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VSエル②

 エルはかわいい。 大切である。

 なのに俺は何故、こうも必死に刃を振るっているのだろうか。


 二回戦目に入り、初戦と同じように現れた土の壁を荒鋼を振り回して破壊する。 破壊と同時に飛来した、幾十つもの土の槍を見て、荒鋼を背に戻し木剣に持ち替える。


「薄刃の剣界」


 エルにはまだ見せたことのない、どころか使用したこともない剣技。 俺の元に飛来した土の槍は剣先に触れて、曲がっていく。

 まるで一人でに逸れていくように見えるそれを見て、エルは嬉しそうに表情を変える。


 遠くにいるエルが小さく口を動かす。 「かっこいいです……」と言っているように見えるが、まさか戦闘中の相手にそんな惚気たことは言わないだろう。


 限りなく動かない剣技。 走り詰めることも出来ないほどに神経を使い、摺り足でゆっくりと詰め寄る。 少し近寄ったところでエルの魔力が足元を走る。


「シールド」


 落とし穴が生み出されるが、それに覆い被せるようにシールドを貼り付けてそのまま歩く。


 徐々にではあるが、確実に距離を詰める俺に、土槍の魔法による攻撃を放つ手を止めて、突風に変えて俺を吹き飛ばそうとする。 だが土槍を防ぐ必要がないのならば俺の脚力で突き進むことは容易だ。


 全身を浮き上がらせるような突風の中、身体が浮き上がればシールドを蹴り割って進み、エルの元に到着する。


 柔らかな唇、ほんの少し湿ったそれに俺の唇を合わせた。 心地よさに酔いしれながら、舌を伸ばそうとしたところで、エルの顔が引かれる。


「もう一度、です」


「もう諦めてくれ。 エルは戦えない。

ロトより、レイより、リアナより……それどころか、戦闘をしないケトよりも、ほとんど何も出来ない月城よりも弱いだろう」


「そんなこと、ないです。 ないですから」


 ーーだからもう一度。


 三度目の正直。 エルはそう言って俺に挑むが、負けるとは思えない。 土槍と同時にやってくる、時計型の光。 当たれば時を巻き戻される厄介な能力ではあるが、いかんせん遅く、当たるわけもない。

 その上に同時に一度までしか出せないようだ。


 弱い。弱い。 土槍と同時に突風が吹き荒れる。 大規模な魔法を同時に発動という魔法の極致とも言える行いの代償か、エルは息を荒げながら俺を見る。

 発光。 エルの姿を見据えていた俺の目が焼けるような痛みに襲われる。 数瞬遅れて、エルの光魔法に目を潰されたことが分かった。


 駄目押しに、エルから爆発するように水の魔力が放たれる。 飛来する土槍、突風、津波。 その上に目は見えず、頼れるのは魔力感知と聴覚ぐらいか。


 小さく息を吐いて、身体から魔力を放出する。


「シールド」


 エルの魔法に俺の魔力が当たり、心が通じ合っている証左のように魔力が溶け合う。

 そして、俺の魔力は無理矢理にでもシールドに変質する性質を持っている。


 エルの魔法、魔力、その全てが俺の魔力と混ざり合って一つの魔法にへと変質していく。


「ーーッ! 無茶苦茶です!」


 その声は近く、見えない目でも上手く走れたことが分かる。 魔力は使い切ったのか、魔力を感じさせないエルを手探りで捜索する。

 不意に、俺の腕が引かれて身体を低くさせられたかと思うと、唇に柔らかく形のよい少し湿気たものを押し付けられる。


「次、です」


 徐々に見えるようになっている視界がエルの姿を見を薄く捉える。 やはり魔力はもうない。


 四回戦目。


 俺に向かって走ってくるエルを抱き上げて、抱き締める。


「ありがとう。 エル」


 こんなにも必死に自分のことを思ってくれているのだと思うと、喜びが全身を包む。


「そう言うのなら、負けてください」


 エルの唇を舐るように触れながら、ゆっくりと舌をエルの口内へと浸入させる。 生暖かい粘膜、硬く滑らかな小さな歯、小さく健気に俺の舌に触れている舌。 興奮が頭を痺れさせていく。 夢中になって、エルの身体を抱き締めて、耐えられずに地面に押し倒す。


 執拗に舐っていると、エルがイヤイヤ、というように俺の身体を押すが、我慢出来るわけもなく舌を絡ませる。


 エルの抵抗がなくなった頃に、なんとなく満足感が得られたのでゆっくりと離すと、どちらの唾液ともとれないそれが糸を引いていた。 エルはそれを見て赤く染まっていた顔をより赤くする。


