199.満たされると知っていれば手を離せる
こういうのは、フォルト兄様の面子に関わる。だからクラウスが単独で対応することにした。ガブリエラ様はともかく、男性親族には内緒にする予定よ。ルヴィ兄様は失敗したなと思う程度でしょうね。でもお父様は絶対に揶揄うわ。エック兄様だって説教しそうだもの。
知らないと自分で口にできただけで、褒めてあげる状況だった。フォルト兄様は自分が脳筋で、頭の回転がよくないと思っている。実際は、興味がないことに見向きしないだけじゃないかしら? それなのに、頑張って聞いたのよ。誰かが余計なことを言ったら、気にしてしまう。
わからないことがあった時に、黙ってやり過ごそうとしたら危険だわ。そもそも私達に相談した理由が、知ってそうな経験者で……クラウスが信用できるから、だそう。人を見る目はあるのよね。こういう部分はルヴィ兄様に似ているかも。
フォルト兄様をクラウスに預け、私はルヴィ兄様達の馬車に乗った。アデリナはガブリエラ様と一緒に宮殿へ戻る。クラウスが迎えに来るまで、ジルヴィアと過ごしたかった。一時期は他人になろうと決めたのに、今思うと不思議だわ。
どうやったって、離れられない。もしマルグリットに預けて身を引くと決めても、ことあるごとに視線で追うでしょうね。駆け引きも吹き飛んで、ジルヴィアを優先する。マルグリットはその部分を想像していて、私に提案してくれたのだと思うの。
中の宮、東側はジルヴィアの宮になった。主寝室だった私の部屋はそのまま残され、ジルヴィアの部屋の位置も変わらず……わずか数日なのに、懐かしい気がする。
あぶぅ、ぐっ。挨拶かしら? 口に手を突っ込んで、声を上げてからその手を引き抜いた。びっくりするほど手を口に入れていた。頬が伸びてないか心配になるほど。アンナの報告を聞きながら、這い這いする娘を見守る。
しばらくして、迎えに来たクラウスと退室した。後ろ髪を引かれるかと思ったけれど、そうでもないわね。いつでもまた会えるから、気持ちが楽だった。帰りの馬車で、クラウスに聞こうか迷う。でも何も言わずに屋敷まで帰ってきた。
任せたのは私、だったら後からあれこれ尋ねるのは失礼よ。彼はきちんと己の役割を果たしたんだもの。明日のフォルト兄様の様子で、ある程度判断できるわ。夕食を食べ、ともにベッドに寝転がる。抱き合った状態で、彼の声が上から響いた。
「明日は大丈夫だと思います」
「そう、ありがとう。クラウス」
今夜はただ抱き合って眠りたいと訴えるクラウスに、私もよと返す。いつでも抱き合える、いつでも会える。だから感情は納得するの。貪らなくても手に入ると、理解した。
「それと……エック殿が途中で合流されまして」
「え?」
「寝室でどんな会話をすればいいか、ご相談を受けました」
二人の兄は揃って何をしているの。クラウスに期待しすぎではなくて? きっちり言ってやりたいけれど、我慢が正しい。ルヴィ兄様が交じらなかっただけマシね。
「なんて答えたの?」
「コルネリア殿のどこが好きか、お話ししてはどうかと。本日の装いはとても綺麗だったと褒めるのも忘れないように伝えました」
「……正論ね」
ぽつりぽつりと言葉を交わすうちに、眠くなってくる。重なった体温と触れ合った肌の心地よさ、安心できる腕の中で……クラウスの鼓動に耳を澄ませた。明日も早く起きて準備しないと……アデリナの艶姿が楽しみだわ。




