さんの乗る馬車を引っ張って、無断で敷地内に停める。 渋々といった様子で降りてきた爺さんは「挨拶をしてくる」というが、面倒くさいのでそれを止めて、息を大きく吸い込む。


「レーイーくん! あーそーぼー!」


 「……」と無言の冷たい目で見られるのが辛い。 しばらくして、屋敷の大きな扉が開き、人影が飛び出してくる。


「ロトさん!」

「っと、おお、久しぶり」


 軽く人影を受け止めると、すぐ目の下に茶色い動物の耳が見えた。


「相変わらずメイド服似合ってねえな。 ケト」

「そうですか? ……ところで、そちらの方達は……」

「ロリ英雄のイチカちゃんとそのヒモ達だ。

そっちの穀潰しの脛齧りはどこだ?」

「ああ、ヒモですか。 レイさんは食堂で食事中です」


 まぁだろうと思ったけれど。


「アキレアとエルちゃんはいる?」

「えーっと……アキレアさんは近くに一軒家を購入してそこに住んでいるんですけど……なんと言いますか……」


 嬉しそうにしていたケトの顔が歪み、気まずそうに目を伏せる。


「どうしたんだ? あいつのことだったら、だいたいのことなら驚かないと思うが」

「私もそう思っていたのですが……。 なんと言ったらいいのか」


 どうにも言い淀むケトの後ろから、ひょっこりと金髪の少年が首を出した。


「兄さん……はなんか、いつもおかしな人でしたけど。 その……頭おかしくなってました」

「頭おかしく?」

「その……まぁ、近いですし、見てもらうのが一番手っ取り早いかと」

「レイって語彙が少ないからだいたい実物を見せて説明するよな」

「……語彙って?」


 もういいや。 見に行こう。


 脛齧りとメイド狸に連れられて、イチカとそのヒモ達と共に街の中に戻る。

 以前よりも活気があるように見える街中をヒモや脛齧りが闊歩し、閑静な住宅街の一角で止まった。


「ここに住んでいます」


 街では高級な住宅街なのだろうが、その家だけこじんまりとしていて、けれど敷地が狭い訳ではないらしく庭がヤケに広い。

 決して金をケチったわけではないだろう家なのに、わざわざ小さいというところに、アキレアのスケベ心が見え見え隠れしている。 ラッキースケベの可能性を上げようとしたのが見え見えである。


「可愛くて素敵な家ですね」


 イチカはそう言うが、俺にはアキレアのスケベ心にしか見えない。


「私もこんな可愛い家に住んでみたいです」


 王女様がわざとらしく嘘を吐くが、俺にはアキレアのロリコンさに引くことしか出来ない。


「……それなりの身分のものがこんな家に……」


 ヒモジジイが呆れるが、俺も完全に同意である、流石は俺のヒモ仲間だ。


 レイを先頭に門をくぐり、レイが丁寧且つ無意味に力強くノックをする。

 すぐに扉が開き、見慣れた顔が見える。


「レイ……それにロトか。 どうした」

「ん? 普通じゃん。 確かにいつも通り無愛想だけど。

ああ、こっちのイチカがエルちゃんに用があって……」

「…………チッ」

「いや、別にエルちゃん取りにきたわけじゃないから」


 相変わらずエルちゃんラブのところに呆れながらも、レイやケトの言うような妙なところはなく、いつも通りだ。


「あれ、エルちゃんは? 一人で買い物ってこともないだろうし」

「何を言ってる。 ここにいるだろ」

「えっ、何処だよ」

「幾らエルの背が低いからって……。 冗談だよ、エル。 俺は……可愛いと、思う」


 幾ら捜してもエルちゃんの姿はなく、魔力感知で捜しても近くにはいない。

 だがアキレアは何もない虚空を見ながら、心底幸せそうに不器用に笑っている。


「……どうなっているんだ?」


 俺が口を開けば、ケトがアキレアに聞こえないように俺に耳打ちをする。


「見たままで……その、ずっと存在しないエルさんと……お話していて……」

「………………。 えぇ……」


 俺がドン引きしている中、アキレアはエアエルちゃんにエアキスをしようとして、エアビンタらしきものを食らって嬉しそうにニヤつく。


 あまりの気持ち悪さにドン引きして、見ていられずに目を逸らすと、弟のレイも、千年も生きているからキモさ耐性と高いであろうイチカも、ロリのヒモになっている奴等も一様にドン引きしている。


「……帰りますか」


 レイがそう言いながら、口に干し肉らしきものを放り込む。 ケトもその後ろに続き、残ったのはアキレアとは面識のない奴等と俺だけである。


 どうしたらいいのだろうか。


 エアエルちゃんをエア愛でている友達だった人物を見ながら、俺は空を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