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寂しい夜の新たな出会い①


 寝転んだ俺に多い被されるのは真白な雪で、布団にも見えるのに暖かさはない。

 この場から動くことが億劫でそのまま目を閉じる。 死ぬことはないだろう。 少しだけ休もう。

 雪は冷たく、痛いぐらいだが、辛さにはもう慣れた。

 現実から逃げるように目を閉じる。


 目が覚めたら、グラウが笑っていればいいのに。



◆◆◆◆◆


 剣を振るう。 それしか脳がないのか、あるいはそれしか求められていないからか。

 逃げ出したいと日本で願い、その願いのおかげで、ここに来て少女と出会った。


 少女は可愛い。 俺の補佐として付く、世界で唯一の「魔法使い」ということらしい。 しかしながら、周りは少女に対しての扱いが雑で、苛立ちが募る。


 それでも少女は健気に笑い。 少女も辛いだろうのに、俺を支えくれた。 ああ、なんて愛らしい。

 もうこの世界に来てから五年、少女と出会ってから一年が経過した。 俺も強くなり、剣を振るうことしか出来ないのには変わりないが、それでも恥を晒すことはなくなった。

 少女に想いを伝えよう。


「ごめんなさい」


 少女は泣きながら俺を抱き締めた。 少女の声が震えて、俺の名前を呼ぶ。


「ーーツキさん。 私はあなたが大好きです」


 と反対に愛を叫ばれて、喜びと困惑が心中を占めていく。


 泣いている少女を抱き締める。


「俺も好きだ」


 そう返すと、少女は泣いて泣いて泣き腫らして俺に言った。


「ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい」


 少女は俺の体を強く強く抱きしめて泣き叫ぶ。


「結婚してください」


 二人の言葉が重なって、俺は日本への未練を失った。


 それからというものは、幸福だった。 城から歩いてすぐの場所に小さな家を作った。 互いにやることが多く、家にいられる時間は少なかったが、仕事は同じものばかりでいつも一緒にいられたのは悪くない。

 二人で不慣れな家事をして笑い、食事を楽しみ、ゆっくりと散歩をしたり、夜には夫婦らしく強く抱きしめた。


 幸せな生活。 少女はずっと俺に謝った。 笑ってから謝り、食事をしてから謝り、散歩をしながら謝って、愛し合う度に俺に謝った。


 「ごめんなさい」少女に俺は尋ねた。 「なんでそんなに謝るんだ」。

 「ごめんなさい」少女は首を横に振って、隠した。


 ある日、少女は倒れた。 それを聞き、城に急いで行けば、少女が元気そうで安心した。


「本日より、よろしくお願いします」


 少女は頭を俺に下げて、慎ましく笑う。

 その後ろに、ベッドで横になっている少女を見た。


「ごめんなさい」


 ベッドに倒れている少女はいつものように謝った。 二人いる少女。 迷わず笑みを浮かべていた少女の横を通り過ぎて、少女の手を握る。


「大丈夫か」


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 何故、謝るんだ。 少女はまた謝る。


「ごめんなさい。 今日、倒れることは分かっていたの。 本当は、貴方と暮らすよりも前に」


 意味が分からなかった。 ふらりと崩れそうになった身体は、もう一人の少女に、同じ顔と身体をしている少女に支えられる。 いつも少女にされるようで、俺は安心しきって……その安堵があまりに気色悪く、もう一人の少女の支えを振り払った。


