91.頭痛で頭が痛くなるほどの書類
頭が頭痛で痛く
上記部分に「言葉がかぶっている」と修正依頼が入りますが、これはわざと強調している文言です。そのため「・」を付けて強調している状態です。作者の意図があって行った文章ですので、誤字脱字報告はご遠慮ください。
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いざとなれば全部押し付けるつもりだった。モーリスはどこへ行った! アディソン王が最期に叫んだ言葉が、報告書に並ぶ。利用できるから異母弟に便宜を図った。その話も、王城に勤めた者から漏れた。
先代王妃により、血の繋がりが途絶えていたことが公表されると、王家への怒りが爆発した。すでに王と王姉が処刑されていたことは、当人達にとって幸いだ。そうでなければ、長引かせた残忍な処刑の可能性もあったはず。
元王家が所有した財産は、一時的に神殿預かりとなった。リヒター帝国が接収した、王国貴族の財産は分配が決まる。民はアディソン領として、リヒター帝国への併合を望んだ。
お父様が手続きや調整を進める中、フォルト兄様は現場で走り回っているらしい。逃げる貴族を追い回して投獄し、統治者のいない土地が荒れぬよう兵士を派遣する。副官のハイノには、特別手当を支給しましょう。
エック兄様と打ち合わせ、細々としたサポートを始めた。約束していたクラウスも合流し、三人で問題点を洗い出す。伏兵の懸念から始まり、新たな領地の管理に係る費用の算出、今後見込める収益の計算……。頭が頭痛で痛くなりそうなほど、膨大な書類が積み上がっていく。
「問題が起きてから対処していてたら、間に合わないわ」
アディソン領は、周辺国に比べると土地は小さい。だが、地図ではわかりにくい問題を孕んでいた。人口密度が高いのだ。平地にあり、山脈は国境にしかない。半島のように両側が海と接しており、ほとんど高低差のない領地だった。
これで草原や穀倉地帯なら問題ないけれど、ほとんどが人の住む街で埋め尽くされた。街道沿いの街としての価値しかなく、食糧の自給自足は到底無理な土地よ。なぜ農地を潰して家を建てたの? 計画性が無さすぎるわ。
かつての無能な王族を罵りながら、食糧計画と同時に、住民の調整を書き殴った。農民として働く気があれば、周辺国に移住させるしかない。人が減れば、空いた土地に麦を蒔いて牛馬を飼うこともできるでしょう。
「戦後処理が一番大変と聞くけれど……戦ってないのに、不条理だわ」
なぜ戦後処理レベルで、大変な事務仕事が発生するの! 量が多過ぎて、食事すら片手間に済ませる状況だった。この数日、忙し過ぎて……愛娘ジルヴィアの顔を見るのも夜中なのよ。
ぼやきながらも、手は止めない。書類を全部投げ飛ばしたい気持ちを、ぐっと呑んだ。やったらスッキリするけれど、片付ける時間が惜しいわ。
「神殿より封書が届きました」
「そこへ置いて頂戴」
先に署名を終わらせる。処理済みの箱に入れて、ペンを置いた。未処理の箱に入った封筒を拾い上げる。紙ばかり触っているから、指先が荒れたわね。乾燥した気がする指で、ペーパーナイフを手に取った。さっと滑らせて、封蝋を破る。
取り出した書類は、お願いした許可書だった。アディソン領の新しい大神官を指名するために、必要な書類よ。それぞれの大神官が推薦状を提出する。今回は緊急事態であることに加え、アディソン領が国から格下げになったため、叔父様の許可書で任命が可能だった。
民を誘導した神官の名が入った許可書を、くるりと巻いて筒に入れた。伝令に持たせる時は、筒のほうが便利なの。蓋をして上から紙のテープで封印する。アディソン領行きと記して、処理済みへ積んだ。
「ヴィクトーリア様、人気店の新作をお持ちしました。ともに味わう栄誉をいただけますか?」
ノックして入室したクラウスが、笑みを浮かべて促す。時間をよこせと直接言わないところが、彼らしいわ。ペン先を洗ってインク瓶を閉じた。今日は終わりにしましょう。目元を指で解し、彼の手を借りて立ち上がった。
扉の陰から窺う侍女エリーゼが、ぐっと拳を握る。相当心配させたようね。声をかけにくかったみたい。
「ふんだんに苺を飾ったチーズのタルトです、お好きでしょう?」
「まあ。いつ調べたのかしら? でも、好きよ」
二つの意味を込めて返し、にっこりと笑った。




