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勇者な彼女と英雄への道  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第五章:信じるのは、あなただけで
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醤油の勇者と勇者の村②

 夕永から熱烈な歓迎をエルが受ける中、俺のことは快く受け入れるといった様子ではない。

 住んでくれ、とエルに頼むのと同時に俺の方を見て顔を顰める。 周りを見れば遠巻きに俺たちを見る黒髪黒眼の人が見える。


 見てくることは見てくるのだが、近寄ってくることはない。 歓迎されているようには見えず顔を顰める。


「もうちょいで流水さんのとこに着くよ。 いい人だから、気を張らずにで大丈夫だよ」


「はい。 ありがとうございます」


 その他の勇者たちの様子を察してか、夕永に対しての態度が先程までよりもよそよそしい。

 言葉こそ丁寧でも、良い態度ではない。


「いいのか?」


「いいんです。 役に立つ情報があるとも思えませんから」


 夕永は俺たちの会話を聞いて首を傾げながら、こじんまりとした家の中に入っていく。


「流水さんいますか?」


「んー、いるよー。ゆうゆうか、どうしたの?」


 間延びしたような、女性の声。 夕永が扉から手だけちょいちょいと招き入れようと動かしたので、それに従い中に入る。


 見た目通りの小さな家。

 家として必要な台所やら風呂場やら、書斎やらが一切なく玄関から一気に寝室に繋がっているような造りで、入ったのと同時に一人の女性の姿が見えた。


「こんにちは。

もうゆうゆうから話は聞いているのかな?

私は流水と名乗っていて、一応ここの村長をさせてもらっているよ。 成り行きでなっただけだけどね」


 そう言ってエルに温和な笑みを浮かべる。

 ゆっくりと握手を求めるような手を出し、エルが一瞬びくりと震えるとその手を戻した。


「悪いな。 こいつは少し怖がりで」


「いや、いいよ。 ごめんね、脅かしちゃって」


 敵意のなさを示すように流水と呼ばれる女性は頭を下げる。 エルが申し訳なさそうにゆっくりと手を伸ばすと、流水は優しく包むようにエルの手を握った。

 年齢は二十代半ばだろうか。 その割にも落ち着いて見える彼女は椅子を並べて座るように促す。


 初対面の人間と寝室のような場所で話すことには少し抵抗があるが、慣れない人が多い中でエルに任せきりになるのは悪い。 エルの怯えを感じ、俺は口を開いた。


「まず、この子はエル。 お前たちと同じ勇者だ。

俺は、この子の仲間で行動を共にしている。 アキレアだ」


「ん、お供がいるってことは、人付きの勇者かな?

ほとんど付きなしの勇者なここではありがたい人材だよ」


「え、あ、いえ……僕は付きなしの勇者、です」


「じゃあ、自力で見つけたんだ。 すごいね」


 エルが首を横に振る。 いちいち説明していては話が進まないと思った俺は、話を切り替えるために話す。


「それで、まずここは何のための場所なんだ?

魔王の討伐と関わりが薄いように見えるが」


「そりゃそうだよ。 魔王とは一切関係ないからね」


「関係ないって……」


 どういうことだ。 と聞くよりも前に、流水は喉から言葉を発する。


「そもそもさ、私たちが魔王を倒すために動くのっておかしいよね。 別の世界の人なんだから、ここの世界の人でどうにかするのが正しいと思うんだよ」


 夕永が尤もであると言うように頷く。

 予想を遥かに超えた言葉に驚き、エルの方を向くとエルと目が合う。


「そのために呼ばれたんじゃないのか?」


「そっちが勝手に呼んだだけなんだし、従う必要もないよね」


 そういうものなのか。 いや、そういうものだったとしても、明らかに違法な村作りをしているのはおかしな話だろう。 帰る方法は簡単なのだから、嫌ならば帰ってもいいはずだ。


「……そうか」


 しかし、敵対しにきたわけではないので反論はせずに納得したフリをする。 エルも同様に不信感を抱いているようだが、俺のようにそれを表層に出すことは一切なく頷いている。


「そうだよ。 それで、ここに住んだりする?

