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【書籍化決定】妻ではなく他人ですわ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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64.玉座に空白は許されない

 最初に動いたのは、エック兄様だった。アルホフ王国へ、国王らしき死体が見つかったと連絡を入れる。検分のために訪れた大臣は、氷室を兼ねた洞窟から運び出された死体を確かめる。


「間違いなく、国王陛下です……」


 死体には、敢えて手を加えなかった。裂かれた腹部はそのまま、突かれた首も塞いでいない。明らかに他殺とわかる死体は、大臣の検分を経てようやく「遺体」となった。


「ご配慮に感謝申し上げます」


 大臣は真っ赤に充血した目で、丁寧に礼を述べた。腐らぬよう遺体を安置したことは、帝国の誠意に見えるでしょう。顔がわからぬほど腐って、引き取り拒否されたら困る。そんな本音はおくびにも出さず、エック兄様はお悔やみを告げた。


 アルホフ国王の遺体は祖国へ送られる。黒幕が隠そうとした王の死は表沙汰になり、犯人探しが始まるはずよ。同時に、アルホフ王国は玉座に空白を作らぬため、王太子が即位する。彼らが王の死を隠した理由の一つに、政の空白を狙った可能性があるの。きっちり詰めて潰しに行く手腕は、エック兄様らしいわ。


「アディソン王国は動かないなぁ」


 残念そうにフォルト兄様が唸る。国境が比較的近いとはいえ、毎日のように往復しているのに元気だった。


「国境の管理は大丈夫なのかしら」


「もちろん。有能な部下がいるからな! ハイノに任せれば、問題ない」


「そこは、俺がなんとかすると胸を張るところでしょう?」


「ハイノは俺の右腕だからな」


 はっはっは、豪快に笑うフォルト兄様は、中庭のベンチで部下を誇る。信頼関係の危うさを指摘したいけれど、フォルト兄様の直感はバカにできないのよ。フォルト兄様が信じられると判断したなら、全く問題ないでしょうね。


「フォルトはいつまで経っても、変わらぬ」


「義母上もお美しいままですぞ……あ、もちろんトリアもだ」


 珍しくお世辞を口にしたと思えば、私に言及したことで台無しね。ガブリエラ様は喉を震わせて笑い、手元の菓子皿を押した。


「食べろ、フォルト」


「有り難く!」


 皇族の振る舞いを教えても抜けてしまうフォルト兄様に、短く言葉を切るよう教えたのはガブリエラ様よ。皇子らしい傲慢さとして誤魔化したけれど、単純に全部話すと平民みたいに崩れてしまうの。


「それで、私はどこまで関与させてもらえるのかな?」


「乗り込む役など、いかがでしょう。フォルト兄様を従えれば、威厳も増しましょう」


「ふむ。一番目立つ役か……派手に暴れるとしよう。マインラートも連れていくぞ」


 お父様もご一緒……なら、少し作戦変更が必要ね。


「承知いたしました。配役はお任せくださいませ」


「トリアの配役とあらば、あやつも張り切るであろうよ……それより、イングリットはいないのか?」


「お昼寝の時間ですわ」


 ガブリエラ様の意識は、孫娘へ。初孫なので、可愛くて仕方ないみたい。愛されるのはいいことよ。


()()()()にお願いがありますの」


 ガブリエラ様と呼ばなかったことで、何か察してくれたみたい。真剣な眼差しを向けられた。そう、血腥(ちなまぐさ)い謀略などではなく、家族間の大切な相談よ。ガブリエラ様なら喜んで引き受けてくれる。


「イングリットの皇女としての名を、新しく賜りたく……お願いできますかしら」


「ほほぅ……このリヒター帝国を祖国とする、新たな皇女の誕生だな」


「はい。相応しい名と地位が必要ですわ」


 女帝は前例があるため、さほど問題にならない。だがイングリットの名は、隣国で授けた響きだった。このリヒター帝国の玉座に相応しい「ヴィ」の響きを含んだ名が必要よ。


 義祖母であるガブリエラ様が名付け親となれば、帝国であの子の出生に異論を唱える者はいない。


「よかろうよ、良い響きを与えよう……ゆえに、顔を見に寄っても構わぬか?」


「ふふっ、どうぞ。フォルト兄様もいらして」


 お菓子を詰め込んだ頬で頷く兄と、わくわくしている義母を連れて……私はイングリットが眠る部屋に向かった。

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― 新着の感想 ―
そのために遺体を保管してたんですね!相手が誠意だと思えば、誠意です!wどんな考えでもバレなきゃ問題なし!w イングリットちゃんの新しい名前…楽しみです!
アルホフ王國の國王暗殺を企み、実行した黒幕の思惑を潰す訳ですか〜 黒幕を炙り出す為に必要ですね♪ オーストリア皇女マリア・アントーニアがフランス王妃になる為に輿入れした際、マリー・アントワネットと仏…
アルホフ国王、体だけでも国に帰れてよかったね…
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