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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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65.仲良くやっているのか?

 正式な名を賜るには、大仰な儀式がある。大神官に神々への繋ぎを頼み、神殿内で名付けの儀式を行うのが通例だった。皇族や一部の貴族の嫡子などが、稀に名を変えるの。


 厄落としであったり、嫡子確定の儀式であったり、その家によって位置付けは異なる。リヒテンシュタイン一族にとっては、皇位継承権の変更を意味した。皇太子に選ばれた者が、偉大な先祖の名を継承する場合がほとんどよ。


 イングリット・クリスティーネに「ヴィ」の響きを使わなかったのは、皇位継承権が高いことを知られないため。アディソン王国内で、五年我慢したら帰る予定だった。二年目に子が生まれたから、残りは三年。三歳なら、呼び名を変えても幼子は馴染む。


 向こうにいる間に、誰か王族の子と婚約させられたりしないよう。妊娠中から、細心の注意を払ってきた。その努力が結実して、ようやく皇族らしい名を与えられる。


「オリーヴィアはどうか。六代前の女帝陛下の御名だ」


「ありがとうございます、ガブリエラ様」


 腕に抱いたイングリットの顔を見ながら、ガブリエラ様は柔らかく微笑む。こうしていると、きつく見える顔が聖母のよう。眦がすこし下がるだけで、こんなに印象が違うのね。


「名付けの儀は、ウルリヒで構わぬか?」


「はい、叔父様にお願いして準備を進めております」


「おやおや、オリーヴィア。そなたの母親は忙しいことだ」


 まだイングリットなのだけれど、そんな無粋は口にしない。横から覗き込むフォルト兄様を見ても、娘は泣かなかった。気が強いのか、豪胆なのか。なんにしろ、皇帝の玉座に相応しい資質だわ。


 叔父様には手紙を出し、早めに儀式を行うようお願いしましょう。アディソン王国を片付ける前に、縁を切らせるほうがいいわ。


「ローヴァインの坊やとは、仲良くやっているのか?」


 突然振られた話題に、一瞬ついていけなかった。パチリと瞬きし、眉根を寄せる。


「放置しておるのか。トリアが好きすぎて、結婚もせず待っていた男だぞ。もう少し構ってやれ」


 あれは有能な男だからな、そう笑うガブリエラ様の姿に、肩から力が抜けた。身構えてしまったわ。これが私のいけないところ、玉座に見合う器がない証拠よ。ある程度器用にこなすけれど、どんと構えて受け流す度量がない。小物なのね。


 自分を淡々と評価して、イングリットをあやすガブリエラ様を見つめた。この方がリヒテンシュタインの血を引いていたら、当代は女帝だったでしょうに。


「クラウスも儀式に呼びましょう。それなら家族として遇していると喜ぶでしょうし」


「そういうところだ。もっと情をかけてやれ。夫は妻が育てるものだぞ」


 帝を育てる臣下のように、細々と気を配って上手に育て上げろ。ガブリエラ様に以前言われた言葉が蘇る。あれは結婚前だったわ。懐かしい言葉は、モーリスに対する忠告ではなかったのね。


「お気遣い嬉しく思います。では……明日、イングリットの世話をお願いできますか? クラウスと二人で過ごしてみますわ」


「それはよい」


「お、俺はどっちに行けばいい?」


 フォルト兄様が忙しなく私達の顔を見て、嘴を突っ込む。こういう空気が読めないところ、フォルト兄様らしい。憎めないのよね。


「フォルト、そなたは国境だ。副官と交代して休暇をやれ」


「おう! 儀式には呼んでくれ」


 じっとしているのが苦手なフォルト兄様も、参加して関わりたい。その気持ちは知っているから、もちろん呼ぶわ。約束したら、嬉しそうに部屋を出ていった。支度をしてすぐに出かけるのは、ガブリエラ様の教育の成果ね。


 二人で会うなら、逢瀬なのかしら。どこへ行きたいか、予定は空けられるか。いっそクラウスを呼びつけたほうが早いかも。考えながら、短い手紙を記して伝令を出した。

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― 新着の感想 ―
50話でオリーヴィアという侯爵令嬢を皇妃にする話あったけどイングリットをオリーヴィアにするのは問題では? 義母と義娘が同じ名前?
皇妃になる予定の侯爵令嬢もオリーヴィアですよね ヴィがつくのは皇族だけ、という暗黙のルールとかはなく誰でも付けれるってことでしょうか あと、一応は義母になる関係なのに同じ名前だとややこしそう
ヴィットーリアは自身に『玉座に見合う器がない』と自嘲していますが、『玉座に見合う器』には二通りあると思うんですよね! 日本史に出てくる推古帝のように、鷹揚に構えて臣下を信頼して手綱だけ握る、ヴィットー…
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