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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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66.二人とも名前の変更が必要よ

 クラウスは表宮にいた。新築している屋敷の変更申請を出しに訪れ、入宮記録で気づいた侍従が手紙を渡す。そのため、お茶の二杯目に口をつける前に、顔を見せた。


「早かったわね、クラウス」


「はい、愛しい姫をお待たせするわけにいきません」


 あなたの如才ないところ、結構好きよ。微笑んで椅子を勧める。きちんとガブリエラ様にもご挨拶をしてから、彼はゆっくり腰を下ろした。


「見ろ! 未来の父上だぞ」


「ガブリエラ様、ルヴィ兄様が義父ですわ」


「赤子の前で難しい話などなしじゃ。のう、オリーヴィア」


 名を口にした途端、用意されたお茶のカップを持ったクラウスが固まる。少し考え、渋い顔になった。


「イングリット皇女殿下は、オリーヴィア様に改名なさるのですか?」


「ええ、そうよ……なにか……あ!」


 私も気づいて声を上げる。きょとんとしたガブリエラ様へ、クラウスは申し訳なさそうに切り出した。


「とても綺麗なお名前ですが、皇帝陛下の婚約者になられたザックス侯爵令嬢と同じお名前かと……」


「なんと! ならば、ザックスの娘が名を変えるしかあるまい」


 そちらですか。驚いたが、すぐに思い直す。帝国貴族の男性は「ヴィ」が禁じられるが、女性には厳しい制限がなかった。そのため、過去の女帝にあやかり名をつける親もいる。


 生まれた貴族家の男児に「ヴィ」を与えれば、それは反逆罪として扱われる。女性は他国や他家に嫁ぐため、家を継ぐことが少ない。稀に継ぐ場合もあるが、その際「ヴィ」が使われていれば、改名するのが決まりだった。家を代表する当主に「ヴィ」を使うことができないのだ。


 皇族入りする令嬢に「ヴィ」が入っていれば、問題になる。オリーヴィアは順当に行けば、ノイベルト公爵夫人になる予定だった。妻は当主ではないため、改名の必要はない。それが皇帝の妻となれば話は別だった。


「義理の娘がかつての自分の名前なのも難しいわね。ガブリエラ様、他に候補はありませんか?」


「良い響きで気に入ったんだが……揉め事の種を蒔くこともあるまい。ジルヴィアはどうか」


「そちらにいたしましょう。クラウス、ありがとう」


「いえ。ザックス侯爵令嬢にも、陛下が新しい名を授けられてはいかがでしょうか。きっと喜ばれます」


「ふむ。姑が名を決めて良いものか。彼女を呼んで話すとしよう」


 微笑んで頷くに留めた。一般の貴族令嬢は、前皇妃に言われたら断れない。まあ、オリーヴィアなら断るかもしれないわ。危険だから、その時は同席しておきましょう。


 ジルヴィアに変更となった旨、叔父様に連絡が必要ね。それから、神々へ届けた名も変更になるから、供物を捧げて守り袋を交換してもらわないと。


「クラウス、私達は夫婦になるのよね。一緒に過ごす時間を作りましょう」


 彼のほうも話を進めないといけないわ。頭の中であれこれと考えていたら、見透かしたようにクラウスは苦笑いした。


「お忙しいでしょうから、私は後回しで構いません。それと……手伝えることがあれば協力いたします」


 そうだわ! 巻き込んで手伝わせればいいのよ。裏切らない、私の性格も知っている、裏事情に詳しい。文句のつけようがなかった。


「協力してもらうとするわ。でも、まずは……逢瀬でもしましょうか」


「愛しい姫様の仰せのままに」


 イングリットを抱いたガブリエラ様は「そうじゃない、何か違う」と呟いていたけれど、仕方ないでしょう? これが私達の付き合い方ですもの。


 大きな池のある公園へ出かける話を決めた。豪華ではないシンプルなワンピースと、久しぶりのツバの大きな帽子。昼食はクラウスが店を予約する。準備万端なのに、当日の朝……アディソン王国が動いたと連絡が入った。タイミングの悪い連中ね。

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― 新着の感想 ―
オリーヴィアちゃんではなくジルヴィアちゃんへ!名前に気を遣うことが多いですね。でも、今度こそ問題なし!と思ってたら…娘さんの名前ではなく、恋路に問題(邪魔)が!馬で蹴飛ばしましょう!
アディソン王国「すまない、空気が読めなくてすまない・・・」
>タイミングの悪い連中ね。  人の恋路を邪魔する者め! はよう馬に蹴られてしまえ! プンスコ≡3 
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