40.派手で豪華な婚約式をしましょう
一人だけ生かされた神殿騎士の使い道を聞いたら、お父様は目を逸らした。ガブリエラ様は妖艶に微笑んだまま、扇を広げて顔の下半分を隠す。まだ話せないのね。
「私の邪魔になることはありませんの?」
「それはない」
お父様が言い切ったことで、ある程度想像がついた。帝国の大神官が主軸となって、神殿全体が動く。その話を伝えさせるのではないかしら。情報を与えた上で、処刑すると脅して牢に入れる。鍵のかけ忘れなど、初歩的な手段で逃走させる。
アディソン国王はもちろん、後ろにいる国々に届く頃には、信憑性の高い事実として伝わるでしょう。そちらへ予想を引っ張った上で、神殿が動きを見せれば、彼らは納得する。やっぱりそうなった、と情報に溺れるの。
いくつか他の情報も与えて、最後に嘘で混乱させるおつもりね。情報戦はお父様の得意技だった。ガブリエラ様はフォルト兄様と似たタイプで、自ら切り込んでいく。正反対の二人だから、上手に噛み合った。
「仲間外れは寂しいですが、我慢しますわ」
「おやおや、私の娘は随分と愛らしいことを言う」
にこりと笑顔を作ったガブリエラ様に、拗ねた表情で応じる。
「次は仲間に入れてくださいね」
「もちろんだとも」
ガブリエラ様との会話は、侍女や侍従もいる場で交わされた。この中にも情報収集する間諜がいる、とお考えなのね。立ち上がって帰ると告げた私に、ガブリエラ様は付け足した。
「イングリットに会いにいくゆえ、今日は時間を作ってくれぬか?」
「歓迎いたしますわ」
当たり障りのない会話で廊下に出る。ひんやりした空気を吸い込んで、大きく吐き出した。前の皇帝陛下と皇妃陛下、どちらも政に深く影響力がある。ルヴィ兄様が皇帝になった今も、あの二人の力は変わらないはず。
父と義母が私の娘である孫に会いたい。ごく普通の会話なのに、裏を探ってしまう。緊張が解けて、廊下に座り込みたいくらいよ。
奥の宮を出て、住居スペースの中の宮に入った。待っていたように、ルヴィ兄様と遭遇する。
「トリア、婚約式だが……派手に豪華に執り行いたい。どうかな?」
並んで歩きだしたので、やはり私を待っていたのでしょうね。婚約式は家族だけで行うことが多い。結婚式と違い、お披露目ではないのだから。今回はわざと大規模に行い、各国の大使も招く予定かしら。
きっとエック兄様の作戦だわ。
「クラウスには私から話します。大広間を使わせてくださるの?」
「もちろんだ。謁見の広間でもいいが、縦長で使いづらいからな。大広間を飾りつけよう」
国の重要な儀式や祭典で使用する大広間の使用許可が出た。神殿も巻き込んで、他国の使者も間者も大勢いる場所で、発表しましょうか。敵対国への宣戦布告を潜ませて、でも……民が傷つく戦闘は行わない。
こういった策略は私の得意とする分野よ。美しく着飾って、お兄様達も扇の上で転がして差し上げましょう。