……ゆうゆう曰く、すごく有用な能力だって言うから、特別に勇者じゃないこっちの男の子も住まわせてあげるけど」


 エルは少し悩んでから答える。


「少し滞在させてもらってから決めてもいいですか?」


「うん。 いいよいいよ。 住み良い村だから、すぐに気にいると思うよ」


「ありがとうございます」


「今日の夜、エルちゃんの歓迎会するから、来てくれると嬉しいな」


「ん、そこまでしていただかなくても……」


「子供は大人に甘えてたらいいの、気にしない!」


 わりと本気でエルが嫌がっているのが分かるが、流水は無理矢理押し通す。

 気に入らない人物であることを確認してから、流水が夕永に空き家に案内してあげてと言って、夕永が頷く。


「すみません。 家の用意までしていただいて」


「いや、気にしないでいいよ。 能力活かしたらわりとすぐに出来るしね。

それに、魔法も使える人が出てきてるし、知ってる? 魔法」


「ええ、まぁ」


 エルは誤魔化すように言う。 知っているどころか下手な魔法使いよりも多くの魔法を使えるようになり、自作も出来るようになっているのだが、下手にそれを言うことも良くないだろう。 指導を頼まれて無駄に時間の消費をしてしまうかもしれなければ、それを理由にこの村に押し留めされるかもしれない。


 多くの勇者たちから見世物か何かのように遠巻きから見られる不快さに耐えながら、夕永に紹介された空き家の中に入る。


 クローゼットとベッドが一つ置いてあるだけで、他には何もない部屋が一つ。 あの流水の家のようにそのまま寝室という造りではないが、短い廊下とものすごく簡易な台所と簡易なトイレがある。


「その……中々立派ですね」


「無理は言わなくていいよ。 まだ技術も機材もないから色々改良予定だからね。

えと、鍵は後で持ってくるから、荷物とか下ろしててね」


 そう言ってから夕永は部屋から出ていく。エルは小さく息を吐いてからベッドに座り込み、俺は荷物を下ろす。


 エルの横に座り込みたいところだが、いつ夕永が戻ってくるか分からないので諦めてそのまま立っておく。


「すみません。 勝手に滞在を決めてしまい」


「いや、これが一番だろう。 話を聞くだけでは分からないことが多くあるだろう。 滞在するのが一番確実に分かる」


「そう言っていただくとありがたいです。 ……ここに滞在してる時にちゅーとかしませんからね?」


「何故だ!?」


「……僕の住んでいた国だと、子供とそういうことをすることにすごく反応する人がいるので、もし見られたら大変なことになるかもしれないので」


「部屋の中だと問題はないだろう」


「合鍵ぐらい持ってるでしょうから。 室内だからって安心は出来ないですよ」


「じゃあ、街の方に言って、宿を取って……」


「すごくいやらしい感じがするので却下です。

宿だって高いんですから、そんなことでお金を使わないでください」


 エルが呆れたように溜息を吐き、俺はまた我慢することになるのかと溜息を吐き出す。

 しばらくエルと二人ではなしていると、扉が叩かれたので扉を開けて夕永を入れる。


「お待たせ。 これ鍵ね。

基本的に自由に使っていいけど、壊したりするのはダメ。

あとこの村ではできるだけ日本の法律を中心にしたルールだから」


 エルは夕永の説明に頷く。

 その後も諸々の説明をした後、一気にこれ以上説明をしたら疲れるだろうと一旦夕永は出て行った。

 明日にでも説明するらしい。


 そろそろ夕に近くなってきているので、早く寝る準備を始めるべきか。 何もない部屋を見回してエルは呟いた。


「ガラスの窓がそのままあるので、とりあえずカーテンを付けましょっか。 カーテンに使えそうなのって、毛布ぐらいですか?」


「ああ、そうだな。 他は壁に付けたりは難しそうだ。 毛布はベッドにもあるから、丁度いいだろう」


 エルの可愛らしさに釣られて覗きに来る奴がいるかもしれないので急いで窓から見られないように毛布を貼り付ける。


「……窓がないと暗いですね」


「そうだな」

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