「負けられないな」


 先ほどの言葉に返すが、時間が経っていたからかエルは少し不思議そうに見て、何をしていたのかを思い出して俺を見た。


「もう……一回です。

あの、その……負けて、ください。 お願いですから」


 魔力がなくなり、自身にかけていた洗脳魔法の効果も切れたエルが、涙をボロボロと零しながら言う。

 エルは俺の身体から少し離れて、俺を見る。


「アキさんが望むなら、恥ずかしいですけど、いつでも僕にちゅーしていいですから」


 非常に魅力的で、エルが戦うではない、他の何かが条件であるのならば「分かった」と即答しただろう。

 俺は首を横に振った。


「アキさんが好きななでなでもしてあげます」


 俺は首を横に振る。


「大好きって言ってぎゅーって抱き締めてあげます」


 ごめん、と謝って首を横に振る。


「……僕の胸を触っても、いいです」


 ゴクリと生唾を飲み込む。 一度結婚する時にしてから、それ以降はすることが出来なかった。 あの時の興奮を思い出すだけで頭がおかしくなりそうだが、気力で無理矢理に首を横に振る。


「また僕の、その……は、裸を見せてあげます」


 エルは俺が固まったのを見て、顔を耳まで赤らめたまま、同じ系統で攻める。


「それでも、俺は」


「以前の見えないような暗いところではなくて、その、明るい部屋で……って言ってもですか……?」


 エルの身体を見て、その華奢な体つきに酷く興奮し、今にも襲いかかりたくなる。 俺の魔物の精神が襲いかかれと囁くが、近くの木に頭を打ち付けて我慢する。


「お、お……お、ふろ、い一緒に入って、あげ、ます。

だから……」


 木に頭突きをして木をへし折る。 エルが少し怖がるが、エルを守るには必要なことだった。

 エルが次の交渉を言うまで、恥ずかしがってなかなか言い出さず、二本目をへし折る。

 エルは覚悟を決めたように俺を見て、一瞬で目を逸らして木の後ろに逃げ隠れてから言う。


「その、裸の僕を、触り、まわして……好きにしても……。

僕が戦っていいのなら、その……今夜からでも……」


 もしかしたら、エルの能力で魔物の発生も抑えられているわけだし、戦うことがないかもしれない。 エルを触りまわしながら家に篭っていてもいいわけである。


「……アキさんが大好きな…………えっちなこと、させて、あげます、よ……?」


 身体が震える。 エルの提案はあまりに魅力的すぎて、まともに耐えられるようなものではない。


「あ……くそ、そんな。 ズルいぞ、エル」


「ズルくても、はしたなくても、アキさんを守るためなら、アキさんにそういうことを提案します。 ……その、アキさんがすごく、えっちなのは知ってるんです」


 エルはそう言ってから、話している間に回復した魔力で自身に洗脳の魔法をかける。 羞恥心が減ったように、顔の赤らみが薄くなる。

 エルはそのまま、泥団子を作り出して手に持つ。


「もし、ですよ?

もしアキさんが、この「魔法による攻撃」が当たったとしたら……。

アキさんの身体、汚れちゃいますね」


 泥の玉を持って、ゆっくりとエルは俺に近づく。 俺は蛇に睨まれたカエルのように動くことが出来ない。

 そんな間にもエルは距離を詰める。


「身体が泥で汚れてしまったら、お風呂に入って……身体を洗わないと……ですよね?」


 浄化の能力があるだろう。 とは言うことが出来ない。

 そういう事ではないのだから。


「アキさんの手が届かないところ、一人では洗えないところ。 僕が……」


 想像してしまう頭を振り払う。 エルの白い肢体など、存在しない。 存在しないんだ。 華奢で可愛らしい身体もない。 だから考えるな。


 俺が必死でエルの猛攻を耐えていると、エルがわざとらしく「あっ」と言って、自分の身体に泥を落とした。


「汚れて、しまいました。 お風呂に入って……洗わないと……ダメですよね?

僕のここ、一人では……その、あの、あ、あの、あれです、その、あ、洗えないかもしれない、ですね」


 エルは少しだけ泥の付いた胸を触る。 薄く薄い胸だが、ほんの少しだけ、俺でなければ視認すら出来ない程度にある……というか殆んどない胸の膨らみが、ふにゅりと変形したのを見る。


「……肌が弱いので……素手でしてくれませんか……?」


 強すぎるエルの猛攻。 防戦一方になり、手足が言うことを聞いてくれることはなく、エルが目の前にくる。 ゆっくりとエルは泥玉を振りかぶってーー。


 俺は逃げた。 踵を返して、エルを見ないようにして走った。 途中、エルがギリギリで見える位置に戻ったが。


◆エル の おいろけ

◆つうこん の いちげき



◆アキレア は にげだした

◆しかし まわりこんで しまった

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