「なんだこれは」


 俺は詰めるように問く。


「私は、もう死ぬんだ。 本当は人に造られた命で、ーーツキみたいに長い時を生きることは出来ないの。

だから、ごめんね。 隠して、騙して、すぐに死ぬ命に尽くさせて、一緒にいさせて」


 少女は涙を流して、俺は少女に涙を流して。 強く抱きしめた。


「なんでだ、なんで言わなかった」


「ごめん、ごめんなさい」


「言ってくれたら、もっと一緒にいたのに。 ずっと抱きしめていたのに」


 少女は涙を流した。 死にたくない。 少女は涙を流した。



◆◆◆◆◆


「ーーギン」


 俺の頭が誰かに叩かれる。 痛みで目が覚まされるが身体は冷えていて動かない。


「ペンギン!」


「ーーってえ!」


 痛みで飛び起きて、俺を叩いた人物の姿を見る。 いや、人ではなかった。 魔物だろうか、だが、魔物の特徴はなく、俺が起きてからは叩こうとする様子もなく大人しい。


「ペン、ペンペン。 ペンギン」


 俺の膝ほどしかない小さな身体の異形の生命体。 ぷっくりとした丸い身体は黒と白がはっきりと分かれた体色をしていて、手に当たる部分は鳥の翼のようにも見える。

 なんだこの異形の生命は。


 警戒をして、魔石の剣を握りしめてその動物を見るが、何か敵対の様子はない。 危険がないのなら、とりあえず、帰ろう。 朝日も出てきた。 エルが起きてしまえば心配するだろう。


 寒さでまともに動かない身体を引きずりながら街に入り、歩いて宿屋に戻る。

 もう起きていたのか、エルの声が聞こえる。


「アキさん、アキさんがいないんです、何か犯罪に巻き込まれでも……」


「そういや、アキさ、昨日迷い込んだ色街でちっちゃい女の子見てたような……」


 ロトがあることないことをエルに吹き込もうとしていたので、睨みながら否定する。


「見てねえよ。 少し散歩をしていただけだ」


「ペンギン」


「少し散歩してたらどんだけびしょ濡れになってんだよ。 大雨か」


 エルが俺に向かって駆けてきて、濡れているのに抱き締める。


「もう、心配したんですよ? こんなに濡れて冷えて……大丈夫ですか?」


「いや、寒い」


 冷えるからとエルを離そうとするが、エルは強く抱き締めて離れない。 廊下ごと暖められるようにエルの魔法が発動されて、少しだけ暖かくなる。


「水は……ん、乾かしておくので、少し脱いでください」


「いや、替えの服ないぞ」


「お部屋の中にいればいいじゃないですか。 布団を被って」


 これは、勝手に出て行ったことを怒っているな。 俺の服を奪っておくことで部屋に閉じ込めるつもりだろう。

 水魔法で脱水すればいいだけだしな。


「いや、いい。 普通に脱水してくれ」


「……いいですけど、縛りますよ」


 それぐらいは仕方ないか。 服が瞬間的に乾かされて、エルに鎖を巻かれる。


「ペンギン」


「あれ、アキ。 グラウは一緒じゃないのか?」


 小さく息が漏れ出る。


「あいつは、嫁探しをしに旅に出たよ」


「そうなのか。 このペンギンがグラウだと言われたらどうしようかと思った」


「ペンギン」


 ペンギン? ペンギンと鳴いているからペンギンなのか?

 というか、着いて来ていたのか。 この異形の生物。


「ペンギン……いや、ペンギン? リアナ、ペンギンってペンギンって鳴くっけ?」


 ロトがペンギンペンギン言っている横でエルが驚いたような表情をして、ペンギンを持ち上げる。


「アキさん。 この子どこで見つけたんですか?」


「町の外で見たが、着いて来ていたのか」


 ペンギンと呼ばれた生物は翼らしきものを動かして、エルの手から抜け出す。


「えと、お久しぶりです。 ペン太さん。

アキさん、このペンギンは、月城さんのペットですよ。 言っていましたよね」


 そんなこと言っていただろうか。


「月城のペット……ということは地球産か。 勇者?」


「ペンギン」


「いや、ペンギンなのは見たら分かるけど」


 ペンギンってなんだ。 意味が分からない。


「んぅ、ペン太さんは勇者でしょうけど……。 その、多分なんですけど、こうして生きているってことは、こっちの世界でペン太さんのお世話をしていた人がいると思います。 ペンギンが陸で餌を採れるとは思えませんから」


「つまり、人付きの勇者……。 って、ええ、俺付きなしだよ!? 俺はこのペンギンよりも下なのか!? 下なのか!?

俺、ペンギンより期待度低いの!?」


「……それより、飼い主の方を見付けた方が……」


「面倒だ。

もめるのも面倒だから、月城のところに持って行けばいいだろう」


 俺がそう言うと、ペンギンが俺のふくらはぎを叩く。


「ペンギン」


 何が言いたいのかは分からない。

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